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2011年6月

これは面白いフュージョンだっ!

遅くなりましたが新譜紹介。Amazonを見ていたら面白そうだったので買った1枚。

P163 グエン・レ『ソングス・オブ・フリーダム』(2010年rec. ACT)です。メンバーは、ザ・バンド:グエン・レ(g,computer)、イリャ・アマー(vib,marimba,electronics)、リンレイ・マルト(el-b,vo)、ステファン・ガーランド(ds)、ゲスト:ユン・サン・ナ(vo)、デヴィッド・リンクス(vo)、デヴィッド・ビニー(as)他です。レはベトナム系フランス人でパリ在住。ACTレーベルには何枚かリーダー作を録音しています。私はこの人をフォローしていませんが、ピーター・アースキン(ds)、ミシェル・ベニタ(b)との『ドリーム・フライト』は気に入っています。

今回のアルバムはポップスやロックなどの曲を取り上げ、レ流のアレンジで聴かせます。取り上げたミュージシャンは、ビートルズ、スティービー・ワンダー、レッド・ツェッペリン、ジャニス・ジョップリン、ボブ・マーリー、クリーム、ダグ・イングルです。ベタな選曲ですがそのサウンドはユニークで、この人にしかできないものになっていると思います。

一言で表すなら現代フュージョンでしょう。ロック、ポップス、ジャズ、民族音楽などが混然一体となって溶融(フュージョン)したサウンドです。構成がとにかく凝っていて、次から次へポップスであったり、民族音楽であったり、ロックであったり、(ジャンルとしての)フュージョンであったりと展開していく様がとても面白いです。40代後半(私も含む)世代、特にフュージョンを聴いてきた人には、聴いてきた音楽の要素が次々と出てくるので、きっとニンマリしながら、「ここは誰それ風」と想像して聴けると思います。そして唸らされるものがあります。

ほとんどの曲にボーカルが入っているのですが、単なるボーカル入りフュージョン・アルバムではなく、ボーカルをサウンドとして使うところもあるのが現代風。ギンギンなギター・ソロもありますが、基本はトータルなサウンドを聴かせる構成です。ピアノに代わって入っているヴァイブラフォンとマリンバの使い分けが面白いです。ヴァイブが鳴っていると都会的なメロー・サウンドになり、マリンバが鳴っていると素朴で土着的なサウンドになります。曲によってはレ作曲のイントロが付加されているのも面白いところです。

では、どんな構成の曲なのか、以下に列挙してみましょう。

1曲目はビートルズの《エリナー・リグビー》 : ボーカルとギターでフォーキーに始まり、やがてガムラン風パーカッションが加わり、レ流フュージョンとなって、フュージョン・ギター・ソロへと展開します。ビートルズとインドの繋がりは分かりますね。

2曲目はスティービー・ワンダーの《アイ・ウィッシュ》 : アフリカン/インディアなビートに乗ってザビヌル的な演奏が繰り広げられます。途中に少し入るいかにもフュージョンなメロディー部分(ここがスティービー)とアフリカン/インディアなビート部分の混合が面白いです。ギターは独特の音の変態系、シタール風に響く瞬間もあります。ラストは中近東風メロディーも入ったりして、スティービーもビックリの演奏。

3曲目《ベン・ツェッペリン》はレとボーカルのダファ・ユセフの即興的イスラム歌で次曲のイントロ。

4曲目はレッド・ツェッペリンの《ブラック・ドック》 : イスラムがハード・ロックに融合してしまう面白さ。ジミー・ペイジというかジミ・ヘンドリックスというか”イケイケ”ロック・ギターが気持ちいいです。ラストはイスラムと都会の象徴としてのニューヨークの街(ヴァイブの音がそのイメージ)が交錯。そういえばグラウンド・ゼロの近くにモスクを作ることの賛否とかありましたよね。基はイギリスのハード・ロックなのに、この融合ぶりに唖然。

5曲目はスティービーの《パスタイム・パラダイス》 : 静かに始まるメロー・フュージョンはスティービーのイメージ。途中からのヘビーなビートに乗って現れるヴァイブはステップス・アヘッド的にも聴こえます。メロー・フュージョンに戻ってそのまま終わりではなく、ラストはアフリカン・ビートへ。

6曲目《アンクル・ホーズ・ベンツ》はレ作曲の次曲のイントロ。虫の声をバックにレのブルージーなギターが鳴り響きます。アメリカの荒野に響くブルースか?

7曲目はジャニス・ジョップリンの《メルセデス・ベンツ》 : イントロのブルース繋がりは分かります。ブルース~カントリーな展開。パーカッションとブルージーなギターをバックに歌うのはノラ・ジョーンズ風。そのまま終わらないのがレ。途中から一転してヘビー・ビートのファンクになりヘビーなギター・ソロへ突入。ギター・ソロの最後にはコーラスまで入って盛り上がります。ラストはさっきのノラ・ジョーンズ風に戻りますがヴァイブが入ってメロー・フュージョン。

8曲目《オーバー・ザ・レインフォレスト》はレ作曲のアフリカン/インディアなタブラ/カリンバのようなパーカション曲。次曲のイントロ。

9曲目はジョップリンの《ムーヴ・オーバー》 : ウェザー・リポートのようなサウンドに乗ったポエトリー・リーディングから。すぐにメロー・フュージョンになってショーター風?サックスもチラッと登場。ヴァイブが活躍する変拍子のステップス・アヘッド系テクニカル・フュージョンの上で歌が展開。デヴィッド・ビニーのソロが飛び出すと今度はM-BASE風にも聴こえます。ラストは最初のウェザー風サウンド~メロー・フュージョンへ。

10曲目はツェッペリンの《ホール・ロッタ・ラブ》 : これもかなり面白いです。ザビヌル風アフリカン/インディア・エスニックにハードロックの匂いがミックス。そこに乗るシャウト系女性ボーカルが痛快。続くエフェクターをかけたエレベ・ソロがエキセントリックです。インディア・エスニック・コーラスも登場。で、シャウト・ボーカルをきっかけにヘビメタ系ギター・ソロがチラッと、ジョン・マクラフリンのマハビシュヌにも通じます。

11曲目はボブ・マーリーの《リデンプション・ソング》 : イスラム風からカントリーへ。全然レゲエじゃないのが面白いです。これもノラ・ジョーンズ風(私の乏しいイメージのせいかもしれませんが。笑)。ギター・ソロはカントリー/ブルース風?

12曲目はクリームの《サンシャイン・オブ・ユア・ラブ》 : アフリカン・パーカッションの出だしかと思っていたら、いきなり例のメロディーのハード・ロックへ、バックのマリンバがテンションを緩めていて面白いです。ボイスが入ると土着的イメージになり、都会のロックから離れます。そうこうするうちに後半はヴァイブが入って都会に戻ってフュージョン風。またアフリカン/インディアなリズムに乗ってインディア/スパニッシュなマクラフリン風ギター・ソロで終了。

13曲目はダグ・イングルの《イン・ア・ガッタ・デヴィド》 : この曲は原曲のイメージを知りませんので、レ流フュージョン演奏に聴こえます。演奏はザ・バンドのみ。ギター・ソロに続きマリンバ・ソロがフィーチャされます。テクニカル系フュージョン。

14曲目《トプカピ》はレ作のインディアな曲。次曲のイントロ。

15曲目はビートルズの《カム・トゥギャサー》 : インド風になるのはビートルズがインドに影響されていたことへの繋がりに感じます。ひと癖ある女性ボーカルの後、都会的な男性ボーカルが続きます。ギター・ソロはフュージョンです。ヴァイブ・ソロが始まるとこれはもうマイク・マイニエリです(笑)。ステップス・アヘッド風な展開。でもちょっとインドの匂いも出てきます。ビートルズで始まりビートルズで終わるのが渋い。

とまあこんな感じで、色々な要素がつぎはぎされているのはコラージュなわけですが、コラージュによって出来た曲は見事にグエン・レのユニークな世界を表しています。そしてアルバム全体にきちんと一本筋が通っています。さすがはACTレーベル、質は高いですね。

私と同世代のフュージョン・ファンに聴いてほしい1枚。70年代後半から80年代中盤までのフュージョンを引きずっでやっている人達にはできない、今でなければあり得ないフュージョン。是非! 今を聴きましょうよ。

アルバム名:『Songs of Freedom』
メンバー:
Nguyên Lê (guitars, computer)
Illya Amar (vibraphone, marimba, electronics)
Linley Marthe (electric bass & vocals)
Stéphane Galland (drums)
ゲスト:
Youn Sun Nah, Dhafer Youssef, David Linx, Ousman Danedjo,
Julia Sarr, Himiko Paganotti, David Binney, Chris Speed, Prabhu Edouard,
Stéphane Edouard, Karim Ziad a.o.

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「ジャズ・ヒップホップ学習会 第5回」レポート(後編)

一昨日、ジャズ喫茶「いーぐる」 で開催された「ジャズ・ヒッポホップ学習会 第5回:とりあえずの総括」に参加してきました。昨日に続きこの講演のレポートの後編です。

今回のレポートは講演中にメモしたとをできるだけ網羅し、そこに私の意見を加えてあります。あくまで私の理解の範疇で書いてありますことをご了解いただければ幸いです。

●カヴァーにみるヒップホップ的感性

13.S.モス - クインシー・ジョーンズの『ジャズ・コーナー・オブ・ザ・ワールド』(2009年)
ビバップからヒップホップまでを音で表現。クインシーの作ったものには限界があって、それを聴いたピアニストのS.モスが再編したものだそうです。中山さんは音で表現されているこういう(ジャズ~ヒップホップの)世界を文章に書きたいとおっしゃていました。私の好きなウェザー・リポートの《バードランド》がサンプリングしてあったというだけで気に入りました(笑)。

14.ジェイ・アーの《リラックス・ユア・マインド》(2009年)
この講演の第1回の時、《ザ・リー・モーガン・ストーリー》をかけた人です。聴けばだれでも知っている曲を利用したことがわかるとのことでかけました。チック・コリアの《スペイン》でした。「こういうカヴァーの仕方があり、Us3の《カンタループ》よりおおらかで進化している。カヴァーの意味が更新されている。」と中山さん。ヒップホップもどこかに断層があったり派生したり消えたりしているそうです。そういえば前回の講演でゲストの原雅明さんがパブリック・エナミーのビートはその後に継承されていないと言っていましたね。私はりー・モーガンもこれもあまり面白いとは思えなかったです。

●ジャズ表現者としてのマッドリブ
ここまではジャズとの接点で選曲できました。マッドリブにその作業はいらず、いつ録音されたかにも意味はないそうです。マッドリブは変名でいくつものプロジェクトをやっています。めったにカヴァーはしないそとのこと。

15.オーティス・ジャクソンJr.・トリオ(マッドリブ)の《ビッチェズ・ブリュー》(2007年)
唯一のカヴァーかもしれないとのことでした。マッドリブの割にはシンプルで、いじれるのにいじっていないのが新しいそうです。ちなみにトリオと名乗るのは形骸化したトリオという言葉をパロディーとして使っているんだとか。リズムは複雑化していて、途中でズッコケそうなになるリズムの切れ目があるのは今時のリズム感だと思いました。後藤さんは「言われなければ《ビッチェズ・ブルリュー》と分からない。一つの表現者としてのマッドリブのオリジナリティーがある。」とおっしゃていました。マイルスの曲なので私はやっぱり気に入りました。

16.ザ・ジャハリ・マサンバ・ユニット&カリエン・トリオン(マッドリブ)の《ウモジャ》(2007年)
複数のビートが進行するノリが複雑な曲。B.P.M.はかろうじて維持されています。全体としては4ビート基調のリスムに聴こえました。後藤さんは「クラブで深夜酩酊しているような状態で聴けば最高のトリップミュージック。でもジャズ的な聴き方で中に入ると面白くない。距離感を持って(離れて)聴く分にはいいが(音楽の中に)入って聴くとスカスカ。」というご意見。意外と不評ですね~。私は”スカスカ”という言葉を、実体感が伴わない頭の中の音楽と捉えました。これについては最後の質問コーナーで後藤さんに確認しました

17.イエスタデイズ・ニュー・クインテット(マッドリブ)の《ジュラニ》(2001年)
5人全てをマッドリブがやています。最初にドラムを適当にやってそれらをまとめて曲にしているんだそうです。マッドリブはジャズから入ってヒップホップへ行った人。伯父さんがジョン・ファディス(tp)なんだそうです。これもリスム・フィギュアが複雑な曲。この手の現代リズムはニューヨーク・ダウンタウンの変拍子などのれないリズムの延長といて私は面白いと感じています。これを聴いた後藤さんは「リズムが合っていないのでいらつく。」と発言。私は意外でした。こういうリズム感は後藤さんの中で既に消化済みと思っていたからです。中山さんは「勘違いかもしれないがこれ(マッドリブ)がカッコいいジャズとして聴かれている。」と、後藤さんの意見に戸惑い気味のようでした。まあ、以前の講演でかけたマッドリブは後藤さんが良いというものもありましたので、トラック(曲)によって評価も変わるということなのでしょう。

●最後はやっぱりマイルスだ

18.フォーリーの《プリフェイス/7イヤーズ・アゴー》(1993年)
2人+マイルスの声の3人で演奏。マイルスが亡くなって7年後を想定。演奏というよりサウンドコラージュ。モータウンでの録音。フォーリーはマイルスの意思を継いだ最後の人。私は面白く聴きました。結構気に入りました。後藤さんは「よく分からない。ジャズから離れて言えば良い。」とのことでした。

19.マイルス・デイビスの《ジリ》(1988年)
P162 マイルスにヒップホップ的要素が入ったのはいつかという話では、『デコイ』の頭の3曲ということになるそうです。リズムボックスとか機械的なものを取り入れてサウンドを作っています。人的にヒップホップの人を呼んだのは《ジリ》。ギターのビリー・”スペースマン”・パターソンがヒップホップの人だそうで、説明してもそのように聴こえないのがマイルスとのことでした。これは人的とのことでしたが、サウンドは明らかにヒップホップに接近してますね。最近このアルバム『アマンドラ』なんか聴いたことがなかったので、改めて聴いてみて何か納得。面白かったです。これ、録音が爽やかで音が整理されていて、ヒップホップの混濁感とは対照的でした。この頃のマイルスって意外と見通しが良い音楽をやっていましたよね。今考えるとそれが物足りなさかもしれません。

ということで講演は終了。質問コーナーへ。
私はレポートの中に書いたことを質問してみました。珍屋の柳樂(なぎら)さんからは、マッドリブについてはヒップホップ以降の人がやることを否定したりしていて、パロディー的に聴けば良いのではないかというような意見がありました。中山さんは「マッドリブにあるのはサウンドだけ。アルバム単位では評価できない。曲によっては嫌いなものもある。」とおっしゃっていました。今日かけた曲だけではマッドリブを評価できないし、してほしくないということみたいです。

今回はジャズ喫茶オヤジとしての後藤さんの意見が面白かったです。中山さんとの対決場面が何度かありましたが、後藤さんの演出もあるのでしょう(笑)。5回の講演をとおして参加してみて、中山さんが意図していることもだいたい分かりました。ヒップホップ目線でジャズを見直すことも面白いと思います。私はと言えば、ヒップホップの面白さが少しは分かり、ジャズと無理に関係付けなくても楽しめると思いました。私は基本的にはジャズを聴いていますので、それの妨げにならないくらいにヒップホップは聴く感じになりそうです。何だかんだ言って私にはまだまだジャズは面白い音楽です。

中山さん、後藤さん、今回のi講演に関わった皆さん、楽しい勉強会でした。
どうもありがとうございました。m(_ _)m

中山さんは今後もヒップホップ関連の講演をしていくとのことでした。「いーぐる」でもこの講演にゲスト参加した原雅明さんの講演が予定されています。私は今後もヒップホップ関連の連続講演をフォローしていきたいと思っています。

次回の中山康樹さんの「いーぐる」講演は下記のとおりです。

8月20日(土)、今回に限り14時より
●大音量でロックを聴く会 その5
解説 村井康司 × 中山康樹

私は「大音量でロックを聴く会」に一度も参加したことがありませんでした(笑)。
次回は参加してみようかな~。この方面にはまったく疎い私。

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「ジャズ・ヒップホップ学習会 第5回」レポート(前編)

昨日、ジャズ喫茶「いーぐる」 で開催された「ジャズ・ヒッポホップ学習会 第5回:とりあえずの総括」に参加してきました。この学習会も第5回目を迎えいよいよ最終回。中山康樹さん企画のもと毎回テーマを決め、それぞれの回のゲストに大谷能生さん、村井康司さん、原雅明さんを招いて、ジャズとヒップホップについて勉強してきました。それぞれ内容は濃かったと思います。過去の講演の内容については、私のレポート 「いーぐる」連続講演 をスクロールしてご覧下さい。ヒップホップについて無知だった私も、4回の講演に参加することにより概要は掴めてきました。ジャズに比べて少しではありますが、ヒップホップも楽しんでいる昨今です。

P161_5 昨日は曇りから小雨という感じだったので暑さ控えめで良かったです。お店に入って中山さん後藤さん他に軽くご挨拶。かかっていたのはコニッツ、メルドー、ヘイデン、モチアンの『ライブ・アット・バードランド』。いいですよね、これ。さて、いよいよ講演の開始。今回は中山さんが選曲と解説をし、後藤さんはこの勉強会の生徒代表みたいな形で、ジャス喫茶オヤジがどう受け取ったか質疑するというものでした。

今回のレポートは講演中にメモしたとをできるだけ網羅し、そこに私の意見を加えてあります。あくまで私の理解の範疇で書いてありますことをご了解いただければ幸いです。

まずは中山さんから、ブラックミュージックの最先端で中身はある種ジャズを超えているいのがヒップホップ。そんなヒップホップとジャズの調和性を説明するのは難しく、4つのストーリーを言わないと伝わらないという発言がありました。ジャズ、ヒップホップの両側から同時並行的に再確認する必要があるとのことでした。あれっ、4つのストーリーってなんでしたっけ?私ボーッと聴いてました。m(_ _)m 今回の前半はジャズの定説の読み直し。これまでビバップ、ハードバップ、フリーなど大雑把に切られてきた部分がヒップホップに繋がっているという話です。ジャズの中の”アフロ・キューバン”と”フリージャズの発展系としてのファンク”がヒップホップに繋がります。この作業はジャズ史の読み直しになります。油井ジャズ史観などで語られていないような部分、またジャズ界の巨人の歴史、エリントンやマイルスやコルトレーンなどに要約すると抜け落ちてしまう部分が実はヒップホップに繋がっています。ジャズ史の読み直しについては後藤さんも大いに賛成とのことでした。

今回の選曲は”ジャズ耳”視点に立った選曲でジャズファンにとっての入口。
以降は中山さんの見出しとかけた曲にそって話を進めます。

●すべてはコンガから始まった
アフロ・キューバンはコンガであり、ヒップホップの最初もコンガ。
コンガで繋げるとかなり遠くまで繋げられるそうです。

1.サブー・マルチネスの《バーンド・シュガー》(1973年)
最初に景気付けもあっての選曲。聴いてビックリ。70年代マイルスがやっていたファンクにかなり似ているリズム、エレピの尖がり具合はまさに70年代初頭のマイルス・バンドの音でした。そこにファンキーなサックス・ソロも入っています。私はこれがかなり気に入りました。中山さんの解説によると、サブーはスウェーデン人女性と結婚し、当時スウェーデンに住んでいて地元のバンドとこれを作ったんだそうです。後藤さんはマイルスとサブーの影響関係が気になったみたい。私も大いに気になりました。中山さんによると相互ではないか?とのことでした。「ジャズの歴史ではファンクがスポイルされている。マイルスやオーネットはストリートミュージックをやりたかった。マイルスのファンクは高尚なスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンとの影響で語られがちだが、もっと土着的なもの。」という話もありました。今これを書いていて思い出したのですが、私が持っているトーマス・スタンコ(tp)の『パープル・サン』(1973年)もかなりマイルス似のファンクをやっていてマイルスとの影響関係が気になっています。

2.ディジー・ガレスピー&チャノ・ポソの《クバーナ・バップ》(1947年)
アフロ・キューバンの初期の金字塔でヒップホップに繋がるもの。全米のトータルな部分でのムーヴメント(アフロ・キューバン、ビバップ)が個人に集約して語られる(ディジー・ガレスピー、チャーリー・パーカー)傾向があり、それがジャズ史の色々な部分を分かりにくくしているとの話もありました。後藤さんも同意されていました。

3.ラスト・ポエッツの《ラン・ニガー》(1970年)
元祖ラップ(ヒップホップ)。ラップ&アフロ・リズム。後藤さんは前曲とこの曲のテイストの違いを気にされていました。要はこれらが繋がるのかという疑問です。中山さんはラップの捉え方によってヒップホップの捉え方も変わるとおっしゃっていました。中にはラップがないとヒップホップでないという人もいるそうです。中山さんは以前からラップは手法、ヒップホップはスタイルとおっしゃっていました。ラップは昔からある黒人の話芸。これをもってヒップホップとするのではない考えです。後藤さんの疑問に明確な答えが出ないまま次へ。中山さんの意図としては解決しない部分があっても良いみたいで、進行を優先させたみたいです。かける曲も年代順とかではなくバラバラ。これもお勉強的になり過ぎないように考えた中山さんの意図みたいです。

●これが疑惑の2曲だ
ジャズファンの中でヒップホップが嫌われることになった2曲とのことです。

4.ギャング・スターの《ジャズ・シング》(1990年)
中山さんによればこれはジャズ。メッセージ性があり、なんでジャズの巨人の名をを叫ぶのかといえば、それはジャズマンへのリスペクトということでした。この曲は気に入りました。これがジャズファンに嫌われたとは知りませんでした。

5.Us3の《カンタループ》(1993年)
中山さんによればこれはポップスにすぎない。何でかと思ったらイギリス人だったと。後藤さんによる、と当時のジャズ喫茶ではイギリス発のクラブミュージックで、ヒップホップという認識ではなかったそうです。当時の私がジャズから離れていたこともありますが、あまり聴きたいとは思わなかったです。ちなみに私はこのグループのアルバムを持っていません。

ここで後藤さんからギャング・スターのメッセージ性をもってジャズとするのはいかがなものかという問いがありました。ジャズでもメッセージ性を持つものは極一部であると。メッセージが抑圧された黒人の反発だとしても、ジャズはもっと屈折したもので、ヒップホップのようにあからさまに表出できない時代背景があったというような話になっていきました。ここも明確な決着が付かないまま次へ。私はギャングスターのメッセージ性をジャズの精神性(反骨精神のような尖がったもの)と捉えました。一方のUs3はフォーマットだけでジャズに繋がっている気がします。”カッコいいじゃん!”なジャズです。これについては最後の質問コーナーで触れました。これって最近のジャズでも繰り返されているような・・・。そういえば日本のブルーノート一押しのあのグループが私にはどうも・・・。全く個人的な感想ですm(_ _)m(笑)。

●フリー・ジャズとヒップホップをつなぐファンク

6.エボニー・リズム・バンドの《イントロ》(1970年)
7.アーニー・レッセ&ザ・プログレッションズ《レッツ・ゴー》(1972年)

私はギターのカッティングやベースラインがマイルス・グループと同じように聴こえました。後藤さんは「これはもうマイルスがこのリズムパターンを取り入れたんでしょうね。」とおっしゃっていました。中山さんも「そうでしょうね。」とのことでした。私も同感です。マイルスはレジー・ルーカス(g)とマイケル・ヘンダーソン(el-b)という2人を起用してこのリズムを獲得したんでしょう。そういうメンバー起用をするのがマイルスです。

8.アーチー・シェップの《マネー・ブルース》(1971年)
シングルカットされてシェップの中で一番売れたそうです。この曲のリフをアース・ウィンド&ファイアーが使っているそうです。中山さんによれば、この演奏がマイルスの『オン・ザ・コーナー』に繋がるのですが、マイルスが高尚過ぎて繋がりが見えないとのことでした。フリージャズとファンクの繋がりでアーチ・シェップ、レーベルでインパルスが重要ともおっしゃっていました。

ここで後藤さんから「マイルスはフリーを嫌ってやらなかったけれど、そういう意味でマイルスに繋がるのか。」というような疑問が提起されました。中山さんは「フリーということでいえば、マイルスにもある。マイルスが演奏していない時にバンドのメンバーがやっていて、それはロスト・クインテットや『プラグド・ニッケルのマイルス・デイビス』などを聴けば分かる。」と回答。ここも後藤さんの疑問は払拭されないまま次へ。マイルスのフリーについては、グループのサウンドはマイルスの一部であり、マイルスもフリーはやっていたとみて良いと私は思っています。そして、私はジャズ史の見直しという意味では、”ジャズにおけるアフロ・リズム(4ビート以外)史”という視点で見直せば、ガレスピーのアフロ・キューバン、フリーの中のアーチー・シェップ(今時の区分ではスピリチュアル・ジャズだと思います)、ファンク・マイルスからヒップホップへと繋がる線を引けるんじゃないかと思ったので、最後の質問コーナーでそのことを言いました。

●ヒップホップが発見した2人の鬼才
ヒップホップの世界でスターになっているミュージシャンがいます。ロニー・リストン・スミスやロイ・エアーズは一部が受けているそうですが、これから上げる2人は人物が高く評価されているそうです。

9.ラロ・シフリンの《ザ・ウェーブ》(1969年)
ボサノバの曲ではなくてシフリンのオリジナル曲。シフリンはとてつもない才能を持ったピアニストとして評価されているそうです。この曲は左手の強い打鍵が重厚な印象を与えるものでした。

10.ジミー・スミス&オリバー・ネルソンの《ミッション・インポッシブル》(1968年)
シフリンは映画音楽で有名。この曲や『燃えよドラゴン』などです。こんな人達が演奏しているものもあるとのこと。

続いてデヴィッド・アクセルロッド。プロデューサーです。この人プロデュースの有名なアルバムはキャノンボール・アダレイの『マーシー・マーシー・マーシー』。アクセルロッドは癖が強く売れないものが多いのにこのアルバムは異例の大ヒット。キャノンボールがキャピトルに移籍する時、プロデューサーの指名権を与えられて指名したのがこの人。他に有名なアルバムはハロルド・ランドの『フォックス』。コンテンポラリー・レーベルのアルバムだけれど、コンテンポラリーがアクセルロッドから買い取ったんだそうで、コンテンポラリーのレーベル色とちょっと異なるそうです。他にはエルモ・ホープのアルバムもあり、共通するのは暗い雰囲気とか。

11.デヴィッド・アクセルロッド《ペイント・イット・ブラック》(2008年)
アクセルロッドのアルバムは多くの人がサンプリング・ネタとしているそうです。イギリスで再評価されてコンサートを開き、これはそのコンサートの1曲目。アレンジの特徴を聴いてほしいとのことでした。ビートが重厚でカッコいい演奏。私は気に入りました。

12.デヴィッド・マッカラムの《ハウス・オブ・ミラーズ》(1966年)
アクセルロッドが変な物を作ってしまたので、有名人の名前で出してしまえということで、マッカラム(『0011ナポレオン・ソロ』のイリヤ役の俳優)名で出したそうです。売れたそうでこの手のものを4枚くらい出したとか。このシリーズはヒップホップでは聴かれているとのこと。後藤さんはサンプリング・ネタになるのは分かるとおっしゃっていました。私も同感。リスムがカッコいいノリ。「ギターのリフが狂ったロスのイメージらしい。」と中山さん。

あんまり長くなると読む方も疲れるでしょうから、今日はここまで。
続きはまた明日。

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今日はピアノ・トリオです。

毎日適当にジャズ・アルバムを紹介。今日はピアノ・トリオ。

P160 マニュエル・ロシュマン『ホワイト・キーズ』(1991年rec. DIW)です。メンバーは、マニュエル・ロシュマン(p)、フランソワ・ムタン(b)、ルイ・ムタン(ds)です。このアルバム最大のポイントは?そうですフランスが誇る兵。フランソワとルイのムタン兄弟がガッチリ脇を固めているところです。洒落たジャケットもいいですよね。

このアルバムを知ったのは、中条省平さんの『ただしいジャズ入門』(ちなみに、同時に出た兄弟本、寺島靖国さんの『たのしいジャズ入門』は買っていません、笑)。なかなか良いと書いてあったので聴いてみたかったのです。でも、廃盤。中古を探して適度な値段にこなれていたのを買いました。この手のピアノ・トリオ廃盤はうっかりすると内容そっちのけで高値盤があるから要注意。高値取引されているから、いかほどのものかと思って再発盤を買い、ガッカリさせられたものがままありました。

主役のマニュエル・ロシュマンはフランスのピアニストです。ミシェル・サルダビーとマーシャル・ソラールからジャズ・ピアノの技法を教わり、20歳の時に「デファンス・ジャズ・コンクール」のジャズ・ピアノ部門で優勝し、ソラールの推薦を受けてプロのジャズマンになったそうです。ヨーロッパのピアニストらしいテクニシャン。しっかりしたタッチでピアノをフル・トーンで鳴らしています。

アルバムには、ロシュマンのオリジナル4曲の他、フランソワ・ムタンの1曲、トゥーツ・シールマンスの1曲に、スタンダード《ラウンド・ミッドナイト》《キャラバン》《あなたと夜と音楽と》の合計9曲が収録されています。ロシュマンの自作曲はどれも佳曲です。スタンダードの3曲は敢えてベタな曲を選んでロシュマンの調理方法を見せる感じの仕上がりになっています。難しいことはやっていませんのでご安心を。

ロシュマンはテクニカルな面と抒情的な面が適度にバランスしたピアノを弾いています。ヨーロッパ・ピアノ・トリオ好きにも安心して聴いてもらえると思います。抒情的に聴かせつつ随所にキラリと光る技が織り交ぜられているのが良いです。甘さに流されるようなところはなく、どちらかと言えばクールな肌触りです。

私的にはムタン兄弟が良く聴こえます。フランソワのベースはソロで高音を多用していて、爪弾くようなフレージングからはエディ・ゴメスの影響を感じました。バッキングにおいてもゴメスの匂いはありますが、ブンブン唸る強靭な音は気持ちが良いです。ルイのドラムはパワーがありますがパワーを押し出すのでなく、シンバルやブラシの刻みなどに繊細な部分を見せ、軽やかにプッシュしています。こんな2人の力強いグルーヴに乗せられ、ロシュマンも抒情的でありながらパワフルな演奏をしています。そして、ただ押すだけでなく時には引く部分も交え、緩急の妙も聴かせてくれます。

もう20年前の録音ですね。フランスの若き3人の意気込みとエスプリが詰まったトリオ。なかなか良いです。中古CDを見かけたらゲットしてやって下さいませ。
m(_ _)m

アルバム名:『WHITE KEYS』。
メンバー:
Manuel Rocheman(p)
Francois Moutin(b)
Louis Moutin(ds)

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昔ラジオで聴いて一目惚れ?

昨日の現代的ジャズから一転して今日はグラント・グリーン。新譜紹介の中に意表を突いてこういうアルバムを混ぜるのが面白いのです。

P159 『ザ・ラテン・ビット』(1962年rec. BlueNote)です。メンバーは、グラント・グリーン(g)、ジョニー・アセア(p)、ウェンデル・マーシャル(b)、ウィリー・ボボ(ds)、ポテト・ヴァルデス(conga)、ガルヴィン・マシュー(chekere)です。私が持っているのはオリジナル盤。モノラル、NYC、溝ナシ、VAN GELDER刻印、チョボ印アリ、盤状態N-、ジャケット痛み少々、ジャケ裏に書き込みとREVIEW COPY印アリです。オリジナル盤としてはそこそこの値段だったように思います。

渋谷の「discland JARO」で15年くらい前に買いました。当時急にオリジナル盤に目覚めた私、茨城に住んでいた私は休日に常磐道を飛ばして東京に行き、秋葉原で真空管アンプのパーツを買ったり新宿や御茶ノ水のレコード店でレコードやCDを買ったりしていました。

さて、このアルバムの話ですが、思い出の曲が収録されています。《ブラジル》がそれです。その思い出とは?ジャズを聴き始めた頃(30年くらい前)のことです。当時はとにかくジャズのことが知りたくて、学校の図書館でジャズ本(油井さんの本など)を借りたり、図書館のラウンジにあった「スイングジャーナル」を毎号読んだりと、ジャズを勉強していました。当時は若かったので、マジでジャズを勉強していたんです(笑)。そんな勉強の一環としてFM-NHKのラジオ番組「ゴールデン・ジャズ・フラッシュ」を聴くというのがありました。

確か日曜の午後9時からやっていた番組で、パーソナリティーは本多俊夫さん、いソノてルヲさん、行田良雄さんが順番で務めていたと思います。ジャズ・マン特集や楽器特集など毎回テーマを決めてジャズを紹介していました。私は用事がない限り毎週聴くようにしていました。気になる時のみラジカセでカセットテープに録音。何しろ安いラジカセなんで音はもうそれなり。番組をまるごと録音するようなことはせず、トークをカットして曲だけ録音していました。テープは何本かあったのですが全て廃棄。私は整理好きなので、色々なものを平気で処分しまくってます(笑)。

この番組の確かギター特集だったと思うのですが、このアルバムの《ブラジル》がかかったのです。当時好きだったのはマイルスやウェザー・リポートだったので、ジャズに求めていたのは都会的なカッコ良さ。なのにこのグラント・グリーンの《ブラジル》がとても気に入ったんだから不思議です。ラテン・パーカッションン入りコテコテギターに参ったんです(笑)。当時は何度も聴きました。屈託なく奏でられる太いギター音とラテン・リスムの明るいノリに惹かれたんです。

その後15年くらい縁がなかったのですが、オリジナル盤蒐集の中でこの盤に出会い、妙に懐かしくて買ってしまいました。今聴いても《ブラジル》が一番好きです。この曲はB面1曲目ですが、A面1曲目の《マンボ・イン》も明るくてノリの良いリズムと少し哀愁を帯びたメロディーがグッドマッチで甲乙付け難いです。良く歌いグイグイとドライブするギターが快適。ピアノは何となくレッド・ガーランド似ですが、良く歌うフレージングが素敵です。

ラテンと言えばの《ベサメ・ムーチョ》も入っています。ラテン・リズムにのってグリーンが弾くテーマはかなりコテコテ。乗り方やメロディーのちょっとした崩し方は日本の演歌のようでちょっと苦手ではあります(笑)。ところがギター・ソロになるとリズムは4ビートへとチェンジ。憂いを帯びたブルージーなフレーズは胸に来ます。猛烈にジャズを感じます。こういうグリーンが好きなのです。続くピアノもブルージーでジャジーです。ガーランドに加えウィントン・ケリーも混ざっている感じ(笑)?まあそれはさておきジャズの匂い満載です。

グラント・グリーンがラテン・パーカッション入りでラテン曲をやっているアルバム。コテコテ度が堪りませんがな~(笑)。こういうのがダメな人はダメでしょうね。でも、ジャズ魂はきちんと入っています。たまにこいつを聴いて悦に入るのも悪くないです。私の場合はオリジナル盤の音の良さもありますしね。ちょっと自慢(笑)。

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この人達にしか出せない音がある。

今日は新譜紹介です。最近作用買いしたい新譜だらけで嬉しい悲鳴。順次紹介しているのですが、今日紹介するものを除いてもまだ4枚控えています。

P158 リー・コニッツ、ブラッド・メルドー、チャーリー・ヘイデン、ポール・モチアン『ライブ・アット・バードランド』(2009年rec. ECM)です。改めてメンバーと楽器は、リー・コニッツ(as)、ブラッド・メルドー(p)、チャーリー・ヘイデン(b)、ポール・モチアン(ds)です。凄いメンバーが集結。それぞれ独特の美意識を持った人達です。

これはAmazonで輸入盤を予約注文していたら、ノイズがあるとかでメーカー回収になっていまい一旦キャンセル。その後購入可能になってから買ったので、入手にだいぶ手間取ってしまいました。そんなこともあり今更の紹介ということになります。

トリスターの派ならではのクールな美意識だけじゃなくウォームな面も持つアルトの巨匠コニッツ。ガット弦を張ったベースから太く低く深い音を奏で1音に郷愁を感んじさせるヘイデン。間を生かし無駄をそぎ落としたビートで音の存在する空間を浮き立たせるモチアン。きれいなだけじゃなく独特のアクを持った音を配置し聴く者を深みへと導くメルドー。それぞれが各楽器の個性派であり、演奏の芯を持った人達なので期待して聴きました。

コニッツ、ヘイデン、モチアンという大御所3人に比較的若いメルドーが入っているのはちょっと異色な感じがしますが、この人達に合うピアニストというと年齢とかは問題でなく、私にはメルドーが最適だと思えます。

この人達を聴いたことがある方は分かる思いますが、深みを持った美を奏でるという意味では共通した感性を持っている人達なので共演は上手くいっています。そしてこのメンバーでは明るく楽しく元気よくという風にならないのはご想像のとおりです。ここでは抑制の美学とでもいうものが魅力となってきます。

情報によると、この時のライブはあらかじめセットリストを決めずリハーサルもせずに臨んだそうです。なので、メンバーのオリジナルではなくやっているのはスタンダードなど良く知られた曲。《ラバー・マン》《バードランドの子守唄》《ソーラー》《アイ・フォール・イン・ラブ・トゥー・イージリー》《ユー・ステップド・アウト・オブ・ア・ドリーム》《オレオ》の6曲が収録されています。

ヘイデンとモチアンは上記の技がもはや完ぺきの域です。そこに最早達観の域に到達し飄々とアルトを吹くコニッツ、今が旬の充実ぶりとこれぞアートとしか言いようがないピアノを弾くメルドーが加わり、じっくり聴くほど味が出るような演奏を展開しています。比較的メロディーそのものを味わうものになっていますが、ラストの《オレオ》だけはソロの途中からフリーな展開があり、メルドー・トリオの場面における緊張感が私はかなり好きです。

このアルバムを聴いて誰の演奏に一番心惹かれたかと問われれば、私は迷わすメルドーと答えます。大御所の中でキラリと光るメルドー、さすがであります。ライブでろくに曲も決めずに臨んでこの一体感のある演奏は凄いです。そしてここにある音はこの人達にしか出せないものです。こんなライブを一度くらい観てみたいものです。

アルバム名:『Live At Birdland』
メンバー:
Lee Konitz(as)
Brad Mehldau(p)
Charlie Haden(b)
Paul Motian(ds)

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「PCMジャズ喫茶」に寺久保エレナさん登場!(後編)

衛星デジタルラジオ 「ミュージックバード」 の番組「PCMジャズ喫茶」の番組レポート後編です。ゲストは 寺久保エレナ さん。アルバムプロデューサーの伊藤八十八さんも来ていました。もちろんレギュラーゲストの岩浪洋三さんもいます。

番組を聴きながらメモをとり、メモを基に思い出しつつ書いていますので、誤解しているところがあるかもしれません。あらかじめご了承願います。

寺久保エレナさんが好きなジョー・ヘンダーソン(ジョーヘン)をかけることに。寺島さんと岩浪さんはジョーヘンがあまり好きではないので、寺島さんは「ジョーヘンかけるの?参ったな~。」なんて言ってました。寺島さんは「ジョーヘンはダメなんだよね。変にメロディーをすかして吹き、正しくメロディーの核心を取り出していないんですよ。」なんて言います。寺久保さんは「ジョーヘンはカッコいい。」と言います。寺島さんは「モダンでカッコいいけど、カッコいいのは聴かないんです。」と言います。『ザ・ステイト・オブ・ザ・テナー ライブ・アット・ザ・ビレッジ・バンガードVol.1』から《フライデー・ザ・13th》

曲が終わると、「やっぱりジョーヘンはね~。」と寺島さん。寺久保さんは「これ、ジャズじゃないですか?」と言います。寺島さんは「ジャズだけどね。なるほど、カッコいいと思って聴けばいいんだ。私はカッコいいを尺度にしていない。楽しいものを聴きたいんですよ。楽しいはカッコいいとつながらない。いつもジャズを楽しみながら寛いで聴いているんです。」と返します。寺久保さんは「私はいつも真剣に聴いています。」と反論。寺島さんは「私も若い時はそうでしたよ。自分ができないことをやることに敬意も表して聴いていた。でも今は無理やりカッコいいのを聴こうと思わないんですよ。」なんて言ってました。私は寺久保さんの言うジョーヘンのカッコ良さはよく分かります。一方で寺島さんの言っていることも否定しません。で、私は寺久保さんと同じようにジョーヘンを聴いています。結構ジョーへンが好きです。寺島さんのようにジャズを寛いで聴くのが楽しみな年齢に至っているわではないですからね(笑)。もちろん寛いで聴く時もあります。一方で真剣にも聴きます(特にブログ記事を書く場合)。

ここでブラインド・・テストへ。きっと誰か分からないと思うし知らないと思うので、聴いて感想を聴かせてほしいということで、ボディル・ニスカの『ファースト・ソング』から《ダニー・ボーイ》このアルバム、私も買いました。寺島さんに感化されていた10年くらい前の話です(笑)。で、今も持っているかっというと・・・、ディスクユニオンへ売られていきました(笑)。何度も聴くほど面白いものではなかったからです。私はこのアルバムのなかでは《オンリー・トラスト・ユア・ハート》が好きでした。要はこの曲が好きなんです。

「これは誰か寺久保さんが分からなくて当然。岩浪さんも伊藤さんも知らないと思います。ボディル・ニスカというテナー奏者です。2、3年前に銀座山野楽器でブームになって異常に売れたんですよ。この1曲のみを聴いて、ジャズもどきなんですが、ジャズファンもどきの人達がこれを夜な夜な聴いて随喜の涙を流したというやつなんですよ。」と寺島さん。これ、岩浪さんも知っているはずですね。色んな場面で登場してますから。ジャズもどき。ジャズファンもどき。言っちゃっいました。開き直り。「もどきで結構!」なのでしょう(笑)。「どうでしたか?寺久保さん。」と寺島さん。寺久保さんは「わざとらしい。サブトーン”フフフ~”とか、誰が聴いても美しいを思う演奏。私は遊びが必要だと思います。」と答えます。寺島さんが「でもこういう風に吹くほうが実は難しいんですよ。コルトレーンのように”ピロピロ”吹くほうが簡単なんですよ。」と言います。私はコルトレーンのように吹くのは簡単だとは思えません。比較するなら尺度が違うと思います。まっ、いつもの寺島論なのでいいでしょう(笑)。寺久保さんは「メロディーをそのとおりに吹くのは難しいです。これは歌っている感じがします。」と返します。寺島さんは「そうなんですよ。歌だよね。歌だから”ピロピロ”しないんだよね。」と満足そう。寺久保さんは「ジョーヘンだって歌っていますよ。」と反論。ここも歌っているということの捉え方にお二人のズレがあるんでしょうね。寺島さんは「こういうのを聴いて、よくサム・テイラーとかシル・オースチンとかムード・ミュージッカという人がいる。」なんて言ってました。そういう偏見で聴いてはダメということなのでしょうが、私は単純にムードミュージックとして堂々と聴けばいいんじゃないかと思います。他のジャズファンの目線を気にするところが、ジャズファンの変なプライドなのだろうと思います。

ブラインド・テストの2曲目。『M.J.Q.&フレンズ 40thアニバーサリ・セレブレイション』からフィル・ウッズをフィーチャした曲で《オール・ザ・シングス・ユー・アー》

これを聴いた寺久保さん。最初はこのアルトが誰か分からず、「聴いたことがあるけれど誰だったかな~。」と苦しんで、ソロに入るあたりでウッズと分かったそうです。「分かった時は嬉しかった。」なんて寺久保さんは喜んでいました。この前日本にウッズが来たそうで、寺久保さんは観に行ったとのことでした。ヨボヨボ出てきたけれど吹き始めたら凄かったそうです。今年80歳。ここで寺島さんは最近9万円の自転車を買い、自転車に乗っているんでじゃなくてやっているとか、そのおかげで低体温症が治ったなんて余談がありました。

岩浪さんから寺久保さんへプレゼントする曲。当てなくても良いですということで、チャーリー・パーカーの『スウェディッシュ・シュナップス+4』から《オウ・プリヴァーヴ》

「パーカーと寺久保エレナのつながりを教えて下さい。」と寺島さん。寺久保さんは小6で最初に聴いたそうです。当時はサンボーンやT-スクエアーとか聴いていたそうですが、習っていた先生からパーカーの楽譜集(有名な本らしい)をもらって、「カッコいい。」となったそうです。今はサンボーンやT-スクエアーよりパーカーがカッコいいと思う時代なんですね~。ここで寺島さんが「ジャズファンはアドリブと言うけれど、ニュージシャンはソロと言いますが、ソロはどう練習するんですか?」と質問。寺久保さんは「最初はコピーでしたが、ソロの練習はしません。スケール練習をしてカッコいいと思ったらソロで吹きます。デュオなんかでは相手の音を良く聴いています。相手についていくとかついていかないとか。こっちがやってもついてこないみたいな。細かいことが色々あります。」と回答。寺島さんは「いきなりソロはできないでしょう。ソロを譜面に書いてから練習する方法もありますよね。」と更に質問。寺久保さんは「ソロにできるできないはないです。私はどんな音でも良いから吹けばいいと思います。以前ビッグ・バンドにいた時はソロを楽譜で見て吹いていたけれど、目立ちたいから”ブヒャー”とか”ピロピロピロ”とか吹くようになって、それが私のソロの起源です。」と回答。寺久保さんの性格が分かって面白かったです。妙に納得しました。「でもコード進行とかあるよね。」と寺島さん。「コードはただの決まりです。コード進行でソロができるのは当たり前です。」と寺久保さん。「コードからわざと外す人もいるでしょう。アメリカなんかではよくどんどん転調してソロをとったりしますよね。」と岩浪さん。「そういうのもありますね。」と寺久保さん。「ジャズ教室の発表会などの時、先生がフレーズを楽譜に書いて、それを覚えるお勉強とかありますよね。」と寺島さん。「私はソロは勉強するものではないと思います。」と寺久保さん。「クラシックでは楽譜に書いたりしますね。」と伊藤さん。「自分で自分のフレーズを書くのは良いと思います。」と寺久保さん。「ジャズファンはソロを神秘的なものと捉えるところがあるんですよ。それでミュージシャンに聞いてみると、ミュージシャン自身もどうやってできるようになったか説明できないんですよ。皆変なことを聞くと言い、満足した答えは得られないんだよね。」と寺島さん。ソロは自分がやらないと分からないんでしょうね。どうやると自転車に乗れるのか聞かれても説明できないようなものではないかと私は考えます。そして勉強して自転車に乗れるようになるわけではなく実践あるのみです。

寺久保さんは今度バークリーへ入るそうです。寺島さんはオーディオベーシック誌に今度の寺久保さんの新譜はいいと書いて、最後に今の天然でいいのにバークリーに入ってアカデミック的になると困ると書いたそうです。岩浪さんも同様のことを考えたとか。「どうして今更バークリーへ入るの?」と寺島さん。「バークリーへ行くのはアメリカで生活したいからです。向こうのミュージシャンとも色々やってみたいんです。」と寺久保さん。「それならいい。」と寺島さんと岩浪さん。バークリーのスカラーシップをもらえた(6000人中外国人3人に選ばれた)ので、お金の心配もいらないから行くことにしたそうです。バークリーへ行き、古くは小曽根さんのCBSとの契約や新しくは上原さんのテラークとの契約みたいに、向こうのメジャー・レーベルと契約できれば面白いんじゃないかと思う私です。寺久保さんがどう考えているかは分かりませんが。そうなると今契約している日本のレコード会社が困っちゃうか(笑)。

ブラインド・テストの3曲目。ケニー・ドーハム&ジャッキー・マクリーンの『インタ・サムシン』から《レッツ・フェイス・ザ・ミュージック・アンド・ダンス》(注)下記のアフィリは『マタドール』と『インタ・サムシン』のカップリング盤です。

「ジャッキー・マクリーン。カッコいい。」と寺久保さん。「このカッコ良さは分かるんだよね。これは素晴らしい。ジョーヘンはやっぱりすかしているよな~。」と寺島さん。「ジョーヘンがかわいそう。」と寺久保さん(笑)。「これは真っすぐ。ジャズは真っすぐ行かなきゃ。」と寺島さん。マクリーンはもちろん良いのですが、ジョーヘンだって良いですよ(笑)。

寺久保さんは人と会うと1回見て「こんにちは。」となった時点で、「私のことを思ってくれる人、この人はダメ。」と分かるそうです。伊藤さんは「ミュージシャンは皆そうですよ。」と言ってました。寺久保さんは「ジャズを好きか嫌いかで判断しているんだろうと思います。本当にジャズが好きか嫌いか分かっちゃうです。ラジオに出演したりしても、曲を聴いて「これいいですね~。」と言っても本当にそう思っているのか分かっちゃいます。」と言っていました。「私はどうでしたか?岩浪さんは?」と寺島さん。「寺島さんは全然ダメじゃないですよ。岩浪さんは凄く優しいです。」と寺久保さん。

寺久保さんの第1作『ノース・バード』から《ティム・タム・タイム》。高校生の時、友達とお菓子を食べながら楽しいメロディーが浮かんできたんだそうです。これは家の中で作ったそうです。すぐに歌って録音するんだとか。なぜかというと書いてるうちに忘れてしまうからだそう。寺島さんが「ちょっとメロディーを歌ってみて下さいよ。スキャットでいいから。」と強引にお願い(笑)。寺久保さんは「やですよ~。」なんて言いながら、ほんの少しさわりをスキャットしてくれました。このやりとりの寺久保さんはかわいかったです(笑)。この曲、私はNHKのJ-MEROに出演したのを見ました。

これは楽しそうで屈託なく明るいのがいいです。寺久保さんの今日のやりとりを聴いていたら、やりたいことが何となく分かる気がしました。ベースのマクブライドのチェンバースばりのアルコ・ソロがうまい具合に嵌っていました。私はこの演奏が好きです。

「楽しい感じですね。」と皆さん。伊藤さんが「どこかで聴いた感じがする曲ですよね。」と言うと、寺久保さんが「そうですか~。」なんて不満そう。伊藤さんは「ジャズの曲って皆そうですよね。親しみのもてる曲ですよ。」と説明。私も伊藤さんと同じことを思いました。

ラストはもう一度寺久保さんの新譜『ニューヨーク・アティチュード』から《スター・アイズ》。寺島さんが聴きたいと思った曲(笑)。

これはアドリブでトライしているところが数か所あると思いました。寺久保さんの遊び心が出ているんだろうなと思いました。話を聞いた後で聴くと聴こえ方が違ってきますね。冒頭聴いた時よりかなり好印象になりました。リラックスした演奏をしたかったとのことなので、それが良い方向に出ているんだろうと感じました。今作は1作目よりアルトが控えめに録音されているように感じられてるのですが気のせいかな?

「これは自分なりのイントロとかエンディングを付けようと思わなかったの?」と寺島さん。寺久保さんと伊藤さんによると「スタンダードで皆でリラックスしてやりたかったのでいじっていないです。」とのことでした。「そうでしたか。聴いたら何か言ってみたくなるものなんですよ。」と寺島さん。質問は不発でした(笑)。

ということで、番組は終了。
最後までお読み下さった皆様、お疲れ様でした。ありがとうございました。

色々興味深い議論があってとても楽しかったです。私的には特にソロ(アドリブ)の話が面白かったです。寺久保さんはストレートで飾らない今時の女の娘でした。私は凄く好感が持てました。私が好きなピアニストの松本茜さんとはまた違ったかわいさがありました。そういえば同じアルト吹きの纐纈雅代さんもかわいかったな~。って、出た浮気性(笑)!

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「PCMジャズ喫茶」に寺久保エレナさん登場!(前編)

衛星デジタルラジオ 「ミュージックバード」 のPCM放送終了まであと1ヶ月に少々になりました。地上波アナログ放送終了日と同日7/24にPCM放送も終了します。JAZZチャンネルは「ミュージックバード」のもう一つのサービス「SPACE DiVA」に移行。番組編成はかなり見直されるみたいです。「PCMジャズ喫茶」はタイトルを変えて続いていくとのこと。私はどうするかといえば、「SPACE DiVA」へ乗り換えないので、「ミュージックバード」とは”さようなら”ということになります。結局ラジオってそれほど聴いている時間はないんですよね。有料放送なのでこれを機会に見切りをつけます。ブログにおいては「ミュージックバード」ネタで色々楽しむことができたので感謝しています。

さて、今日は「PCMジャズ喫茶」のレポートを久々に書きます。なぜなら話題のアルトサックス奏者 寺久保エレナ さんがゲストだったからです。「PCMジャズ喫茶」には色々なゲストが登場するのですが、ここのところどうもレポートするほど面白いものがなかったし(毎度同じ主張の繰り返しでマンネリですからね。笑)、なんか面倒だったのでレポートはしないできました。でも今回はなかなか面白かったのです。やっぱりミュージシャンがゲストだと、私的には興味深い内容になります。ましてや若手女性サックス奏者で今注目度が高い寺久保さんですから。今回はアルバムプロデューサーの伊藤八十八さんも来ていました。きっと寺久保さんが寺島さんにいじめられた時に助け舟を出すためについてきたのでしょう(笑)。

なお番組を聴きながらメモをとり、メモを基に思い出しつつ書いていますので、誤解しているところがあるかもしれません。あらかじめご了承願います。

寺久保さんは19歳になったばかりだそうで、「PCMジャズ喫茶」のゲストとしては最年少だそうです。いきなり楽器の話。寺島さんも昔サックスを買って練習したことがあり、《レフト・アローン》が好きで今でもメロディーを覚えている”レシファー、ミミファミ~”(だったと思う?)とか言って自慢しながら「今何を使っているの?」と質問。寺島さんならではの展開ですよね(笑)。セルマーを使っているそうです。いい音がするからだとか。「そんないいのを使ってるの。」と寺島さん。早速攻撃モード(笑)?伊藤さん(早速援護射撃)と寺久保さんは「いい楽器を使うと上手くなる。」と、寺久保さんは「悪い楽器だとまあこんなものかとなるけれど、良い楽器を使ってこれくらいの音しか出ないとなると更に良い音を出したくなるから。」と言っていました。寺島さんも「そういうことはよく言われますね。」と同意。まっ、これは掴みのトークなのでした。

寺久保さんの新作『ニューヨーク・アティチュード』の話題へ。良いということで珍しく寺島さんと岩浪さんは意見が一致したそうです。寺島さんが「ジャズ評論界の大御所二人が一致して良いと言っているんだから大したもの。」と言うと、寺久保さんからは戸惑いの反応があったようで、「そこで笑わなきゃ。大御所なんて大袈裟に言っているんだから。」と寺島さん。寺島さんが寺久保さんを和ませようとするのは分かりますが、戸惑う寺久保さんの気持ちも分かります(笑)。寺久保さんは「自分の演奏は良いと思わない。もっと上手く吹きたいと思う。」と言ってました。向上心が良いですね。「アルトがフルトーンで鳴っている。」と寺島さんと岩浪さん。「危なげがない。聴いていて危なっかしいともう聴きたくなくなっちゃうんだけど、それがないからいいよね。」と寺島さん。ここで寺久保さんが”危なげ”という言葉にちょっと反応。伊藤さんは「ミストーンがない。」とか言うと、寺島さんは「安心して聴ける。」と。いまいち答えになっていないような。寺久保さんは「危なげがある人、ジャッキー・マクリーンは好き。ピッチ悪いし”キーキー”いうけれど。」なんて言ってました。寺島さんは「それは分かる。別格だよね。」と。”危なげ”を巡る双方の微妙な意味合いのズレがあるんでしょう。寺島さんは褒め言葉のつもりなのに、”危なげない”演奏は当然で、それ以上を求めている寺久保さんとしては褒め言葉として捉えられなかったのかも?寺久保さんは「”キーキー”いう音は嫌いなので、出さないようにしている。」とも言っていました。

新作から曲をかけることに。曲は《インビテーション》。寺久保さんが好きな曲。ここで、新作のメンバーが凄いという話へ。「ケニー・バロン、ロン・カーター、いきなりこういうメンバーとやっちゃうともう先がないでしょう。」と寺島さん。伊藤さんが「ロン・カーターが向こうで待っていると言ってくれたんですよ。去年の東京JAZZの時に言われたから。」と言います。「こういうメンバーとやってどうでしたか?」と寺島さん。「考え方が違うんです。日本では「何でこんなに若くて小さい娘とやるの?」みたいなところもあるけれど、向こうは「あなたがリーダーだから悪いところは言ってくれ。」という感じで、音楽に対する考え方が違うんです。」と寺久保さん。寺島さんは「音楽に対して真摯なんだろうね。」と。なるほどね~。向こうは余裕があるんでしょうね。寺久保さんが出てきたからって彼らの地位は揺るがないわけです。そこへ行くと日本はモロに商売敵なわけです。複雑な心境もあるんじゃないでしょうか?寺久保さんは今回こういうメンバーとやって「私がもっと上手かったらもっと楽しいのに、もっと英語が喋れたら色々質問できたのに悔しい。」と思ったそうです。やっと曲へ。

確かに安定感がありますね。とても高校を卒業したばかりの娘とは思えません。ちょっと優等生的にも聴こえました。アルト・ソロではバックに煽られて後半徐々に強いトーン(キーキーは出さない)になっていくところが良かったです。で、バロンのピアノ・ソロになるとノリがより弾んできます。まあ、これは致し方なし。寺久保さんの今後に期待。

「凄い。素晴らしいね。」と寺島さんと岩浪さん。バックはケニー・バロン(p)、ロン・カーター(b)、リー・ピアソン(ds)です。アルバム中の3曲にドミニク・ファリナッチ(tp)が参加しています。

レコーディングのエピソード。寺久保さんはケニー・バロンやロン・カーターにダメ出ししたんだそうです。強く言ったりしたわけではないですが、レコーディングは一生残るので、言わなくて後悔しないようにそうしたんだそうです。英語はあまり喋れないけれど、通訳を通すと失礼だと思ったので、身振り手振りで必死に伝えたとか。寺久保さんのオリジナルのピアノやベースのアレンジが初見では無理なものだったらしいのですが、「何じゃこりゃ」と言いながらも何度も練習してくれたそうです。で、場が”ドヨ~ン”としてくると、ロンさんがジョークを言って和ませてくれたらしいです。たまたまその時付いたアバター・スタジオのエンジニアが日本人だったらしく、その人の話によると寺久保さんのように言う日本人は珍しいとのことだったとか。寺島さんをはじめ皆さんが「今時の人らしくていい。」と言っていました。私も同感。録音は2日で終了したそうです。

続いて寺久保さんが好きな曲。キャノンボール・アダレイの『イン・シカゴ』から《ライムハウス・ブルース》。「この曲のどこがいいの?」という寺島さんの質問に対して、寺久保さんは「キャノンボールの雰囲気を受け継いだコルトレーンのソロがいいとか、流れとか雰囲気とか、このCDで起こっていることが全部好き。」と回答。岩浪さんが「曲がいいのか演奏がいいのか?」なんて質問をするから、寺島さんが「評論家は変な質問するよね。我々はこういうことを考えたくなるんですよ。」と言いだ出します。ここでいつもの”曲と演奏”の話へ。寺島さんにとっては演奏の前に曲ありき。いい曲(メロディー/旋律)なくしていい演奏などあり得ないという話です。寺島さんが「メロディーが良くないと良いソロ(アドリブ)はない。メロディーの類似的旋律や断片が出てこないとソロが楽しめない。」と言います。岩浪さんから寺久保さんへは「曲を作る時は旋律が先か構成が先か?」なんてちょっとズレ気味の質問も。寺久保さんはちょっと困りつつ、「色々ありますが曲はメロディーから作ります。ソロをとる時はコードで吹いているのではなく、メロディーとコードの間で動いていくもので、コード進行ばかり気にするのは嫌いです。」と回答。まあ、どっちありきかというのも難しいのではないかと私は思います。

寺島さんが「コルトレーンのようにコードで吹くのは困りものだ。」と言うと、寺久保さんは「コルトレーンにもメロディーは聴こえてきますよ。マイルスもいくらぐちゃぐちゃになってもメロディーの中で吹いているように聴こえます。」と言います。寺島さんは「じゃあ今夜コルトレーンからメロディーが聴こえてくるかよく聴いてみますよ。多分ダメだろうけど。」と、負け惜しみ(笑)。この辺りはもうメロディーに対する根本的な感覚の違いとしかいいようがありません。私は寺久保さんの言っていることに共感します。寺久保さんは「《ライムハウス・ブルース》でも、コルトレーンはキャノンボールのソロを引き継いでいる。皆でバラバラになったり一つになったり、そういうのを皆でして行っている。」と続けます。すると寺島さんは「我々普通のジャズファンはそういうことが分からない。中に入らないと(演奏しないと)理解するのは難しい。そこがわからないから、ミュージシャンにはかなわないと思うんですよ。」と言います。それを聞いた寺久保さんは思わす「やったー、」なんて歓喜の声を上げてました(笑)。それを聴いた寺島さん「でもプロデューサー(寺島さん含む)はミュージシャンに分からないものが見えるところもあるんですよ。」と反論。「そういうことはありますよね。」と伊藤さんも言ってました。あれっ、そういえばこれと同じようなことを中山さんも言っていたような・・・(笑)。私は今回の寺久保さんの発言を聴いて「なるほど、ではそういうことを意識してもう一度聴いてみよう。」と思いましたが、寺島さんのようにコンプレックスはあまり感じませんでした。寺島さんって結局コンプレックスに端を発する反発意見みたいなもので成り立っている気がします。メロディー発言も自分に理解できないことへのコンプレックスであり反発なのだと思います。

ミュージシャンに見えないものの話の続きで、「ミュージシャン本位だと一般リスナーに受けないだろうと思うこともあるんですよ。」なんて話をすると、寺久保さんは「私はリスナーのことは特に考えていません。」と反論。寺島さんは「寺久保さんのように若いうちからそんなことは考えなくていいんですよ。そういうことはプロデューサーが考えれば良いことです。」と言ってました。ここで「コマーシャルな演奏って知ってる?」と寺島さん。寺久保さんは「コマーシャルって宣伝ですよね。」と知らない様子。寺島さんは「大衆受け狙いのこと。シャリコマ。」なんて説明。伊藤さんは寺久保さんのアルバムについて「シャリコマは少し入れてますよ。いいところを引き出してあげたいから。」と言います。

ここでシャリコマに関してアルバムの曲順の話へ。『ニューヨーク・アティチュード』は伊藤さんと寺久保さんで2曲目までは一致した選曲だったけれど、それ以降で少しもめたとのことでした。「1曲目はこけおどし的、インパクトがある曲を選びました。」と伊藤さん。「それはシャリコマじゃないです。」と寺島さん。「私なら《ディス・ヒア》《デル・サッサー》《ボディ・アンド・ソウル》など誰でも知っている曲を頭にもってきます。」と続けます。いつもの寺島流プロdヒュース論ですね(笑)。伊藤さんは「LP時代は片面20分でやり易かった。起承転結ができた。CDは飛ばし聴きもできるので続けて聴かせるのは難しい。」と言っていました。寺島さんは「それはわかります。」と言いつつ、「自分の知っている曲でないと分からないんですよ。初めて聴くミュージシャンのCDの場合、知っている曲から聴き、曲をどう解釈するかでそのシュージシャンの好き嫌いを決めます。」と続けます。これって、寺島流シャリコマでは1曲目に誰でも知っている曲をもってくるということなのでしょうけれど、そもそも今時誰でも知っているジャズスタンダードなんて少ないわけで、寺島さんが言うところの一般ジャズファンってかなりジャズ聴きこんでいるんじゃないでしょうか。一般ジャズファンと言うのかな~?岩浪さんは「裏切ってくれたほうが良いこともあるんじゃないですか?」なんて意見を言います。寺島さんは「そういう場合もありますけど、あんまり突飛な新しいことをやられても困るんですよ。ファンはついていけないんですよ。」なんて言います。

それを聴いていた寺久保さんが噛みつきます。「新しいことをやっていないと音楽は発展しないと思います。」と寺久保さん。いつもなら音楽は発展する必要はないと切り捨てるはずなのに。今回の寺島さんはちょっと違いました。寺島さんは「新しいことはジャズファンの10%、100人の中の10人が聴いていればいいんですよ。ミュージシャンも全てが新しいことをやる必要はないんですよ。」と言います。寺久保さんは「皆で新しいことをやっていかないとダメです。でないとマイルスみたいな人も出てこないから。」と反論。私は寺久保さんの意見に大いに賛成。もう一つ言うなら、ミュージシャンが新しいことをして、それを聴くリスナー(ファン)がいないとダメということです。寺島さんは「オーネットも白いプラスチックのサックスで突飛なことをやったからダメなんですよ。」と言います。伊藤さんが「でも今聴けば普通ですよね。メロディーも普通に聴けますよね。」と言うと、寺島さんは「オーネットの曲はいいんですよ。」とj返します。『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン』(たぶん寺久保さんが持ってきたCD)を例にとり、伊藤さんが「これもダメですか?」と言うと、「ダメです。ドラムとベースを聴くために年に2,3回は聴くかもしれないけれど。」と寺島さん。まっ、寺島さんの言うことだから目くじらたてて反論してもしょうがないか(笑)。

今日はここまでにしておきます。後半戦もなかなか面白かったですよ。
久しぶりにたくさん書いたら疲れました。フウ~ッ。

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ということで、ゲイリー・バートンの新譜

前回は予習ということでゲイリー・バートンの『ジェネレーションズ』を聴きました。今日は新譜の紹介をします。

P156 ザ・ニュー・ゲイリー・バートン・カルテット『コモン・グラウンド』(2011年、MACK AVENUE)です。メンバーは、ゲイリー・バートン(g)、ジュリアン・レイジ(g)、スコット・コリー(b)、アントニオ・サンチェス(ds)です。これはなかなか強力メンバーだと思います。ピアノレスなのがいいと思います。ホーンレスでヴァイブ、ギター、ピアノではハーモニー楽器過多な気がします。バートンは複数マレットでハーモニーも叩きますからね。

一聴して感じたのは少し暗めのサウンドということでした。バートンのヴァイブラフォンそのものは明るいのですが、曲調が落ち着いていて沈み気味のトーンのものが多いのです。この憂いを帯びたほの暗さが現代的だと私には思えます。

今回はバートンの曲が1曲あります。他はレイジの曲が2曲、スコット・コリーの曲が1曲、アントニオ・サンチェスの曲が2曲、ワディム・ネセロフスキーの曲が2曲、キース・ジャレットの曲が1曲、それに加えてなぜか《マイ・ファニーバレンタイン》。

ネセロフスキーはバートンのグループ「ネクスト・ジェネレーションズ」に起用されていたピアニストです。いかにもバートンが好みそうな哀愁曲が取り上げられています。レイジの曲は何となく東欧のクラシカルなイメージ。

演奏からも感じられるんですが、レイジはヨーロッパのギタリストみたいな音選びとテクニカルな演奏をするようになっています。唯一のスタンダード《マイ・ファニー・バレンタイン》の出だしなんてモロにクラシック・ギターですよ。いやっ、でもとにかくしっかりした演奏をしていますね。いいです。ジャズ・ファンにとってはこのクラシカルな雰囲気に好き嫌いがあるかも?今は『ジェネレーションズ』の時のようなメセニー臭はありません。そういえばドラムのエリック・ハーランドのアルバムでは現代的な尖がった熱いジャズ・ギターを弾いていました。色々できる器用さも持っているんでしょう。

バートンはここでもやっぱりバートン(笑)。爽やかでメロディアスな演奏とクリーンで粒立ちの良いヴァイブの音が素敵です。バートンとレイジの絡み具合はかなり緻密です。曲はそれぞれ構成がしっかりしているので緻密な2人のからみが味わえます。相変わらずグループをしっかりまとめあげてバートン・サウンドを構築。バートンもまだまだやってくれます。

コリーとサンチェスがいいですね。コリーのしっかりしたトーンのベースと哀愁を感じさせるセンスの良い音選びはなかなかのものです。自身の曲などでは強靭なベースソロを披露。逞しいです。よく聴くと深みがあるベースです。サンチェスとのコンビはコリーがいいように思います。サンチェス自信のグループでコリーを起用しているのも分かります。

そしてサンチェス。やっぱりこの人のドラムはいいですね。こういうコンテンポラリーなグループでドラムを叩かせたら抜群のセンスを発揮します。しなやかで大きなスイングです。細かいことを色々やっているのに小賢しくないのです。自信の曲に4ビートの曲があるのですが4ビートも上手い。自信の曲でのドラム・ソロは相変わらずアートしてます。

ラストはキースの曲でカントリーな雰囲気を漂わせて懐かしい気分でエンド。落ち着いたトーンのせいもあるのでしょうが、しっかり手応えのある内容に仕上がっています。テクニシャン揃いなのにテクニックに頼るような浮ついたところはないです。通して聴くとちょっと重くなってしまうかもしれませんが良いアルバムに仕上がっています。

アルバム名:『Common Ground』
メンバー:
Gary Burton(vib)
Julian Lage(g)
Scott Colley(b)
Antonio Sanchez(ds)

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ゲイリー・バートンの新譜を紹介する前に。

どうも私は一人のミュージシャンや一つのレーベルなどを追いかけたりするのが性に合わないのです。マイルス、ウェザー・リポート、ジャコなどはかなり追いかけたけれどいい加減です(笑)。もともと浮気性な性格なので、あれもこれも手を出したくなります。なので何か一つを極めている人に出会うと尊敬してしまいます。と、いきなりの戯言はさて置きまして、アルバム紹介に参りましょう。

P155 ゲイリー・バートン『ジェネレーションズ』(2003年rec. Concord)です。メンバーは、ゲイリー・バートン(vib)、ジュリアン・レイジ(g)、小曽根真(p)、ジェームス・ジナス(b)、クラレンス・ペン(ds)です。新進気鋭のジュリアン・レイジを起用して話題になったアルバムです。なんでこのアルバムを買ったんだったっけ?たまにはバートンが聴きたくなったのと、レイジが気になったからだろうと思います。

ジュリアン・レイジは今23歳、最近2作目のリーダー作を出しましたね。ということは、このアルバムを録音した当時は8年前だから15歳!大抜擢ですね。この人、私の中ではあんまり話題にならない人です。でも、名前が聞こえてくると気になる存在ではあるのです。今回久々にゲイリー・バートンの新譜を買ったのですが、それはレイジの名前があったからです。でも、レイジのリーダー作は買う気になりません(ネットでの噂を見る限り)。今回はゲイリー・バートンの新譜評を書く前に、このアルバムで再確認しておこうという趣向です。

バートンのアルバムというのは、まず期待を裏切らないというか、ある範囲からは逸脱しないところが良さであり悪さであると思います。安心感はあるんだけれど驚きはないのです。そんなバートンが適度に好きな私(笑)。バートンの良さは爽やかで適度に哀愁を帯びたメロディアズな演奏に尽きると思います。このアルバムにもそんなバートンが溢れています。

このアルバムでは、レイジの3曲、小曽根の2曲、ミッシェル・フォアマンの1曲、ピーターソンの1曲、メセニーの1曲、カーラ・ブレイの1曲、スワローの1曲の全10曲を演奏しています。メセニーやスワローが良い曲だというのは分かるのですが、ピーターソンがこんな軽やかな美メロ曲を作曲していたとは驚き。サンバ調のリスムで皆さん快適に歌いまくっています。さすがはバートン、自分にあった曲を探してきますね。

バートンってあれだけ良いメロディーの演奏をするのに意外と作曲しません。作曲した曲も名曲として残るような曲は作っていないですよね?面白いです。メセニー、カーラー、スワローの良い曲を、自分の曲の如くメロディーの美点を引き出して演奏するのがバートンの素晴らしさです。

さて肝心のレイジは如何に?う~む、14歳にして既に落ち着きはらって風格すら備わっているように聴こえます。バートンによって見出されたメセニーにやっぱり似ていますね。メセニーの曲ではメセニーが弾いているように聴こえます。個性はあまりないと思います。14歳という若さを差し引くと、私には普通のギタリストに聴こえます。でも14歳で普通のギタリストって凄いことですよ。さて、22歳になったレイジはどんな風に成長したんでしょう?

小曽根はチック・コリアに近いのでバートンとの相性は抜群。チックよりしなやかで押しがあんまり強くないところがこの人。品が良い演奏が良さなのですが、そこが物足らないと言えば言えなくもないです。ジナスとペンはもう完全に脇役ですね(笑)。大丈夫です。好サポートをしております。黒人のベースとドラムですが黒いグルーヴはないです。そしてみんな脇役になってしまうのはしょうがないです。バートンの個性が強いんですから。

バートンの爽やかなヴァイブラフォンに酔って下さい。良い曲揃いです。私が大好きな曲、スワローの《レイディーズ・イン・メルセデス》をやっています!レイジも頑張っています。実はめったに聴かないアルバムだったのですが、今回聴いて良さを認識しました。

アルバム名:『GENERATIONS』
メンバー:
Gary Burton(vib)
Julian Lage(g)
小曽根真(p)
James Genus(b)
Clarence Penn(ds)

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今回のクリス・クロスはこれだけかも?

新譜紹介です。クリス・クロスから何枚か出た今回の新譜の中の1枚。これなんか私が徘徊するジャズブロガーの皆さんはほとんど購入していて、既に皆さんブログにUPしています。今更私がUPする意味は大して無いのかもしれませんが、まっ、せっかく買ったんですから紹介しておきましょう(笑)。他のブログとかぶらない私のブログの読者の皆さんがいらっしゃるわけですし、複数ブログを徘徊していらっしゃっる読者の皆さんにとってはクロス・レビュー的な見方もできるわけですしね。

P154 アレックス・シピアギン『ディスティネーションズ・アンノウン』(2011年rec. CrissCross)です。メンバーは、アレックス・シピアギン(tp,flh)、クリス・ポッター(ts)、デヴィッド・ビニー(as)、クレイグ・テイボーン(p,Fender Rhodes)、ボリス・コズロフ?(b)、エリック・ハーランド(ds)です。この手のジャズを聴いている方には分かると思いますが凄いメンバーです。オールスター級。

クリス・クロス・レーベルは年に数回、何枚かずつまとめて新譜が出る(輸入される)のですが、私には全部追い掛ける元気はありません。全部聴くなんて私に言わせれば野暮です。自分の聴きたいものを選んで聴いてこそ粋ってもんですよ(笑)。全部買ったってほとんどが数回聴いておしまいっていうことになります。そんなムダなことはせずに、選んで買って何度も聴いたほうがエコってもんです。アルバムも報われます(笑)。今回出た中では今のところこれだけ買っています。ビニーの新譜は変わり映えしていないみたいなので、もうフォローやめようかな~?

さて、本アルバムの話です。基本クリポタ買いですが、ビニーもフォローしている一人ですし、センスが素敵と思っているテイボーンがいますし、少し前に紹介したジョシュアの新譜でも冴えていたハーランドがいます。唯一あまり知らないのがベースのコズロフ(と読むの?)。もちろんリーダーのシピアギンの新譜はここ数年フォローしてます。ハズレがない人です。

これは典型的な現代先端ジャズ。その中ではポスト・バップ。リズムは変拍子や非4ビート。ちょっと無機的なメロディー。アンサンブルや曲構成も重視。むやみに燃え上がらす落ち着いたダークなトーンという感じです。典型的でない部分もありますね。まずメロディーが比較的メローなものが多いです。良いメロディーで内省的ではないです。シピアギンの作曲センスの良さでしょう。この手のニューヨーク系に多いユダヤ臭やエスニック調もほとんどなし。それと曲構成より各人のソロ(アドリブ)を重視しています。ソロが素晴らしいメンバーが揃っているので聴き応えがあります。

全7曲中6曲をシピアギンが作曲。ラスト1曲のみトニーニョ・オルタが作曲したラテン名の曲。シピアギンの曲は前述のとおりメロー系の良いメロディーの曲が多いです。テイボーンのエレピがメローさを引き立てていますね。11分以上の曲が5曲あるので各人のソロがたっぷり楽しめます。

落ち着いたトーンでしっかりフレーズを積み重ねやる時はやります職人シピアギン、クールな中に熱さと哀愁を秘めたキレの良いビニー、メカニカルな音列を基にしているはずなのにおおらかさも感じさせる独特の節回し現代テナーの雄クリポタ、実は哀愁も秘めている現代知性派クールビューティーなら任せろでも毒もあるよのテイボーン、なかなか手堅く強靭でこのメンバーとも十分やっているコズロフ、緩急自在で鋭いキレと盛り上げも上手いハーランド。う~ん、かなり鉄壁の布陣。

現代先端ジャズ。でもこれはそれほど怖くありせん。
シピアギン、ビニー、クリポタ、テイボーンのソロを聴いて下さい!
”どこからでもかかってこいっ?”な1枚(笑)。

アルバム名:『DESTINATIONS UNKNOWN』
メンバー:
Alex Sipiagin(tp, flh)
Chris Potter(ts)
David Binney(as)
Craig Taborn(p, Fender Rhodes)
Boris Kozlov(b)
Eric Harland(ds)

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空や雲の写真

空や雲を眺めるのが好きです。
撮りためてあった写真からピックアップ。
自然とともに暮らしている私達。

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いかがでしたでしょう。
気持ちが少しは和みましたか?

富士山写真も追加しておきます。

P153

こんなのを聴きながら写真を見るのもいいかもね?

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ジョンスコ流哀愁泣かせ技

東日本大震災から3ヶ月経ちました。
時はどんどん過ぎ去ります。
前を向いて行きましょう。

最近聴きたい新譜がわんさか出てきて困っています(笑)。
別に困らなくてもいいんですが、全部買って聴く程のお金も時間もないので、選択しなければならないのが困ると言えば困るわけです。
で、紹介したい新譜もたくさんあるのでブログには順次UPしていきます。

P144 今日はジョン・スコフィールド『ア・モーメンツ・ピース』(2011年rec. Emarcy)です。メンバーは、ジョン・スコフィールド(g)、ラリー・ゴールディングス(p,org)、スコット・コリー(b)、ブライアン・ブレイド(ds)です。メトロポール・オーケストラと共演した前作も良かったけれど今回は如何に?

これはジョンスコの哀愁アメリカン・ソング集という感じのアルバムです。スロー、ミディアム・テンポで曲を愛でながら弾くジョンスコがいい感じなのです。決してソロ(アドリブ)の技を聴かせるのではなくて、曲(メロディー)を聴かせてくれます。メロディーを聴かせるとは言いますが、皆さんご存知のとおりジョンスコ節なわけですからひと癖あります。ただ今回癖は控えめのように思うのですがどうでしょう?

ジョンスコのオリジナル曲他、レノン/マッカートニー、カーラ・ブレイ、アビー・リンカーンの曲や、スタンダードの《アイ・ウォント・トゥ・トーク・アバウト・ユー》《アイ・ドント・ノウ・ホワット・ラブ・イズ》《アイ・ラブズ・ユーポーギー》などをやっています。このスタンダードの選曲だけを見れば哀愁ラブ・ソング集みたいです(笑)。ジョンスコが哀愁ラブソング?実は結構泣かせてくれる演奏です。独特ではありますが、ジョンスコは聴く人の胸にグッとくるような演奏もできる人です。ジャム・バンド・ギタリストとしてのジョンスコも悪くはないのですが、私はこういうジョンスコが好き。

ジョンスコのオリジナルは全12曲中の5曲。みんないい曲だと思います。昔の話で申し訳ないのですが、アルバム『スティル・ウォーム』に入っていた《ピックス・アンド・パンズ》なんか私は大好きです。今回のアルバムでは《ジョアン》、《プレイン・ソング》など、ちょっぴりベタな哀愁メロディーが気に入りました。

各メンバーについて。ますピアノとオルガンのゴールディングスは、ジョンスコの癖に対してあくまで素直で品の良いプレイをしています。ジョンスコの癖とゴールディングスの品、対照的でありながら今回は実に上手くブレンドしているように思います。ジョンスコがコテコテ気味にソロをとったあとにゴールディングスがさらりとソロをとっているのは、ステーキの後に出てくるデザートみたい。オルガンの”ショワショワ”が哀愁を掻き立てる場面もあって素敵です。

ベースのコリー、私が買うコンテンポラリー系のアルバムに最近やたらとこの人の名前があります。ドラムのアントニオ・サンチェスとのコンビも多いような気がします。私が聴いた感じでは特徴があまりないベースなのですが、これだけ色々なところに起用されるということは、その安定したセンスの良いプレイが評価されているということなのでしょう。

ドラムのブレイド、文句はありません。やっぱりこの人はアーティスティックなのです。単にリズムをキープするだけでなく、サウンドにアートを感じさせてくれます。手数は少なめですが必要にして十分。”ガシガシ”煽ったりしませんが、包み込むように”ジワジワ”と盛り上げてくれます。今回のようにミディアム/スローの8ビートをやらせたらこの人に勝る人はなかなかいないでしょう。

ラストの《アイ・ラブズ・ユーポーギー》は必調。ほぼオルガンとギターのデュオ。ドラムはほんのちょっと入っています。これぞジョンスコ流哀愁泣かせ技なのだと思います。ワン・アンド・オンリーの世界。郷愁感タップリのギターと近未来を感じさせる機械音的オルガンのブレンド。面白いと思います。

じっくり味わえるアルバムになっていると思います。

アルバム名:『A MOMENT'S PEACE』
メンバー:
JOHN SCOFIELD(g)
LARRY GOLDINGES(p, org)
SCOTT COLLEY(b)
BRIAN BLADE(ds)

これもおすすめ!

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新譜ばかりじゃなくて昔のバップも聴きます。

新譜を追いかけるのも楽しいのですが、そればかりではなく昔のバップも聴きます。

P143 フィル・ウッズ・ウィズ・レッド・ガーランド『スガン』(1957年rec. STATUS/PRESTIGE)です。メンバーは、フィル・ウッズ(as)、レイ・コープランド(tp)、レッド・ガーランド(p)、テディ・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds)です。ジャケット写真がだいぶヨレヨレです。それにしてもプレスティッジのジャケット写真はひどいものがありますよね(笑)。

私が持っているのはオリジナル盤レコード。オリジナル盤とは言ってもプレスティッジの傍系レーベルSTATUSのものなのでそれほど高くなかったです。一応VAN GELDER刻印あり。盤質はかなり良いです。前所有者が日本語のライナーノーツを入れていました。ライナーノーツを書いているのはジャズ喫茶「イントロ」の茂串さんです。

たぶん数千円で買ったような気がします。10年以上前に買ったので忘れてしまいました。西新宿にあった「コレクターズ」で買ったのか?大久保にあった「ヴィンテージマイン」で買ったのか?渋谷の「ジャロ」で買ったのかも忘れてしまいました。

こういうものは当時のオリジナル盤で聴くと、時代の匂いまで一緒に再生してくれる感じがして、何とも言いあらわせない気分に浸れます。ジャズ演奏そのものより付随するものに価値を見出しているのですが、それもまた良いのではないかと思っています。

抜けの良い音で爽快にアルトを鳴らすウッズ。繰り出される微妙な哀愁を含んだ良く歌うバップ・フレーズは至って快適です。ジャズの基本はこれなんですよね。難しいことを考えずに楽しめます。トランペットのコープランドはちょっと知名度が低いですが、何の心配も必要ありません。ウッズに負けず劣らずの歌うフレーズで歯切れよくトランペットを鳴らしています。ちょっぴり地味な感じもするかも?

ピアノのガーランドはコロコロと気持ち良く音を転がし、時折見せるブロック・コードがお洒落に響きます。ベースはズンズン・ブンブンと安定感を持って音を推進。ドラムは小気味よくシンバル・スネアを叩きながら要所でバシンッとキメてくれます。ベースのコティックとドラムのスタビュラスは白人なんですね。当時って、黒人/白人関係なく黒いんだな~。

私のお気に入りはウッズ作曲の《ラスト・フリング》。ちょっとかわいらしい雰囲気をもつ哀愁マイナー・メロディーが好きです。日本人好みのメロディーかも?ウッズ作曲のタイトル曲《スガン》のはじける感じも良いです。

レコードの話に戻りますが、レコードの音はプレーヤ(トーンアーム)、カートリッジ、フォノイコライザーによって千変万化するので難しいのですが、きちんとセッティングして鳴らした時の味わいは格別なものがあります。

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新譜紹介。トリロク・グルトゥ。

Amazonの「この商品を買った人はこんな商品も買っています」を見て買ったアルバムです。出てからだいぶ経っているようなので準新譜でしょう。

P142 トリロク・グルトゥ・ウィズ・サイモン・フィリップス+NDRビッグ・バンド『21スパイシーズ』(2010年rec. MIG)です。メンバーは、トリロク・グルトゥ(per,ds,vo,etc)、サイモン・フィリップス(ds)、ミシェル・アリボ(b)、ローランド・カベーザス(g)、マルシオ・ドクター(per)、vladyslav sendecki(key)、NDRビッグバンド(4tp.4tb,6sax)です。

トリロク・グルトゥはインド人のパーカッショニストで元オレゴンのメンバー。ドン・チェリー、ジョン・マクラフリン、ジョー・ザヴィヌル、パット・メセニー、ラリー・コリエル等との共演歴があります。サイモン・フィリップスは上原ひろみの新譜に参加。TOTOのドラマーも務めたロック系のセッション・ドラマーです。

他のメンバーをネットで調べたところ、ミシェル・アリボ、ローランド・カベーザス、マルシオ・ドクター、vladyslav sendeckiの4人はフュージョン系のミュージシャンのようで、アルバムを出していたりします。この4人について私は全くの未知。グルトゥ、フィリップスとこれらのメンバーが核となり、そこにNDRビッグ・バンドのホーン陣が加わった構成です。NDRビッグバンドといえばザビヌルの『ブラウン・ストリート』で共演していましたよね。

全7曲、1曲を除いてグルトゥが作曲。5曲がフェスティバルでのライブ録音、2曲がスタジオ録音になっています。最近はビッグバンドものも結構聴くようになりましたが、コンテンポラリー・ビッグバンドはなかなか良いです。

1曲目はタブラが先導して静かに始まりますが、曲が進むに連れてウェザー・リポートの《バディアの楼閣》に通じるものが感じられます。途中でソロをとるテナーは何となくウェイン・ショーター風。ウェザー~ザビヌルへの接近が感じられます。フィリップスが後半にあらわれ一挙に登りつめてエンディングへ。

2曲目はグルトゥのスキャット?も入って元気よく始まります。これがもろにザビヌルの曲なのです。ライナーノーツを見たらジョー・ザビヌルに捧ぐと書いてありました。なるほどね。いや~っ、グルトゥがザビヌルのサウンドを受け継いでいたとは知りませんでした。エレベはジャコ~ヴィクター・ベイリー~リンレイ・マルト風。ザビヌルが好きなベース・プレーです。かなりのテクニシャン。躍動的なウキウキする曲で後半4ビートになるところも面白いです。フィリップスのドラムも暴れまくってます。かなり気に入りました。

3曲目はジョン・マクラフリンに捧ぐとなっています。私にはこれがマクラフリン系の曲なのかどうかよくわかりません。複雑なリズムのフュージョン曲。タブラがいいですね。複雑なリズムをしっかりドライブさせるフィリップスのドラムもいいです。ベースも難しいリズムを乗りこなしていきます。後半にあらわれるフェンダー・ローズのソロはチック・コリア風か?要は80年代テクニカル・フュージョン。

忘れていましたがどの曲にもぶ厚いブラス・ハーモニーが加わりサウンドに彩りを与えています。4曲目にはトロンボーンのソロが、5曲目にはバス・クラリネットのソロが、7曲目にはトランペットのソロが、6、7曲目にはギターのソロがフィーチャされています。ホーンのソロはNDRのメンバーですがなかなかのもの。ギターはジョン・スコフィールドから灰汁を抜いた感じかも?トランペットはエフェクターをかけていてまるでランディ・ブレッカー(笑)。

テクニカル・フュージョンにエスニック・フレイバーをほどよくまぶし、躍動的なパーカッション&ドラムが演奏をリードしながら進む展開はどれも陽性。聴き進むうちに気分は明るくなり元気がもらえるところが良いです。私的にはザビヌルの音楽が持っていたポジティブなパワーをここにも感じるので喜ばしく思います。ジョー・ザビヌル好きには是非聴いてほしいアルバム。

アルバム名:『21 SPICES』
メンバー:
Trilok Gurtu(per, ds, etc)
Simon Phillips (ds)
Michel Alibo (b)
Roland Cabezas (g)
Marcio Doctor(per)
Vladyslav Sendecki(key)
NDR Big Band

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清里をブラブラ

土曜日、天気が良かったので午後から清里へ行ってきました。
清里へ行くのは20年ぶりくらいかな。
それぞれの場所はおぼろげな記憶しかなかったのですがGO!

まずはキープ・ファーム・ショップ。
お店の前の牧場はご覧のとおり。緑と空の青がいい感じでしょ。大自然満喫!

P130

ここは特に何もなし。ギフトショップ兼レストランが1件あるだけでした。

そこから清泉寮へ。
ここに来たのは幼稚園の遠足が最初だったはず。
帰ってきて遠足の絵を描いた記憶があります。
その後、家族で来たこともありました。
中学校の林間学校のときにも来ました。
そういえば会社の先輩と白樺高原や清里を旅行したこともあったっけ。
ここがメインの建物です。

P131

懐かしい!
目の前の牧場。それなりに人がいました。観光バスも来ていました。

P132_2

名物のソフトクリームを食べようかと思ったのですが、
お店の前には長い行列ができていたので断念。

続いて美し森へ。
ここに来るのは30年ぶりくらい。
中学校の林間学校のとき以来です。その時は天女山へ登りました。
麓の駐車場に車をとめて少し山を登ります。
登っていく途中がこの景色。どうです。いい眺めでしょ。

P133

左側には野辺山電波天文台の白いパラボラアンテナが1基見えました。

P134

ということで到着。標高1542M。

P135_2

あらまっ、ここでもソフトクリームを売っているじゃありませんか。
しかも並んでないし、では買いましょう。

P136

評判どおり美味しいではありませんか。
近くにこんな看板がありました。手作り感がなんともトホホ(笑)。
何々、”日本一おいしい”って書いてありますよ。
食べていたらお店のおばちゃんのアナウンスが。
「清泉寮で売っているのと同じで、あちらは¥350だけれどこちらは¥200(団体)で売っています。」なんて言ってます(笑)。
並ばなくて良いし、しかも安いとは、かなり得した気分。

お店2階の展望台からの眺めはこんな感じ。

P137

ベンチに座ている皆さんがソフトクリームを買って食べているんです。
さっきの宣伝効果は抜群でした(笑)。

帰り道、清里の駅を通り過ぎ国道へ出たところに”萌木の村”の看板が。
そういえばここには一度も来たことがなかったので入ってみることにしました。
真中に広場があってその周辺にお店などがありました。これがその広場。

P138

周辺にはこんなメルヘンチックなお店が数件あります。

P139

森のメリーゴーラウンドなんてのがありました。いい雰囲気です。
彼女、彼氏と一緒に乗れば気分は最高でしょう(笑)。

P140

アメリカンなトラクターがオブジェになっていました。

P141

萌木の村は彼女、彼氏とのデートには最高ですね。家族で来るのもよし。
犬の散歩をしている人がいましたよ。
近くにはオルゴール博物館もあります。是非お出かけ下さい。

バブルの頃は“清里”と言えば一大リゾート地でした。
たけしのカレーハウスか何かがあったりしました。
駅周辺は人で大混雑の賑わいだったのです。
それが今じゃ駅前なんてガラガラでした。ほとんど人がいませんでした。
日曜日はもう少し混雑するのかも?
今はのんびり自然と過ごせる場としてオススメです。

「PCMジャズ喫茶」なんか聴かずに健康的に過ごした土曜の午後でした。

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大西順子さんのライブレポートです。

一昨日、甲府「桜座」大西順子さんのライブを観てきました。楽しかったです。

P127 前回2年前、大西さんが「桜座」に来た時はさすがに満員状態で、私は遅く行ったため良い席がありませんでした。ちなみに「桜座」は全席自由席。今回はそうならないように開場時間に到着。既に結構入っていましたが良い席は確保できました。席を確保して早速ビールを1杯。恒例です(笑)。

P128 楽器の配置は前回と同じでした。ピアノの上に小型モニタースピーカーが置いてあるのが特徴。ピアノの椅子の座面は結構高めですね。ドラムセットはシンプルです。ベースが良い色をしていました。今回はドラムがジーン・ジャクソンさん、ベースがブレント・ナッシーさん。ジャクソンさんは大西さんの『楽興の時』で競演しています。ナッシーさんは初めて聴きます。

前回は凛々しい大西さんに惚れましたが今回は如何に?ステージに現れた大西さん。あれっ?今回は何か柔らかい雰囲気になった気がします。演奏が始まりました。途中リズムチェンジして8ビートになるノリの良い曲でした。《16番》(まだ曲名がない)。う~む、柔らかい雰囲気になったそのままにピアノの音まで弱くなったような気がしたのですが・・・?

ジャクソンさんのドラムは凄かったです。オーソドックスなドラミングなんですけれど強力にグルーヴします。ナッシーさんは堅実サポートタイプのベーシスト。やさしく包んでくれそうな感じの人で、ベース演奏もその人柄があらわれたものでした。

曲が終わると大西さんがメンバー紹介。ナッシーさんが日本に住むようになって10年くらい経つとか、東京に一軒家を持っているとか、原発事故があったのに逃げなかったとか、今回はユーモアも交えてMC。2年前の曲名のみとは違ってますね。こんなところにも柔らかさが出ていたように思います。肩の力が抜けて自然体になったような感じがしました。

『楽興の時』から2曲続けて《ミュージカル・モーメント》《ビタースイート》だったと思います。ナッシーさんのベースをフィーヂャ。堅実ベースでした。曲が哀愁を帯びたせいもあってか、ここでも柔らかいピアノを弾いているように感じました。で、次の《煙が目にしみる》のソロ演奏(ベースとドラムなし)でようやくピアノが活き活きしてきたのです。この曲は『楽興の時』でもピアノ・ソロでやっています。間の取り方やノリ方がとてもジャジーで私お気に入りの演奏。続けて曲名不明曲へ。ナッシーさんはアルコ(弓弾き)も披露。ノリが良い演奏でした。

で、どことなく《ポインシアーナ》似のエンディングテーマ曲。曲の途中でメンバー紹介をしてしばらく演奏して終了。私はこのエンディング曲が気に入りました。1時間ほどでファースト・セットは終了。

今回座ったところから大西さんの手元はよく見えたのですが、後ろ寄りの横顔しか見えなかったので演奏中の表情は見えませんでした。でも、前回と比べたら上記のとおり自然体で良い印象を受けました。最初いまいち冴えなかったのはまだ体や指が温まっていなかったのか?慎重に入ったのか?

相変わらず楽譜を置いての演奏。ほとんど楽譜を見ていないので、安心のために置いてあるんじゃないかと勝手に想像してます。そういえば演奏が終わる度にハンドタオルで鍵盤を拭くのが印象的でした。指汗が気になるのかな~?早く弾くことが多いので滑るのを避けるためなのでしょうね。そして相変わらず高いヒールの靴を履いていました。そうそう、メンバーのソロが終わった後、拍手を促す場面もありました。自分のソロの後の拍手にも会釈する時もあったし好印象でした。

しばらく休憩してセカンドセット。『楽興の時』に入っていた《バック・イン・ザ・デイズ》から。見違えるようにピアノが良く鳴るようになっていました。タッチも冴えてきたんです。こうなると俄然気持ち良く聴けます。アップテンポのグイグイと押す曲なので余計楽しかったです。次から次へとフレーズを繰り出す大西さんのピアノは痛快。ジャクソンさんのドラムがまたいい具合に煽るんですよね。こういうドラミングを聴くと、黒人のリズム感ってやっぱり違うんだなと納得してしまいます。

続けて《三文オペラ》。聴いたことがあるな~と思っていたのですが、演奏後のMCで理解。こういうブルージーな雰囲気は大西さんに合っていると思います。途中ベースとドラムなしでピアノ・ソロをとったりするしっかり構成された演奏でした。『バロック』は管と一緒にやっていますが、今回はトリオ・バージョンとのこと。私的にはこの演奏がこの日最高の出来だったように思います。

アーマッド・ジャマルのアレンジ・バージョンで《ダーン・ザット・ドリーム》。これも気持ち良い演奏でした。バッパー大西順子ここにあり!次々繰り出されるバップ・フレーズは快適快適。続けて《ネバー・レット・ミー・ゴー》。最初腕をクロスして弾いていました。ちょっとセンチメンタルな曲を甘さ程々にしっとり弾いていました。私はこの曲が好きなので、これも良かったです。

大西さんが作曲した古い曲を2曲続けて、《曲名を聞き逃し》《ユーロジア》。《ユーロジア》は前回来た時もラスト曲だったはず。《ユーロジア》が良かったです。ピアノの鳴りはさらに良くなって音の粒立ちも良く、ガンガン飛ばして疾走するピアノは絶好調。どんどん白熱して最後には鍵盤をガンガン叩いていました。その後のジャクソンさんのドラム・ソロが爆裂で、ラストに相応しいダイナミックな演奏が繰り広げられました。満足!

で、またまたエンディングテーマ曲でメンバー紹介して終了。パチパチパチッ。アンコールは《ハウ・ハイ・ザ・ムーン》。最初変奏(メロディーを変える)していたので、コード進行からこの曲だろうと思っていたらラストにテーマのメロディーが出てきました。これもノリノリで楽しい演奏でした。最初の不安はどこへやら。終わってみればとても楽しいライブでした。

P129 そして、前回はCDを渡して楽屋でサインしたものが返ってきたのですが、今回は大西さんが出てきてサイン会となりました。私はサインをもらわなかったのですが写真だけパチリ。前回は本格復帰した後だったので、大西さんは多少ナーバスになっていたのかもしれませんね。あれから2年、肩の力も抜け自然体になった大西さん。やっぱりカッコいい女性でした。

これもなかなか良いですよ。『バロック』

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大西順子トリオのライブを観てきました。

昨日は甲府「桜座」で大西順子トリオのライブを観てきました。

P126 ピアノ:大西順子さん、ドラム:ジーン・ジャクソンさん、ベース:ブレント・ナッシーさんでした。前回観たのはアルバム『楽興の時』が出た後だったので2年前です。昨年、アルバム『バロック』が出て、これがなかなか良いアルバムだったので今回は楽しみでした。最初は「アレッ?」と思ったのですが、なかなか楽しかったです。

ライブのレポートは後ほど書きます。

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精鋭を集めて作ったジョシュアの新譜

今日は 甲府「桜座」 に大西順子トリオが来ます。2年ぶりだったかな?もちろん観にいきますよ。今回も混むんだろうな~。

ジョシュア・レッドマンの新譜が出ました。2年ほど前、問題作『コンパス』を出して世間を賑わしたジョシュア。さて今回はどうなるのでしょう?精鋭を揃えたカルテットでの登場です。

P124 『ジェイムス・ファーム』(2010年rec. NONESUCH)です。メンバーは、ジョシュア・レッドマン(ts,ss)、アーロン・パークス(p他)、マット・ペンマン(b)、エリック・ハーランド(ds)です。現代ワン・ホーン・カルテット。このメンバーですから、誰か一人に興味があれば買いでしょう。

自身のリーダー作『インビジブル・シネマ』で才気を見せたパークス、このアルバムでバックを務めていたのはペンマンとハーランドでした。そのペンマンとハーランドはSFジャズコレクティブのリズム隊。昨年出たハーランドのライブ盤『ヴォヤジ』も聴かせるアルバムでした。メンバーを見れば期待が高まろうというものです。

P125 ジャケット内側の写真がカッコイイので掲載します。左からペンマン(何となくクリポタに似てないですか?)、ジョシュア、パークス、ハーランド。どうです。なかなか良い面構えじゃありませんか?黒人と白人混合のイケメン達。現代のジャズを象徴するような写真だと思います。さて、肝心の音楽はというと。

ジョシュアが3曲、パークスが3曲、ペンマンが3曲、ハーランドが1曲持ち寄って、全10曲メンバーのオリジナルをやっています。それぞれ構成がしっかりした曲です。ジョシュアがリーダーなんでしょうけれど、それぞれ対等な立場でグループの音楽を作っていこうということなのだろうと思います。『コンパス』のような問題作ではないです。現代ジャズの1枚。

1曲目《コックス》はペンマンの曲。曲想はヴィジェイ・アイヤの『リイマジニング』の根暗パワーのタイトル曲と似た感じでした。不安げなエスニック・メロディー。でもそれほど暗くはないのでご安心を。変拍子炸裂です。ジョシュアは終始落ち着いて吹奏”スラスラヒラヒラ”。ダークなトーンの美メロを奏でるパークス。ベースは強くて沈んでいます。ドラムのパタパタ感は今時リズムですね。ガッツリな出だしに意気込みを感じます。

2曲目《ポリーウォグ》はジョシュアの曲。これってジョシュアが参加していたブラッド・メルドーの『ハイウエイ・ライダー』に入っていそうな曲ですよね。こういうところがジョシュアの節操の無さだと思う私です(笑)。コンテンポラリーな部分においてポスト・メルドーなパークスのピアノが冴えます。ジョシュアのソロは浮ついた感じはないですが、個性という面ではちょっぴり魅力不足かも?ドラムンベース系のリズムです。パーカッション的ドラム奏法。ラストに軽くオルガンが隠し味的に入ってます。

3曲目《ビジョウ》はパークスの曲。カントリー/フォーク調のワルツ・バラード。現代のジャズは黒人文化ではなくアメリカ文化なのです。ジョシュアの落ち着いた歌いあげは中々良いのではないでしょうか。パークスの微哀愁ソロが始まったかと思うとすぐに終了してしまうのが残念。

4曲目《クロノス》はパークスの曲。陰影感ある哀愁エスニック・ワルツ曲。なかなか推進感がある気持ち良い曲です。後半は少し沈み加減のサウンドにもなります。今回はジョシュアの丁寧な吹奏が印象的。静かに入ってだんだん盛り上げる後半ソロは気持ち良いです。パークスはちょっとダークで陰影感ある美を放っています。後半にはシンセを軽く用いてサウンドに深みを与えるあたりにパークスのセンスの良さを感じます。ラストのハーランドのドラム・ソロもニュアンスを大事にしつつパワーがあるもの。

5曲目《スター・クローズド》はジョシュアの曲。フュージョン系のクールな哀愁バラード。ジョシュアが静かにテーマを歌わせます。ニュアンスを大事にした繊細なパークスのピアノ・ソロが終わるとテンポ・アップして7拍子へ。ジョシュアがスラスラとテナーを滑らせ、後半は徐々に力強く盛り上がります。スローに戻ってペンマンの高音爪弾きソロからテーマで終了。

6曲目《1981》はペンマンの曲で明るめのポップなもの。タイトルどおり80年代フュージョン調なのかも?ジョシュアはマイケル・ブレッカーはやっていません(笑)。マーク・ターナー系スラスラ抑揚メロディー奏法。現代トリスターノ系と言えるかもしれません。こういうコンテンポラリーものはパークスも得意です。ちょっぴりアブストラクトなセンス良いソロを弾きます。時々被せるチェレステも良いアクセントになっていますね。

7曲目《I-10》はハーランドの曲。テーマにはユダヤ~東欧エスニックな匂いが漂っています。難しいリズム・フィギュアのつんのめりそうな変拍子。疾走感があります。ドラマーらしい曲ですね。このリズム感なんて正にヒップホップなんですよ。ベースはパルス的な短いリフの連続。ここではジョシュアもパークスも尖がったソロを展開しています。これはかなりカッコいいですね~。こういう曲をもう1曲くらい入れてほしかったです。

8曲目《アンレヴェル》はパークスの曲。浮遊感がある落ち着いた曲。メロディーからはどことなくウェイン・ショーターを感じる私。クールでちょっぴり神秘的な部分も感じます。私が好きな美的感覚。演奏はジョシュアもパークスも丁寧に音を綴っています。

9曲目《イフ・バイ・エアー》はジョシュアの曲。オルガンの持続音が物語の始まりを感じさせます。6/8拍子の曲ですね。軽いひねりを感じる軽やかな美メロのテーマ。ベース・ソロから。ピアノ・ソロ、ジョシュアのソロと続きます。ハーランドの小技の効いた軽快なドラミングが演奏にドライブ感ももたらしています。ジョシュアのソロが続いてフェードアウト。

ラスト《ロー・ファイブス》はペンマンの曲。ラストを飾るに相応しい詩的で静かな曲です。ピアノとベースの繊細な語らいが続いたあと、ジョシュアがソプラノ・サックスを持って静かに登場。静かに静かに入って後半へ向けて昂ぶっていくソロ。ジョシュアも地に足が着いて良い感じになってきたように思います。

内ジャケットをよく見たら、パークスがチェレステ、ポンプオルガン、プロフェット5(シンセサイザー)、フェエンダー・ローズ、ハモンド・ホームオルガンを弾いると書いてありました。う~む、なかなか凝っているではありませんか。

というわけで、全曲解説してしまいました。それもダラダラと(笑)。精鋭メンバーがアメリカ文化としての現代ジャズを丁寧にやっているアルバムでした。個々には難易度が高いことをやているんでしょうが、サウンドには特に難しいものを感じません。私はもう少し尖がったものを期待していたのですが、まっ、これはこれで良しとしましょう。

アルバム名:『JAMES FARM』
メンバー:
Joshua Redman (ts, ss)
Aaron Parks (p, etc)
Matt Penman (b)
Eric Harland (ds)

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オーソドックスなんだけれどイイ。

最近買ったピアノ・トリオと言えば上原ひろみの新譜。今はほとんどピアノ・トリオを買おうと思わないのですが、なぜか買いたくなってしまったのがこれ。

P123 デヴィッド・フリーゼン・トリオ『ザ・ネーム・オブ・ア・ウーマン』(1999,2000年rec. INTUITION)です。メンバーは、デヴィッド・フリーゼン(b)、ランディ・ポーター(p)、アラン・ジョーンズ(hand made drum set)です。特にどうということはないオーソドックスなピアノ・トリオです。

先日上京した時に新宿ディスクユニオンで、特に事前に探していたとかではなく、衝動的に買ってしまったのです。全く衝動的かというと実はそうでなく、80年頃のフリーゼンのアルバムが気に入っていたので、最近のフリーゼンが聴きいてみたかったのです。とは言えもう10年前ですが。ピアノは寺島さん推薦ピアノ・トリオにもなっていた『エイト・リトル・フィート』のポーターですしね。

これがなかなか良いのです。フリーゼンはなかなかアーティスティックなベースを弾いています。ボ~ッと聴いていたら、ビル・エバンス・トリオのスコット・ラファロのように聴こえてくる場面が多々ありました。あまり4ビート・ランニングせず、ピアノに呼応して音を返しているのです。俗にいうインタープレイってやつですが、堅苦しく考える必要はありません。ピアノとベースが語らいながら曲を進めていくのです。

ビル・エバンス・トリオに聴こえるくらいなので、ポーターもなかなかのリリシズムを湛えたピアノを弾いていることになります。美しいです。ジョーンズは手作りドラムセットを叩いているようですが、普通のドラムを叩いているように聴こえます。特殊性はないのでご安心を。ドラミングも2人に負けず劣らずアートしていますね。甘さ控えめでクールな美しさが良いです。

安心して聴いていられてかつ聴かせてくれるところがフリーゼンのアートなのかもしれません。2枚組です。2枚とも40数分の収録時間なので、その日の気分で選んで1枚とおし聴きができます。私一番のお気に入り曲はサム・リバースの《ビートリス》。

レーベル名を見て”ピンッ”ときたので、杉田宏樹さん著「ヨーロッパのJAZZレーベル」を見たら、このアルバムが掲載されていました。それによると女性に因んだ曲を集めたコンセプト・アルバムだそうで、「《ヴェリー・アーリー》《マイ・フーリッシュ・ハート》《マイ・ファニー・バレンタイン》という選曲から「ビル・エバンス愛奏曲集」の裏テーマも浮かび上がってくる。」なんて書いてありました。なるほどねっ。多くの字数を割いて紹介していることからも、このアルバムの充実度が感じられます。

衝動買いでしたが、これは当たりの1枚でした。
ちなみに私が買ったのは中古CDです。

アルバム名:『THE NAME OF A WOMAN』
メンバー:
David Friesen(b)
Randy Porter(p)
Alan Jones(hand made drum set)

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