「ジャズ・ヒップホップ学習会 第4回」レポート
先週の土曜日、ジャズ喫茶「いーぐる」 で行われた「ジャズ・ヒップホップ学習会 第4回 : ジャズが失ったもの、ヒップホップが発見したもの」へ参加してきました。ゲストは原雅明さん、進行は中山康樹さんです。
原雅明さんは「音楽から解き放たれるために -21世紀のサウンド・リサイクル」という本を書かれていて、ヒップホップなど打ち込み系やジャズに対する興味深い評論をされています。私も今面白く読んでいる最中です。
あいにくの大雨にもかかわらずお客さんはたくさん来ていました。若い女性の方もちらほら。原さん系の音楽ファンの方と見ました。お店に流れていたのはオースティン・ペラルタの『エンドレス・プラネッツ』。原さんが注目した最近のジャズで、私もたまたま最近ブログにこのアルバムについて書いた「なかなか面白いサウンド」 ので、後藤さんも購入したとのことでした。原さんが注目していたのは嬉しかったし、後藤さんがお店でかけていたのも嬉しかったです。
今回の講演は原さんが選曲して曲をかけながら中山さんと意見を交換していくものでした。原さんはレコードをたくさん持ち込んでいました。配布された資料に31曲(全曲かけたわけではないし数枚はCDをかけた)ありましたので、30枚くらいレコードを持って来ていたのだと思います。その重さを考えると強い拘りを感ぜずにはいられませんでした。「いーぐる」のオーディオで聴くレコードのヒップホップ。レコードならではのまろやかで芯のある低音が心地良かったです。
原さんの選曲コンセプトは、ヒップホップの流れとジャズとのつながりを意識しつつ、過去3回の講演ではかかっていないけれど、まだ聴くものはあるというもの。
1.耳慣らし、基準になるもの。
まずはStetsasonicの曲(88年)。他人の音楽を使うことへのヒップホップ批判に対し「これもジャズでいいじゃん」という感じのスタンスをとったそうです。バンド+サンプラー。
次のGang Starrの曲はスクラッチを含めたミックス。どこかで聴いたことのある曲だと思ったらマイルスのドゥー・バップの元ネタでした。リズムの上に乗っている音が尖がりまくりで私は気に入りました。
ラストのNas-One Loveの曲はスタンリー・カウエルのカリンバ演奏のワン・フレーズを繰り返して使うミニマリズムの要素があるとのことでした。ヘビーなビート。私は隙間多めの音配置に良いセンスを感じました。
(注)
私はヒップホップに詳しくないので勘違いしている部分があるかもしれません。あらかじめご了承願います。参考程度に考えていただければ幸いです。
かかった曲の詳細は「いーぐる」ホームページの「diary」にアップされるリストを参照願います。
2.ハビー・ハンコックの《ロック・イット》につながるもの。
まずはAfrika Bambaatas & Soulsonic Forceの曲(83年)。元々ファンクバンドにラップが乗ったものです。アーサー・ベイカーがプロデュース。モロに《ロック・イット》のビートでした。このバンドが出ていたロキシー・クラブ?にビル・ラズウェルや近藤等則などが行っていたそうで、カッコいいサウンドということでジャズに取り入れたのだろうとのことでした。
次のDinosaur L(アーサー・ラッセル)の曲はディスコ。ドラムマシーン4つ打ちビート。ハウスの方で評価されていて、ハウスへとつながるそうです。
ラストはD.St.(グランドミキサーDST)の曲(85年)。D,St.がセルロイド・レーベルから最後に出したアルバムから。《ロック・イット》スタイルのターンテーブル、シンセ、テープ、打ち込みドラムを使ってスタジオ録音するヒップホップの終わりだそう。この後はサンプラーを使って個人で作るスタイルになるとのことでした。私は機材の進化に伴うスタイルの断絶があることを知り興味深いことだと思いました。
ここで中山さんから発言。「ジャズが失った物は、ミュージシャン側の黒さと聴く側の視点。ジャズ側がダメだったところは『ビッチェズ・ブリュー』をジャズ・ロックと捉えたことで、ファンクと捉えるべきだった。そこでファンクと捉えていたら、後の《ロック・イット》もダメとはならなかっただろう。」とのことでした。「フリー・ジャズはファンクであり、アーチー・シェップやオーネット・コールマンもファンクと言える。」ともおっしゃっていました。
私は「なるほど。」と思って聞いていました。そして講演後に私が質問したM-BASE(ブルックリン派)がやっていた変拍子ファンクへの繋がりが気になって来たのです。ヒップホップがジャズに取り入れられた時期の少し後、ジャズサイドで黒人としてファンクを引き継いで次へと進めていたM-BASE。その流れは今もニューヨーク・ダウンタウン(ブルックリン)のジャズに脈々と引き継がれているからです。M-BASEは当時のメインストリーム回帰(ウイントンの登場)~新伝承派(中山さん命名?)の影に隠れ日本ではあまり話題にならなかったけれど、今こうして色々考えると実はかなり重要だったのではないかということです。
3.ネイティブ・タン
まずはA Tribe Called Questの曲。ロン・カーターが参加したアルバム『ザ・ロー・エンド・セオリー』から。
次はPublic Enemyの曲。色々出てきた中で特異とのこと。突然出てきたそうです。尖がっていますね。カッコいいです。原さんはリズムのバタバタ感(8ビートでロックっぽくなる)が好きで、オーネット・コールマンの『フリー・ジャズ』のダブル・ドラムと同質のものだとおっしゃっていました。ヒップホップではこのビートは先に繋がらないそうです。中山さんは『オン・ザ・コーナー』だと思ったそう。ジャズに引き継ぐ人がいない”踊れないファンク”。先ほど出たフリー・ジャズのファンク要素はフリー・インプロビゼーションになって抜けてしまったという話もありました。
次はJungle Brothersの曲(93年)。ビル・ラズウェルがプロデュースしたアルバムから。リズムが複雑な変な曲。
ラストはKMDの曲。当時お蔵入りしてレコードにならなかったものが結構あったとか。これもお蔵入りしたものの一つ。
私はジャズに引き継ぐ人がいないわけではなく、先述したM-BASEの変拍子ファンク以降のリズムの流れとして現在まであると思うわけです。2年ほど前に益子博之さんが講演していた「21世紀のジャズ」シリーズに登場したジム・ブラック(ドラマー)などに繋がるわけです。ただしやっているのは白人(ユダヤ系など)です。クリス・ポッターやデヴィット・ビニーその他諸々、今や変拍子ファンク系はニューヨーク・ダウンタウンの主流リズムと思える部分もあります。
今ブログを書きながら思ったのですが、フリー・インプロビぜーションになってファンク要素(スピリチュアルとも言えるかもしれません。)が抜けてしまうのは、ヨーロッパ勢のフリー・ジャズへの積極参入(日本もそれのうち)との関係で見直したら面白いものが見えてくるかもしれませんね。
話が横道にそれたので戻りまして、90年代前半にはサンプラーが主流化し、ラップ抜きのインストものも出てきた時期だそうです。
ここで中山さんが、「ラップが出てくると古く感じる。」と発言。ラップというのはスタイル/手法だからで、ラップは型がある程度決まっていて、発展させようがない側面があるとのことでした。なのでラップがないインストもののヒップホップの方に新しさを感じるとのことでした。これには後藤さんもほぼ同意していました。私もおっしゃることは分かりました。
この話を受け、原さんがそんな中山さんに聴かせたいということで高速ラップのFreestyle Fellowshipの曲をかけました。私はジャズの高速スキャットに類似性を感じました。中山さんはジョン・ヘンドリックス(ランバート、ヘンドリックス&ロス)に聴こえ、ラップが上手くなるとジャズ・ボーカルになってしまうとのことでした。クインシーが「インストとボーカルの間にあるのがラップ。」と上手いことを言っているなんて話もありました。
日本人をかけようと思ったけれど時間がなさそうなのでとばすことに。
4.2000年頃~?
まずはA Tribe Called Questの曲。Jay Deeのプロダクション。Jay Deeはロバート・グラスパー(ジャズ・ピアニスト)ともやっています。
次はMos Defの曲(99年)。トリッキーなリズムの尖がったもの。私は色々な音の乗せ方にセンスを感じました。原さんによるとこの頃からラッパー人気が落ちてプロデューサーに人気が移るようになるとのことでした。
次はQuasi moto(マッドリブ)の曲。凝った曲作りです。中山さんは「世界観が違う。構築力がある。ラップがラップでないように聴こえ全てがインスト化している。」と絶賛していました。更に「ラップものに足りない色彩感がある。日常にないどこかへ運んでくれる。サンプラーだけ。踊らせるものではない。」ともおっしゃっていました。私はこの人は本当に電脳オタクだと思います。そして仮想世界とトリップ感を感じます。
そこからこのマッドリブが所属するストーンスロー・レーベルが凄いという話へ。作品のアベレージが高く、独特の色彩感と距離感を感じるそうです。「ジャズのブルーノート・レーベル的な存在だと思う。」と中山さん。
ラストはストーンスロー・レーベルからJ Roccの曲。原さんはドラムが凄くて、ある種アート・ブレイキーみたいとおっしゃってかけました。せわしいリズムで、私にはハービー・ハンコックの《ディス・イズ・ダ・ドラム》を速くした感じのリズムに聴こえました。
中山さんは、ストーンスローもブルーノートもレーベル・オーナーが白人というのがポイントなのかもしれないとおっしゃっていました。このレーベルはロサンゼルスにあり、LAの方が緩い雰囲気でそれが良く、ジャズマンとヒップホップの人の繋がりがあるとのことでした。
中山さんから「ヒップホップはドラムありき。マイルスやJBとやったドラマーのスティーヴ・リードがこれからはドラマーの時代と言ったとか。ジャズではどの時代にも対応できたのがドラマー。80年代にヒップホップを擁護した発言をしたのはマックス・ローチ。」というような、ドラマー/ドラムがらみでジャズ~ヒップホップへの継承性に関する話がありました。
ドラマーの話で言えば、ジャスでも現代ニューヨーク・ダウンタウンだけでなく、色々なところに新しいリズム感のドラマーがたくさん現れ、今やドラミングだけが進歩しているような状況すら感じられます。そこにはドラム・マシーンなど機械リズム(テクノ/ヒップホップ)からの影響もあります(人力ドラムンベースとか)。現代ジャズのリズムは複雑なのです。
ここでまだ時間がありますということで、さっきとばした日本人ヒップホップということで、DJ Krushの曲。スタジオで、DJ Satoとほとんど即興で演奏しているもの。ヒップホップも即興演奏をしているんですね。なかなかカッコいい演奏でした。
DJクラッシュと竹村延和は日本のアシッド・ジャズの流れを汲んでいて、インストのクオリティーは高いそう。原さんはそういうものをまとめて聴いてほしいとおっしゃっていました。
ここまででプログラムは終了。
今回はカッコいいヒップホップがたくさん聴けました。
中山さんのジャズ・ヒップホップ考から他への繋がりも見えて面白かったです。
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質問コーナーでは、お客さんが原さんに「今のヒップホップはあまり面白くないのであまり聴かない。”ヒップホップが失ったもの”もあるんじゃないか?」という質問をして、原さんの回答が「私も今はヒップホップはあまり面白くない。ヒップホップからずれている人が面白い。」だったので、いつものように中山さんからご指名をうけた私は、原さんに「私はヒップホップは最近少し聴き始めた程度なので、今のヒップホップはどこが面白くないのか具体的に教えてほしい。」と質問しました。
原さんからは「今はヒップホップもお金をかけて作るようになってしまい面白みが薄れた。初期のロー・ファイなものが面白い。」というような回答があったので、私はジャズも似たようなものだと言いました。お金をかけてたくさん売るために作ったものはなぜか面白くないんですよね。”たくさん売る=万人受け狙い=分かりやすい薄味”といった感じなのかもしれません。私みたいにディープなジャズファンには面白くないのです。悩ましい。多分ヒップホップの世界も同じような感じなんだろうと思います。
続いて中山さんに、「M-BASE経由で現代のジャズにも”踊れないファンク”は失われずにあるんじゃないか?ただしやっている人はの多くは白人なので黒さはないが。」と質問をしてみました。中山さんは確かにジャズにも残っているだろうが、黒さという部分も合わせるとジャズからは失われているとのことでした。ジャズとヒップホップの黒さの違いは、ジャスにウイントンが現れて黒さがキング牧師になってしまったのに対して、ヒップホップの黒さはマルコムXだという面白い喩えで回答してくれました。納得。
お客さんから原さんへ「中山さんの論旨に乗れるものと乗れないものがあったら教えてほしい。」という質問もあり、原さんは「ラップについては中山さんと少し違う考え方で捉えている。ラップを切り離して見れば面白いものがある。」というような回答がありました。
以上。
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まとまりを欠いただらだらレポートですが、内容はほぼ書いたと思います。
音なしでは言っていることが分からないかもしれませんがしょうがないですよね。
ここまで長文をお読みいただいた皆様、どうもありがとうございました。
m(_ _)m
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