上原ひろみの『ヴォイス』
私、上原ひろみのおっかけです(笑)。一応アルバムは全て持っています。でも残念なことに生の上原ひろみを見たことがありません(涙)。今年は生ヒロミを見られるのでしょうか?さて、今日は話題の新譜を紹介。私が徘徊するジャズブロガーの皆さんは既にほとんどこの新譜について書いています。
上原ひろみ(hiromi)の『ヴォイス』(2010年rec. TELARC)です。メンバーは、ヒロミ(p,key)、アンソニー・ジャクソン(contrabass guitar)、サイモン・フィリップス(ds)です。上原ひろみはアメリカでは”hiromi”という名で呼ばれています。アンソニーのエレクトリック・ベースを”コントラバス・ギター”と表記しているところに拘りを感じます。
これ、はっきり言って今年のグラミー賞狙ってるでしょ(笑)。昨年はスタンリー・クラークのバンドの一員として受賞しましたが、今年は自分のアルバムで受賞します?去年のグラミー賞受賞はこのアルバムへの伏線なのです。あちらではおなじみのベテラン2人を起用した時点で、テラーク・レーベルとしてはグラミー賞狙いなのです?(笑)
今回はメンバーを一新してのピアノ・トリオ。ヒロミの原点的フォーマットに戻りました。この人の場合、デビュー・アルバムから演奏のスタンスに変わりがないのが良いです。デビューアルバム『アナザー・マインド』は、エレベ・ハイパー・ピアノ・トリオ、変態ギター入りカルテット、サックス入りフュージョンという3路線がありました。サックス入りフュージョン路線はそのアルバムのみで早々にカット。以降エレベ・ハイパー・ピアノ・トリオ~変態ギター入りハイパー・テクニカル・カルテットと進んできました。
ここ2年はソロ・ピアノやスタンリー・クラークとの共演でしたが、それらを経てヒロミのピアノは益々進化して深化したように思います。そして今回のスペシャル・プロジェクトといえるようなピアノ・トリオに回帰。アンソニー、フィリップスというベテラン2人を従えて堂々のヒロミ・ワールドを展開しているところが凄いところです。そして一聴すれば分かる確固としたサウンドを持っているのところがさすがです。
いつものことなのですが、アルバム1曲目に象徴的な曲が入っています。アルバムタイトル曲《ヴォイス》。重々しい幕開けはラストの《悲愴》に呼応か?そこから一気にヒロミ・ワールドが展開。右手のシーケンシャルな同じフレーズの繰り返しに左手の和音旋律が絡むところはヒロミならではです。変拍子のプログレチックな曲想もならでは。バスドラの多用とベースの重低音のため、かなりマッシブなサウンドになっています。そこに相変わらずのアグレッシブなピアノ・ソロが乗ります。
(注)こういう低音が入っている録音を、タワーレコードとかの低音ブースト試聴機で聴くと、ウダウダな混濁した低音になると思われます。
フィリップスのドラムが今回のポイントなのでしょう。まずはその手数の多さですね。そして拍子の真ん中にキチンと乗る現代的で機械的なヒロミのビート感に対して、溜めを効かせたフィリップスのビート感がちょっとミスマッチでありそこが面白さだと思いました。一方アンソニーはヒロミの影のようにヒタヒタと寄り添っています。かつビート感が違う2人の間でリズムをまとめあげているのです。一聴アンソニーの存在感が薄く聴こえるかもしれませんが、この寄り添いっぷりにアンソニーの凄みを感じます。実はアンソニーこそがサウンドの要なのです。
2曲目《フラッシュバック》はヒロミらしい抒情的メロディーのプログレ曲。リズムが変化していく中で展開されるピアノ・ソロが心地よいです。アルバム中唯一4ビートがある曲。フィリップスの4ビートもロックっぽくて面白いかも。間に入るヘビー級ドラム・ソロがカッコいいですね。
3曲目《ナウ・オア・ネバー》はシンセを軽く使った(今回の使用は控えめ)ファニーな曲です。こういうポップな曲が好きな私。ヒロミはミディアム・テンポでかわいらしいフレーズを連ねていきます。シンセを使うことには異論がある方もいるようですが、シンセのポップでファニーな感じにヒロミの遊び心が象徴されていると思うので、私はもっと使ってほしいと思いました。
4曲目《テンプテーション》はデヴィッド・ベノワ(フュージョン・キーボーディスト)系のメロー・フュージョン曲。ここで弾くためらいがちなピアノも好きです。ハイテク系の演奏がある一方でこういう抒情フュージョン演奏もするところがこの人のハイブリッド感であり、現代性だと思う私です。ためらいがちにソロをスタートするんですが、徐々にヒート・アップして速弾きへと以降するあたりに思わずニンマリする私。
5曲目《ラビリンス》はスタンリー・クラークとの共演アルバムでもやっていましたので、対比してみるのも面白いでしょう。スタンリーの時に比べてかなり重厚で腰の据わった仕上がりになっています。あちらが若々しさならこちらはアダルトな魅力でしょうか?アンソニーのベースはヒロミのピアノを映えさせるメロディアスなもので、上記のとおりピタリと寄り添っています。
6曲目《デザイアー》はシンセを使ったフュージョン曲。シンプルなテーマとリズムで私的にはちょっと魅力が薄いように感じます。シンセを使うのは今回2曲だけでした。7曲目《ヘイズ》はクラシカルな曲想。ピアノだけで演奏しています。繊細なニュアンスをたたえた演奏になっています。ピアノに落ち着いて浸れますね。8曲目《デリュージョン》もヒロミらいいメロディーの曲です。でもいまいち主張に乏しい感じ。ここまで聴いてくるともう満腹感もあるのです(笑)。
ラスト《悲愴》はご存じのとおりベートーベンのピアノソナタです。この演奏を聴いていると、ヒロミってやっぱり日本人的メロディー・センスだよなと思う私。かまやつひろしの《やつらの足音のバラード》が被ってくるのです。日本のフォークだな~と思うのです。余談ですが、《やつらの足音のバラード》はアトリエ澤野時代の山中千尋が演奏していました。山中の場合はこの曲から《スリー・ビューズ・オブ・ア・シークレット》へのメドレー演奏で、そのセンスに参った私。
今回はベースとドラムがあまり現代性を感じさせず、ヒロミのバックとして演奏いるので、前のいかにも現代的なトニー・グレイやマーチン・バリホラとのグループ表現主体のグループに比べて分かりやすくなっているように思います。これってやっぱりグラミー賞狙いかも?(笑)
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コメント
私も、上原ひろみのオッカケかもです。やはりデヴュー作から聴いてました。
今までも良かったアルバムとして年間ベスト3にあげたものもあったのですが、今回はそれにも増してかなりいいアルバムに仕上がっているので、今年はどうしようか、と思います(笑)。
>これってやっぱりグラミー賞狙いかも?(笑)
ですよね。十分あり得ますね。
TBさせていただきます。
投稿: 910 | 2011年4月 9日 (土) 22時50分
910さん
こんばんは。
>私も、上原ひろみのオッカケかもです。やはりデヴュー作から聴いてました。
お仲間ですね(笑)。
>今回はそれにも増してかなりいいアルバムに仕上がっているので、今年はどうしようか、と思います(笑)。
私は間違いなく今年のベスト5に入れます。
期待を裏切らない出来だったので良かったです。
グラミー賞をとってほしいですね。楽しみ。
TBありがとうございました。
投稿: いっき | 2011年4月 9日 (土) 23時22分
いっきさん、こんばんは。
昨日上原ひろみザトリオ・プロジェクトのコンサートに行ってきました。
休憩を入れて約3時間のライヴでしたが、上原トリオのグルーヴをしっかり堪能しました。
僕の隣にいたカップルなんかアンコールの「Summer Rain」で踊っていましたよ。
上原さんもアンソニーも最高なのですが、柔和な笑みを浮かべながら凄いプレイを
連発するサイモンが印象に残りました。
実は昨日は僕の誕生日だったのですが、3人に素晴らしいプレゼントを頂いた感じです。
僕もいっきさん同様、上原さんのおっかけをして行こうと思います。
先日矢野顕子X上原ひろみのCDも購入したので、聴くのが楽しみです。
投稿: kimt | 2011年12月 4日 (日) 20時44分
kimtさん
こんばんは。
>昨日上原ひろみザトリオ・プロジェクトのコンサートに行ってきました。
いいですね~。
>休憩を入れて約3時間のライヴでしたが、上原トリオのグルーヴをしっかり堪能しました。
3時間ひろみちゃん三昧。すばらしい!
>僕の隣にいたカップルなんかアンコールの「Summer Rain」で踊っていましたよ。
楽しそうな光景が浮かんできます。
>上原さんもアンソニーも最高なのですが、柔和な笑みを浮かべながら凄いプレイを連発するサイモンが印象に残りました。
サイモンさん、ひろみちゃんとやるのが楽しくてしかたないんでしょう。私的にはちょっと叩き過ぎな感じがしますが、それもまたよしなのでしょう。
>実は昨日は僕の誕生日だったのですが、3人に素晴らしいプレゼントを頂いた感じです。
お誕生日おめでとうございます。
>僕もいっきさん同様、上原さんのおっかけをして行こうと思います。
ひろみちゃんファンクラブにようこそ(笑)。
>先日矢野顕子X上原ひろみのCDも購入したので、聴くのが楽しみです。
私は気に入ってます。
このアルバムはどちらかと言えば矢野顕子が主役だと思いますが、そこがまた楽しさでもあります。
投稿: いっき | 2011年12月 4日 (日) 21時58分
いっきさんこんにちわ
テレビで、上原ひろみさんがヘイズを演奏されてて、素敵な曲だなぁーと思いヴォイスをGetしました。
ブログを拝見させて頂きました!
昔から上原さんをご存知のいっきさんにオススメを伺いたいです!
コラボされてるアルバムなのに、ヘイズが一番気に入りました。音楽はあまり詳しくないのですが、一つの物語を見終えた様な感動(ロミオ&ジュリエットみたいな儚い恋の物語みたい)がありました。
ヘイズの様なピアノが綺麗な静かめな曲でオススメはありますか?
あれば教えて頂きたいです。宜しくお願いします
投稿: くま。 | 2011年12月27日 (火) 00時14分
くま。さん
こんばんは。
コメントありがとうございます。
まず、《ヘイズ》についての説明に誤記があったので訂正しました。
「前半はピアノだけで演奏しています。」の”前半は”不要でしたね。
気づかせていただきありがとうございます。
さて、「ヘイズの様なピアノが綺麗な静かめな曲でオススメはありますか?」とのことですが、
ソロならばアルバム『プレイス・トゥ・ビー』の《サムホエア》がピッタリだと思います。
同アルバムの《シシリアン・ブルー》も良いです。
曲聴きも良いのですが、上原ひろみというピアニストを知るには上記アルバム『プレイス・トゥ・ビー』をお聴きになられることをオススメ致します。
私の好みで言えば、曲者ギタリストのデビッド・フュージンスキーを入れたカルテット編成での奔放な演奏にこそ、上原ひろみの良さがあると思っています。
投稿: いっき | 2011年12月27日 (火) 01時42分
いっきさん、こんにちは。
上原さんトリオのニューアルバム「MOVE」が9月5日に発売することが決定したみたいですね。
そして、東京国際フォーラムでのコンサートも12月8日、9日に決定したみたいです。楽しみですね。
投稿: kimt | 2012年7月 2日 (月) 14時01分
kimtさん
こんばんは。
いつも情報ありがとうございます。
上原、アンソニー、サイモンのトリオで第2弾を出すとは思いませんでした。
楽しみです。
12月8日、9日のコンサート、行ってみようかな~。
投稿: いっき | 2012年7月 2日 (月) 20時23分