精鋭を集めて作ったジョシュアの新譜
今日は 甲府「桜座」 に大西順子トリオが来ます。2年ぶりだったかな?もちろん観にいきますよ。今回も混むんだろうな~。
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ジョシュア・レッドマンの新譜が出ました。2年ほど前、問題作『コンパス』を出して世間を賑わしたジョシュア。さて今回はどうなるのでしょう?精鋭を揃えたカルテットでの登場です。
『ジェイムス・ファーム』(2010年rec. NONESUCH)です。メンバーは、ジョシュア・レッドマン(ts,ss)、アーロン・パークス(p他)、マット・ペンマン(b)、エリック・ハーランド(ds)です。現代ワン・ホーン・カルテット。このメンバーですから、誰か一人に興味があれば買いでしょう。
自身のリーダー作『インビジブル・シネマ』で才気を見せたパークス、このアルバムでバックを務めていたのはペンマンとハーランドでした。そのペンマンとハーランドはSFジャズコレクティブのリズム隊。昨年出たハーランドのライブ盤『ヴォヤジ』も聴かせるアルバムでした。メンバーを見れば期待が高まろうというものです。
ジャケット内側の写真がカッコイイので掲載します。左からペンマン(何となくクリポタに似てないですか?)、ジョシュア、パークス、ハーランド。どうです。なかなか良い面構えじゃありませんか?黒人と白人混合のイケメン達。現代のジャズを象徴するような写真だと思います。さて、肝心の音楽はというと。
ジョシュアが3曲、パークスが3曲、ペンマンが3曲、ハーランドが1曲持ち寄って、全10曲メンバーのオリジナルをやっています。それぞれ構成がしっかりした曲です。ジョシュアがリーダーなんでしょうけれど、それぞれ対等な立場でグループの音楽を作っていこうということなのだろうと思います。『コンパス』のような問題作ではないです。現代ジャズの1枚。
1曲目《コックス》はペンマンの曲。曲想はヴィジェイ・アイヤの『リイマジニング』の根暗パワーのタイトル曲と似た感じでした。不安げなエスニック・メロディー。でもそれほど暗くはないのでご安心を。変拍子炸裂です。ジョシュアは終始落ち着いて吹奏”スラスラヒラヒラ”。ダークなトーンの美メロを奏でるパークス。ベースは強くて沈んでいます。ドラムのパタパタ感は今時リズムですね。ガッツリな出だしに意気込みを感じます。
2曲目《ポリーウォグ》はジョシュアの曲。これってジョシュアが参加していたブラッド・メルドーの『ハイウエイ・ライダー』に入っていそうな曲ですよね。こういうところがジョシュアの節操の無さだと思う私です(笑)。コンテンポラリーな部分においてポスト・メルドーなパークスのピアノが冴えます。ジョシュアのソロは浮ついた感じはないですが、個性という面ではちょっぴり魅力不足かも?ドラムンベース系のリズムです。パーカッション的ドラム奏法。ラストに軽くオルガンが隠し味的に入ってます。
3曲目《ビジョウ》はパークスの曲。カントリー/フォーク調のワルツ・バラード。現代のジャズは黒人文化ではなくアメリカ文化なのです。ジョシュアの落ち着いた歌いあげは中々良いのではないでしょうか。パークスの微哀愁ソロが始まったかと思うとすぐに終了してしまうのが残念。
4曲目《クロノス》はパークスの曲。陰影感ある哀愁エスニック・ワルツ曲。なかなか推進感がある気持ち良い曲です。後半は少し沈み加減のサウンドにもなります。今回はジョシュアの丁寧な吹奏が印象的。静かに入ってだんだん盛り上げる後半ソロは気持ち良いです。パークスはちょっとダークで陰影感ある美を放っています。後半にはシンセを軽く用いてサウンドに深みを与えるあたりにパークスのセンスの良さを感じます。ラストのハーランドのドラム・ソロもニュアンスを大事にしつつパワーがあるもの。
5曲目《スター・クローズド》はジョシュアの曲。フュージョン系のクールな哀愁バラード。ジョシュアが静かにテーマを歌わせます。ニュアンスを大事にした繊細なパークスのピアノ・ソロが終わるとテンポ・アップして7拍子へ。ジョシュアがスラスラとテナーを滑らせ、後半は徐々に力強く盛り上がります。スローに戻ってペンマンの高音爪弾きソロからテーマで終了。
6曲目《1981》はペンマンの曲で明るめのポップなもの。タイトルどおり80年代フュージョン調なのかも?ジョシュアはマイケル・ブレッカーはやっていません(笑)。マーク・ターナー系スラスラ抑揚メロディー奏法。現代トリスターノ系と言えるかもしれません。こういうコンテンポラリーものはパークスも得意です。ちょっぴりアブストラクトなセンス良いソロを弾きます。時々被せるチェレステも良いアクセントになっていますね。
7曲目《I-10》はハーランドの曲。テーマにはユダヤ~東欧エスニックな匂いが漂っています。難しいリズム・フィギュアのつんのめりそうな変拍子。疾走感があります。ドラマーらしい曲ですね。このリズム感なんて正にヒップホップなんですよ。ベースはパルス的な短いリフの連続。ここではジョシュアもパークスも尖がったソロを展開しています。これはかなりカッコいいですね~。こういう曲をもう1曲くらい入れてほしかったです。
8曲目《アンレヴェル》はパークスの曲。浮遊感がある落ち着いた曲。メロディーからはどことなくウェイン・ショーターを感じる私。クールでちょっぴり神秘的な部分も感じます。私が好きな美的感覚。演奏はジョシュアもパークスも丁寧に音を綴っています。
9曲目《イフ・バイ・エアー》はジョシュアの曲。オルガンの持続音が物語の始まりを感じさせます。6/8拍子の曲ですね。軽いひねりを感じる軽やかな美メロのテーマ。ベース・ソロから。ピアノ・ソロ、ジョシュアのソロと続きます。ハーランドの小技の効いた軽快なドラミングが演奏にドライブ感ももたらしています。ジョシュアのソロが続いてフェードアウト。
ラスト《ロー・ファイブス》はペンマンの曲。ラストを飾るに相応しい詩的で静かな曲です。ピアノとベースの繊細な語らいが続いたあと、ジョシュアがソプラノ・サックスを持って静かに登場。静かに静かに入って後半へ向けて昂ぶっていくソロ。ジョシュアも地に足が着いて良い感じになってきたように思います。
内ジャケットをよく見たら、パークスがチェレステ、ポンプオルガン、プロフェット5(シンセサイザー)、フェエンダー・ローズ、ハモンド・ホームオルガンを弾いると書いてありました。う~む、なかなか凝っているではありませんか。
というわけで、全曲解説してしまいました。それもダラダラと(笑)。精鋭メンバーがアメリカ文化としての現代ジャズを丁寧にやっているアルバムでした。個々には難易度が高いことをやているんでしょうが、サウンドには特に難しいものを感じません。私はもう少し尖がったものを期待していたのですが、まっ、これはこれで良しとしましょう。
アルバム名:『JAMES FARM』
メンバー:
Joshua Redman (ts, ss)
Aaron Parks (p, etc)
Matt Penman (b)
Eric Harland (ds)
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コメント
スゴいメンバーが集まっていながら、メロディその他、聴きやすい曲が多かったです。でも、実は高度なことをちりばめているんだろうなあ、と思いつつ。
ドラマチックな感じで進行していくので、自分は情景描写的なものが頭の中に浮かんでは消えたのですが、これはもしかすると私だけかもしれません。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2011年6月 4日 (土) 11時00分
910さん
こんにちは。
聴きやすいですよね。
まずはそれがポイントでしょう。
やっていることは高度なのだろうと思います。
私はもう少し尖がった難しいものをやってほしいかったです。
>ドラマチックな感じで進行していくので、
それは私も感じます。
>自分は情景描写的なものが頭の中に浮かんでは消えたのですが、これはもしかすると私だけかもしれません。
私はそこまで感じなかったのですが、そう言われてみれば確かにそういう面があると思います。
TBありがとうございました。
投稿: いっき | 2011年6月 4日 (土) 11時10分
こんにちは。
トラバ、ありがとうございました。
これはね、始めはアーロン買いでした。
アーロンうまいけど、聞き終わったらジョシュアに心が奪われてました。
わたしは、だらだらといつも全曲しゃべってしまうんですが、いつか、三行でアルバムを言い表せるようなおばあさまになりたいです。
と、似てますか?
クリポタに。。。。??
投稿: Suzuck | 2011年6月 4日 (土) 12時14分
Suzuckさま
こんにちは。
トラバありがとうございます。
アーロン買いは私も同じです。
Suzuckさまのブログを読んで『インビジブル・シネマ』を買ってからファンになりました。
ジョシュアも最近は良い感じになってきましたね。
>わたしは、だらだらといつも全曲しゃべってしまうんですが、
そうですか?いつも上手い具合にまとまっていると思いますよ。私も見習いたいと思っています。
>いつか、三行でアルバムを言い表せるようなおばあさまになりたいです。
なるほど。三行。いいかもしれません。
>と、似てますか?
>クリポタに。。。。??
似てませんかね???(笑)
投稿: いっき | 2011年6月 4日 (土) 13時36分
いっきさん、初めまして、アーロン・パークスの『インビジブル・シネマ』、今度聴いてみたいと思います。このJames Farmって活きのよい、いいユニットですね。全曲解説、お見事です。「文化としての現代ジャズ」って、まさにアメリカの文化の最先端をいっている音ですね。トラバさせてくださいね。
投稿: kumac | 2011年7月10日 (日) 09時45分
Kumacさん
はじめまして。こんにちは。
コメントありがとうございます。
>アーロン・パークスの『インビジブル・シネマ』、今度聴いてみたいと思います。
是非。私は気に入っています。
>このJames Farmって活きのよい、いいユニットですね。
そうですね。これからの展開に注目していきたいです。
>全曲解説、お見事です。
ダラダラでお恥ずかしい限りです。
Kumacさんのブログを読ませていただきましたが、的を射た解説だと思いました。
>まさにアメリカの文化の最先端をいっている音ですね。
こういう先端ジャズ、嫌いな人もいますよね(笑)。
私は大好きですけど。
「JAZZ TOKYO」というサイトに悠雅彦さんが書いたレビューがなかなか面白いです。この手のジャズに対して未だに戸惑いがあるみたいです。視点も古い気がします。
以下のとおりです。
http://www.jazztokyo.com/five/five803.html
トラバ入っていないみたいです。
もう1度トライしてもらえませんか。
許可制にしてありますので、私がトラバに気付いて公開するまでに時間がかる場合もありますが、ご容赦願います。
投稿: いっき | 2011年7月10日 (日) 12時37分