「PCMジャズ喫茶」に寺久保エレナさん登場!(前編)
衛星デジタルラジオ 「ミュージックバード」 のPCM放送終了まであと1ヶ月に少々になりました。地上波アナログ放送終了日と同日7/24にPCM放送も終了します。JAZZチャンネルは「ミュージックバード」のもう一つのサービス「SPACE DiVA」に移行。番組編成はかなり見直されるみたいです。「PCMジャズ喫茶」はタイトルを変えて続いていくとのこと。私はどうするかといえば、「SPACE DiVA」へ乗り換えないので、「ミュージックバード」とは”さようなら”ということになります。結局ラジオってそれほど聴いている時間はないんですよね。有料放送なのでこれを機会に見切りをつけます。ブログにおいては「ミュージックバード」ネタで色々楽しむことができたので感謝しています。
さて、今日は「PCMジャズ喫茶」のレポートを久々に書きます。なぜなら話題のアルトサックス奏者 寺久保エレナ さんがゲストだったからです。「PCMジャズ喫茶」には色々なゲストが登場するのですが、ここのところどうもレポートするほど面白いものがなかったし(毎度同じ主張の繰り返しでマンネリですからね。笑)、なんか面倒だったのでレポートはしないできました。でも今回はなかなか面白かったのです。やっぱりミュージシャンがゲストだと、私的には興味深い内容になります。ましてや若手女性サックス奏者で今注目度が高い寺久保さんですから。今回はアルバムプロデューサーの伊藤八十八さんも来ていました。きっと寺久保さんが寺島さんにいじめられた時に助け舟を出すためについてきたのでしょう(笑)。
なお番組を聴きながらメモをとり、メモを基に思い出しつつ書いていますので、誤解しているところがあるかもしれません。あらかじめご了承願います。
寺久保さんは19歳になったばかりだそうで、「PCMジャズ喫茶」のゲストとしては最年少だそうです。いきなり楽器の話。寺島さんも昔サックスを買って練習したことがあり、《レフト・アローン》が好きで今でもメロディーを覚えている”レシファー、ミミファミ~”(だったと思う?)とか言って自慢しながら「今何を使っているの?」と質問。寺島さんならではの展開ですよね(笑)。セルマーを使っているそうです。いい音がするからだとか。「そんないいのを使ってるの。」と寺島さん。早速攻撃モード(笑)?伊藤さん(早速援護射撃)と寺久保さんは「いい楽器を使うと上手くなる。」と、寺久保さんは「悪い楽器だとまあこんなものかとなるけれど、良い楽器を使ってこれくらいの音しか出ないとなると更に良い音を出したくなるから。」と言っていました。寺島さんも「そういうことはよく言われますね。」と同意。まっ、これは掴みのトークなのでした。
寺久保さんの新作『ニューヨーク・アティチュード』の話題へ。良いということで珍しく寺島さんと岩浪さんは意見が一致したそうです。寺島さんが「ジャズ評論界の大御所二人が一致して良いと言っているんだから大したもの。」と言うと、寺久保さんからは戸惑いの反応があったようで、「そこで笑わなきゃ。大御所なんて大袈裟に言っているんだから。」と寺島さん。寺島さんが寺久保さんを和ませようとするのは分かりますが、戸惑う寺久保さんの気持ちも分かります(笑)。寺久保さんは「自分の演奏は良いと思わない。もっと上手く吹きたいと思う。」と言ってました。向上心が良いですね。「アルトがフルトーンで鳴っている。」と寺島さんと岩浪さん。「危なげがない。聴いていて危なっかしいともう聴きたくなくなっちゃうんだけど、それがないからいいよね。」と寺島さん。ここで寺久保さんが”危なげ”という言葉にちょっと反応。伊藤さんは「ミストーンがない。」とか言うと、寺島さんは「安心して聴ける。」と。いまいち答えになっていないような。寺久保さんは「危なげがある人、ジャッキー・マクリーンは好き。ピッチ悪いし”キーキー”いうけれど。」なんて言ってました。寺島さんは「それは分かる。別格だよね。」と。”危なげ”を巡る双方の微妙な意味合いのズレがあるんでしょう。寺島さんは褒め言葉のつもりなのに、”危なげない”演奏は当然で、それ以上を求めている寺久保さんとしては褒め言葉として捉えられなかったのかも?寺久保さんは「”キーキー”いう音は嫌いなので、出さないようにしている。」とも言っていました。
新作から曲をかけることに。曲は《インビテーション》。寺久保さんが好きな曲。ここで、新作のメンバーが凄いという話へ。「ケニー・バロン、ロン・カーター、いきなりこういうメンバーとやっちゃうともう先がないでしょう。」と寺島さん。伊藤さんが「ロン・カーターが向こうで待っていると言ってくれたんですよ。去年の東京JAZZの時に言われたから。」と言います。「こういうメンバーとやってどうでしたか?」と寺島さん。「考え方が違うんです。日本では「何でこんなに若くて小さい娘とやるの?」みたいなところもあるけれど、向こうは「あなたがリーダーだから悪いところは言ってくれ。」という感じで、音楽に対する考え方が違うんです。」と寺久保さん。寺島さんは「音楽に対して真摯なんだろうね。」と。なるほどね~。向こうは余裕があるんでしょうね。寺久保さんが出てきたからって彼らの地位は揺るがないわけです。そこへ行くと日本はモロに商売敵なわけです。複雑な心境もあるんじゃないでしょうか?寺久保さんは今回こういうメンバーとやって「私がもっと上手かったらもっと楽しいのに、もっと英語が喋れたら色々質問できたのに悔しい。」と思ったそうです。やっと曲へ。
確かに安定感がありますね。とても高校を卒業したばかりの娘とは思えません。ちょっと優等生的にも聴こえました。アルト・ソロではバックに煽られて後半徐々に強いトーン(キーキーは出さない)になっていくところが良かったです。で、バロンのピアノ・ソロになるとノリがより弾んできます。まあ、これは致し方なし。寺久保さんの今後に期待。
「凄い。素晴らしいね。」と寺島さんと岩浪さん。バックはケニー・バロン(p)、ロン・カーター(b)、リー・ピアソン(ds)です。アルバム中の3曲にドミニク・ファリナッチ(tp)が参加しています。
レコーディングのエピソード。寺久保さんはケニー・バロンやロン・カーターにダメ出ししたんだそうです。強く言ったりしたわけではないですが、レコーディングは一生残るので、言わなくて後悔しないようにそうしたんだそうです。英語はあまり喋れないけれど、通訳を通すと失礼だと思ったので、身振り手振りで必死に伝えたとか。寺久保さんのオリジナルのピアノやベースのアレンジが初見では無理なものだったらしいのですが、「何じゃこりゃ」と言いながらも何度も練習してくれたそうです。で、場が”ドヨ~ン”としてくると、ロンさんがジョークを言って和ませてくれたらしいです。たまたまその時付いたアバター・スタジオのエンジニアが日本人だったらしく、その人の話によると寺久保さんのように言う日本人は珍しいとのことだったとか。寺島さんをはじめ皆さんが「今時の人らしくていい。」と言っていました。私も同感。録音は2日で終了したそうです。
続いて寺久保さんが好きな曲。キャノンボール・アダレイの『イン・シカゴ』から《ライムハウス・ブルース》。「この曲のどこがいいの?」という寺島さんの質問に対して、寺久保さんは「キャノンボールの雰囲気を受け継いだコルトレーンのソロがいいとか、流れとか雰囲気とか、このCDで起こっていることが全部好き。」と回答。岩浪さんが「曲がいいのか演奏がいいのか?」なんて質問をするから、寺島さんが「評論家は変な質問するよね。我々はこういうことを考えたくなるんですよ。」と言いだ出します。ここでいつもの”曲と演奏”の話へ。寺島さんにとっては演奏の前に曲ありき。いい曲(メロディー/旋律)なくしていい演奏などあり得ないという話です。寺島さんが「メロディーが良くないと良いソロ(アドリブ)はない。メロディーの類似的旋律や断片が出てこないとソロが楽しめない。」と言います。岩浪さんから寺久保さんへは「曲を作る時は旋律が先か構成が先か?」なんてちょっとズレ気味の質問も。寺久保さんはちょっと困りつつ、「色々ありますが曲はメロディーから作ります。ソロをとる時はコードで吹いているのではなく、メロディーとコードの間で動いていくもので、コード進行ばかり気にするのは嫌いです。」と回答。まあ、どっちありきかというのも難しいのではないかと私は思います。
寺島さんが「コルトレーンのようにコードで吹くのは困りものだ。」と言うと、寺久保さんは「コルトレーンにもメロディーは聴こえてきますよ。マイルスもいくらぐちゃぐちゃになってもメロディーの中で吹いているように聴こえます。」と言います。寺島さんは「じゃあ今夜コルトレーンからメロディーが聴こえてくるかよく聴いてみますよ。多分ダメだろうけど。」と、負け惜しみ(笑)。この辺りはもうメロディーに対する根本的な感覚の違いとしかいいようがありません。私は寺久保さんの言っていることに共感します。寺久保さんは「《ライムハウス・ブルース》でも、コルトレーンはキャノンボールのソロを引き継いでいる。皆でバラバラになったり一つになったり、そういうのを皆でして行っている。」と続けます。すると寺島さんは「我々普通のジャズファンはそういうことが分からない。中に入らないと(演奏しないと)理解するのは難しい。そこがわからないから、ミュージシャンにはかなわないと思うんですよ。」と言います。それを聞いた寺久保さんは思わす「やったー、」なんて歓喜の声を上げてました(笑)。それを聴いた寺島さん「でもプロデューサー(寺島さん含む)はミュージシャンに分からないものが見えるところもあるんですよ。」と反論。「そういうことはありますよね。」と伊藤さんも言ってました。あれっ、そういえばこれと同じようなことを中山さんも言っていたような・・・(笑)。私は今回の寺久保さんの発言を聴いて「なるほど、ではそういうことを意識してもう一度聴いてみよう。」と思いましたが、寺島さんのようにコンプレックスはあまり感じませんでした。寺島さんって結局コンプレックスに端を発する反発意見みたいなもので成り立っている気がします。メロディー発言も自分に理解できないことへのコンプレックスであり反発なのだと思います。
ミュージシャンに見えないものの話の続きで、「ミュージシャン本位だと一般リスナーに受けないだろうと思うこともあるんですよ。」なんて話をすると、寺久保さんは「私はリスナーのことは特に考えていません。」と反論。寺島さんは「寺久保さんのように若いうちからそんなことは考えなくていいんですよ。そういうことはプロデューサーが考えれば良いことです。」と言ってました。ここで「コマーシャルな演奏って知ってる?」と寺島さん。寺久保さんは「コマーシャルって宣伝ですよね。」と知らない様子。寺島さんは「大衆受け狙いのこと。シャリコマ。」なんて説明。伊藤さんは寺久保さんのアルバムについて「シャリコマは少し入れてますよ。いいところを引き出してあげたいから。」と言います。
ここでシャリコマに関してアルバムの曲順の話へ。『ニューヨーク・アティチュード』は伊藤さんと寺久保さんで2曲目までは一致した選曲だったけれど、それ以降で少しもめたとのことでした。「1曲目はこけおどし的、インパクトがある曲を選びました。」と伊藤さん。「それはシャリコマじゃないです。」と寺島さん。「私なら《ディス・ヒア》《デル・サッサー》《ボディ・アンド・ソウル》など誰でも知っている曲を頭にもってきます。」と続けます。いつもの寺島流プロdヒュース論ですね(笑)。伊藤さんは「LP時代は片面20分でやり易かった。起承転結ができた。CDは飛ばし聴きもできるので続けて聴かせるのは難しい。」と言っていました。寺島さんは「それはわかります。」と言いつつ、「自分の知っている曲でないと分からないんですよ。初めて聴くミュージシャンのCDの場合、知っている曲から聴き、曲をどう解釈するかでそのシュージシャンの好き嫌いを決めます。」と続けます。これって、寺島流シャリコマでは1曲目に誰でも知っている曲をもってくるということなのでしょうけれど、そもそも今時誰でも知っているジャズスタンダードなんて少ないわけで、寺島さんが言うところの一般ジャズファンってかなりジャズ聴きこんでいるんじゃないでしょうか。一般ジャズファンと言うのかな~?岩浪さんは「裏切ってくれたほうが良いこともあるんじゃないですか?」なんて意見を言います。寺島さんは「そういう場合もありますけど、あんまり突飛な新しいことをやられても困るんですよ。ファンはついていけないんですよ。」なんて言います。
それを聴いていた寺久保さんが噛みつきます。「新しいことをやっていないと音楽は発展しないと思います。」と寺久保さん。いつもなら音楽は発展する必要はないと切り捨てるはずなのに。今回の寺島さんはちょっと違いました。寺島さんは「新しいことはジャズファンの10%、100人の中の10人が聴いていればいいんですよ。ミュージシャンも全てが新しいことをやる必要はないんですよ。」と言います。寺久保さんは「皆で新しいことをやっていかないとダメです。でないとマイルスみたいな人も出てこないから。」と反論。私は寺久保さんの意見に大いに賛成。もう一つ言うなら、ミュージシャンが新しいことをして、それを聴くリスナー(ファン)がいないとダメということです。寺島さんは「オーネットも白いプラスチックのサックスで突飛なことをやったからダメなんですよ。」と言います。伊藤さんが「でも今聴けば普通ですよね。メロディーも普通に聴けますよね。」と言うと、寺島さんは「オーネットの曲はいいんですよ。」とj返します。『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン』(たぶん寺久保さんが持ってきたCD)を例にとり、伊藤さんが「これもダメですか?」と言うと、「ダメです。ドラムとベースを聴くために年に2,3回は聴くかもしれないけれど。」と寺島さん。まっ、寺島さんの言うことだから目くじらたてて反論してもしょうがないか(笑)。
今日はここまでにしておきます。後半戦もなかなか面白かったですよ。
久しぶりにたくさん書いたら疲れました。フウ~ッ。
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