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スマートで大人のジャズ

聴きたい新譜ラッシュはほぼ終了。まだメセニーの新譜紹介を書いていないのですが、メセニーらしい仕上がりの1枚ということで終わってしまいそうです(笑)。で、今日は別の新譜を紹介。

P188 アーロン・ゴールドバーグギレルモ・クライン『BIENESTAN』(2010年rec. SUNNYSIDE)です。メンバーは、アーロン・ゴールドバーグ(p)、ギレルモ・クライン(fender rhodes)、マット・ペンマン(b)、エリック・ハーランド(ds)、ミゲル・セノーン(as)5曲、クリス・チーク(ts,ss)3曲、です。ピアノとエレピのコンビに、ペンマン&ハーランドの強力リズム(ジョシュアの『ジェイムス・ファーム』と同じ)、そこにセノーンとチークが華を添えるというなかなか興味深いメンバーになっています。

ゴールドバーグの演奏が前面に出て、クラインは作編曲主体で陰になり日向になりゴールドバーグをバックアップする作りになっています。クラインが演奏していない曲が何曲かあり、演奏していてもサウンド・エフェクト的。スタンダードなどとクラインのオリジナル曲が混ざり合っっていますが統一感はあります。スマートで大人の高品位ジャズという感じです。このサウンド・カラーはクラインが志向するものだと思います。

このメンバーですから尖ったこともできるのに、もっとしなやかで柔らかく包み込むような感じになっているのが私は好きです。どうも最近の私はいわゆるジャズ・フォーマットでソロを回してアドリブを競うものよりは、こういう感じのアルバムに惹かれる傾向にあるみたいです。その一方で尖りまくったものも無性に聴きたくなったりしますが(笑)。尖りアルバムではティム・バン、ジム・ブラック、ネルス・クラインの『ザ・ヴェイル』が良かったので近日中にUPします。

冒頭はベタな《オール・ザ・シングス・ユー・アー》ですが、これが変奏されていてなかなかカッコいいのです。微妙な捻り具合が大人を感じさせます。それもゴールドバーグのピアノ・ソロです。結構意表を突いていますよね。続くクライン作の《インプレイカブル》はゴールドバーグのピアノとクラインのエレピとのデュオ。メカニカルでクラシックの練習曲みたいです。これが無機的にならず親しみが湧くのが面白いです。

3曲目はパーカーの《ムース・ザ・ムーチ》。これがテンポやリズムをトリッキーに変えて演奏されています。セノーンのアルトをフィーチャしたワン・ホーン・カルテット。やっぱりこの人達、一筋縄ではいきません。トリッキーで技術を見せる演奏なのに、いやみなく聴かせるのが面白いです。ハーランドのドラミングは素晴らしいです。4曲目《ブリット》はクライン作の哀愁メロディー。ゴールドバーグのピアノが温かく美しいです。サウンド・エフェクト的に軽く化粧を加えるクラインのエレピが何ともお洒落。

5曲目はクライン作《ヒューマン・フィール》。カリブか南米かラテン系のエスニックサウンド。セノーンとチークが加わって、最初から最後までアンサンブルのみで通してしまいます。凝ったアンサンブルと折り重なるリズムを聴かせる曲です。6曲目もクライン作で《アニタ》。これはコンテンポラリーな美メロ曲。セノーンとチークの落ち着いたソロが聴けます。クラインはやっぱり隠し味程度にエレピを弾いています。

パーカーの《ブルース・フォー・アリス》をゴールドバーグの美しいピアノやセノーンの軽やかなアルトを生かしつつ微妙にテンポを揺らせてスマートに演奏したり、《黒いオルフェ》をここでも軽く変奏を混ぜてピアノ・トリオでしっとりアダルトに聴かせたり、クラインがエレピをバイブラフォンのように響かせてメルヘンチックに演奏したり、《黒いオルフェ》を変拍子の違うアレンジでやってハーランドのパーカッション的ドラム・ソロをフィーチャしたりと、色々な工夫や捻りが凝らされています。

その色々な工夫や捻りは決していやみには聴こえず、細かいところを気にしないで聴けば、1曲が短めであることもあって次から次へと場面が展開して物語が進むように聴こえます。トータルではスマートで大人の高品位ジャズなのです。このメンバーですから技を前面に出して聴かせられるのに、そうせずに技を隠し味的に使うセンスが私は気に入りました。これはやっぱりクラインのセンスによるものでしょう。

とても良い雰囲気のジャズです。「違いが分かる男の・・・」です(笑)。
かなりカッコイイ!

アルバム名:『BIENESTAN』
メンバー:
Aaron Goldberg(p)
Guillermio Klein(fender rhodes)
Matt Penman(b)
Eric Harland(ds)
Miguel Zenon(as, M-3,5,6,7,11)
Chris Cheek(ts=M-5,6, ss=M11)

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