これは面白いフュージョンだっ!
遅くなりましたが新譜紹介。Amazonを見ていたら面白そうだったので買った1枚。
グエン・レの『ソングス・オブ・フリーダム』(2010年rec. ACT)です。メンバーは、ザ・バンド:グエン・レ(g,computer)、イリャ・アマー(vib,marimba,electronics)、リンレイ・マルト(el-b,vo)、ステファン・ガーランド(ds)、ゲスト:ユン・サン・ナ(vo)、デヴィッド・リンクス(vo)、デヴィッド・ビニー(as)他です。レはベトナム系フランス人でパリ在住。ACTレーベルには何枚かリーダー作を録音しています。私はこの人をフォローしていませんが、ピーター・アースキン(ds)、ミシェル・ベニタ(b)との『ドリーム・フライト』は気に入っています。
今回のアルバムはポップスやロックなどの曲を取り上げ、レ流のアレンジで聴かせます。取り上げたミュージシャンは、ビートルズ、スティービー・ワンダー、レッド・ツェッペリン、ジャニス・ジョップリン、ボブ・マーリー、クリーム、ダグ・イングルです。ベタな選曲ですがそのサウンドはユニークで、この人にしかできないものになっていると思います。
一言で表すなら現代フュージョンでしょう。ロック、ポップス、ジャズ、民族音楽などが混然一体となって溶融(フュージョン)したサウンドです。構成がとにかく凝っていて、次から次へポップスであったり、民族音楽であったり、ロックであったり、(ジャンルとしての)フュージョンであったりと展開していく様がとても面白いです。40代後半(私も含む)世代、特にフュージョンを聴いてきた人には、聴いてきた音楽の要素が次々と出てくるので、きっとニンマリしながら、「ここは誰それ風」と想像して聴けると思います。そして唸らされるものがあります。
ほとんどの曲にボーカルが入っているのですが、単なるボーカル入りフュージョン・アルバムではなく、ボーカルをサウンドとして使うところもあるのが現代風。ギンギンなギター・ソロもありますが、基本はトータルなサウンドを聴かせる構成です。ピアノに代わって入っているヴァイブラフォンとマリンバの使い分けが面白いです。ヴァイブが鳴っていると都会的なメロー・サウンドになり、マリンバが鳴っていると素朴で土着的なサウンドになります。曲によってはレ作曲のイントロが付加されているのも面白いところです。
では、どんな構成の曲なのか、以下に列挙してみましょう。
1曲目はビートルズの《エリナー・リグビー》 : ボーカルとギターでフォーキーに始まり、やがてガムラン風パーカッションが加わり、レ流フュージョンとなって、フュージョン・ギター・ソロへと展開します。ビートルズとインドの繋がりは分かりますね。
2曲目はスティービー・ワンダーの《アイ・ウィッシュ》 : アフリカン/インディアなビートに乗ってザビヌル的な演奏が繰り広げられます。途中に少し入るいかにもフュージョンなメロディー部分(ここがスティービー)とアフリカン/インディアなビート部分の混合が面白いです。ギターは独特の音の変態系、シタール風に響く瞬間もあります。ラストは中近東風メロディーも入ったりして、スティービーもビックリの演奏。
3曲目《ベン・ツェッペリン》はレとボーカルのダファ・ユセフの即興的イスラム歌で次曲のイントロ。
4曲目はレッド・ツェッペリンの《ブラック・ドック》 : イスラムがハード・ロックに融合してしまう面白さ。ジミー・ペイジというかジミ・ヘンドリックスというか”イケイケ”ロック・ギターが気持ちいいです。ラストはイスラムと都会の象徴としてのニューヨークの街(ヴァイブの音がそのイメージ)が交錯。そういえばグラウンド・ゼロの近くにモスクを作ることの賛否とかありましたよね。基はイギリスのハード・ロックなのに、この融合ぶりに唖然。
5曲目はスティービーの《パスタイム・パラダイス》 : 静かに始まるメロー・フュージョンはスティービーのイメージ。途中からのヘビーなビートに乗って現れるヴァイブはステップス・アヘッド的にも聴こえます。メロー・フュージョンに戻ってそのまま終わりではなく、ラストはアフリカン・ビートへ。
6曲目《アンクル・ホーズ・ベンツ》はレ作曲の次曲のイントロ。虫の声をバックにレのブルージーなギターが鳴り響きます。アメリカの荒野に響くブルースか?
7曲目はジャニス・ジョップリンの《メルセデス・ベンツ》 : イントロのブルース繋がりは分かります。ブルース~カントリーな展開。パーカッションとブルージーなギターをバックに歌うのはノラ・ジョーンズ風。そのまま終わらないのがレ。途中から一転してヘビー・ビートのファンクになりヘビーなギター・ソロへ突入。ギター・ソロの最後にはコーラスまで入って盛り上がります。ラストはさっきのノラ・ジョーンズ風に戻りますがヴァイブが入ってメロー・フュージョン。
8曲目《オーバー・ザ・レインフォレスト》はレ作曲のアフリカン/インディアなタブラ/カリンバのようなパーカション曲。次曲のイントロ。
9曲目はジョップリンの《ムーヴ・オーバー》 : ウェザー・リポートのようなサウンドに乗ったポエトリー・リーディングから。すぐにメロー・フュージョンになってショーター風?サックスもチラッと登場。ヴァイブが活躍する変拍子のステップス・アヘッド系テクニカル・フュージョンの上で歌が展開。デヴィッド・ビニーのソロが飛び出すと今度はM-BASE風にも聴こえます。ラストは最初のウェザー風サウンド~メロー・フュージョンへ。
10曲目はツェッペリンの《ホール・ロッタ・ラブ》 : これもかなり面白いです。ザビヌル風アフリカン/インディア・エスニックにハードロックの匂いがミックス。そこに乗るシャウト系女性ボーカルが痛快。続くエフェクターをかけたエレベ・ソロがエキセントリックです。インディア・エスニック・コーラスも登場。で、シャウト・ボーカルをきっかけにヘビメタ系ギター・ソロがチラッと、ジョン・マクラフリンのマハビシュヌにも通じます。
11曲目はボブ・マーリーの《リデンプション・ソング》 : イスラム風からカントリーへ。全然レゲエじゃないのが面白いです。これもノラ・ジョーンズ風(私の乏しいイメージのせいかもしれませんが。笑)。ギター・ソロはカントリー/ブルース風?
12曲目はクリームの《サンシャイン・オブ・ユア・ラブ》 : アフリカン・パーカッションの出だしかと思っていたら、いきなり例のメロディーのハード・ロックへ、バックのマリンバがテンションを緩めていて面白いです。ボイスが入ると土着的イメージになり、都会のロックから離れます。そうこうするうちに後半はヴァイブが入って都会に戻ってフュージョン風。またアフリカン/インディアなリズムに乗ってインディア/スパニッシュなマクラフリン風ギター・ソロで終了。
13曲目はダグ・イングルの《イン・ア・ガッタ・デヴィド》 : この曲は原曲のイメージを知りませんので、レ流フュージョン演奏に聴こえます。演奏はザ・バンドのみ。ギター・ソロに続きマリンバ・ソロがフィーチャされます。テクニカル系フュージョン。
14曲目《トプカピ》はレ作のインディアな曲。次曲のイントロ。
15曲目はビートルズの《カム・トゥギャサー》 : インド風になるのはビートルズがインドに影響されていたことへの繋がりに感じます。ひと癖ある女性ボーカルの後、都会的な男性ボーカルが続きます。ギター・ソロはフュージョンです。ヴァイブ・ソロが始まるとこれはもうマイク・マイニエリです(笑)。ステップス・アヘッド風な展開。でもちょっとインドの匂いも出てきます。ビートルズで始まりビートルズで終わるのが渋い。
とまあこんな感じで、色々な要素がつぎはぎされているのはコラージュなわけですが、コラージュによって出来た曲は見事にグエン・レのユニークな世界を表しています。そしてアルバム全体にきちんと一本筋が通っています。さすがはACTレーベル、質は高いですね。
私と同世代のフュージョン・ファンに聴いてほしい1枚。70年代後半から80年代中盤までのフュージョンを引きずっでやっている人達にはできない、今でなければあり得ないフュージョン。是非! 今を聴きましょうよ。
アルバム名:『Songs of Freedom』
メンバー:
Nguyên Lê (guitars, computer)
Illya Amar (vibraphone, marimba, electronics)
Linley Marthe (electric bass & vocals)
Stéphane Galland (drums)
ゲスト:
Youn Sun Nah, Dhafer Youssef, David Linx, Ousman Danedjo,
Julia Sarr, Himiko Paganotti, David Binney, Chris Speed, Prabhu Edouard,
Stéphane Edouard, Karim Ziad a.o.
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