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60年代モード/現代モード

今日紹介するのはデヴィッド・ビニーの新譜。新譜とは言っても3月くらいに発売されたものです。ビニーは新譜が出るたびに買っていたのですが、今回はちょっと様子見。そうこうしているうちに半年くらいが過ぎ、なんで今のタイミングで買ったかというと、いつものあれですよ(笑)。ディスクユニオンの通販限定特価(円高還元)セール。ちなみに、まだ¥1,800で”在庫あり”なので、興味が湧いた方はどうぞ。

P73 『アリソ』(2009年rec. CrissCross)です。メンバーは、デヴィッド・ビニー(as)、ウェイン・クランツ(g)、ジェイコブ・サックス(p)、ジョン・エスクリート(p)3曲のみ、アイヴィン・オプスヴィーク(b)、ダン・ワイス(ds)です。ニューヨーク先端ジャズ系の精鋭揃いです。ギターのウェイン・クランツが異色な感じです。CrissCrossレーベルへの録音は約3年ぶりだとか。

私的には、CrissCrossレーベルは金太郎飴のように似たような現代ジャズばかりで面白みに欠けるきらいがあると思っているのですが、そうは言っても気になるミュージシャンのものは買うようにしています。今年に入ってからではアレックス・シピアギンもなかなか良かったですしね。

さて本作、演奏が2つの趣向に分かれます。まずはいつもの変拍子や8ビートのクールで無機的な感じのオリジナルを演奏しているものが4曲。こちらにはロック志向のクランツのギターが入っているので、これまでのビニーのサウンドに別な風味が加わった感じです。

そしてもうひとつの趣向が、最近のオリジナル志向だったビニーにしては珍しく、ウェイン・ショーター、サム・リバース、ジョン・コルトレーン、セロニアス・モンクの曲を計5曲演奏しているものです。ショーター、リバース、コルトレーンというモーダル・テナーの曲を取り上げているのが面白いですね。コルトレーンの曲以外はワン・ホーン・カルテットで4ビート曲を演奏していて、後戻りした感はありますがこれがいい具合なのです。

2つの趣向が合わさっているところが中途半端だとも言えますが、2つの美味しい趣向がカップリングされたと見ることもできるわけで、私は後者のようにとらえています。それにしても今回、何か吹っ切れたように気持ち良さそうにアルトを吹いているビニーを聴いていると、非常に気持ちいいです。

ビニーのオリジナル曲では、ミディアム・スローの《ア・デイ・イン・ミュージック》の演奏がいいですね。無機的ではありますが深みのある曲で、気持ち良さそうにブリブリ/スラスラ吹いているアルト・ソロを満喫できます。ここでのクランツのギター・ソロはロック色控え目で、現代ジャズ・ギターとしての捻り味を楽しめます。《バー・ライフ》はいかにもビニー節。エスクリートの美しくも力強いピアノ・ソロとクランツのロック系ギター・ソロがいい感じですね。

ショーターの曲は2曲やっていて、ミステリアスな美曲《トイ・チューン》ではビニーのアルト・ソロもさることながら、ジェイコブのフレッシュで美しくも力強いピアノ・ソロやバッキングが素晴らしいです。バラード曲《テル》では美しさが際立っていて、ビニーのアルト・ソロはこの曲の美を抽出しつつ醸し出す響きには現代を感じさせます。

リバースの《フューシャ・スイング・ソング》はかっ飛び4ビート。こんなにもストレート・アヘッドなビニーのアルト・ソロが聴けたのは非常に嬉しいです。この曲でのウォーキング・ベースを聴いて、オプスヴィークの4ビートの上手さにも改めて気付かされました。ジェイコブのピアノ・ソロもキレキレで抜群のドライブ感。ワイスのドラムも至る所に小粋なアクセントを入れつつプッシュしています、ビニーやオプスヴィークは、普段4ビートはあまりやりませんが、4ビートのバップをやらせても超一流だったんですね。当り前か。

モンクの《ティンク・オブ・ワン》は、テーマ演奏後、ドラムとベースの自由な掛け合いからピアノがチャチャを入れつつピアノ・ソロへと続く展開が面白いです。ジェイコブのピアノはきちんとモンクを解釈。ビニーのアルト・ソロもなかなかのキレとパワー。モンクをきちんと消化た演奏です。

ラストはコルトレーンの《アフリカ》。これが当然の如くこの人達にしては意外や意外のスピリチュアル・ジャズ!エスクリートがピアノでマッコイ・タイナーのような和音をゴツゴツと弾き、オプスヴィークもベースをゴリンゴリン、ワイスはうねりのドラミング。その上でビニーがウネウネとモーダルなソロを力強く展開し迫ってきます。ピアノ・ソロは熱く黒く迫りつつもクールネスを残しています。この人達、普段はクールネスを装っていますが、こういう熱い演奏もできるんですね~。

クランツはバッキングをほとんどやっていませんが、ソロでは個性全開。ベース・ソロのような低音系フレーズとエレクトロニクス系エフェクト音を絡ませて静かに展開していき、ギンギンのロック・ギターへと移行。アルトが咆哮しピアノがガンガン来て更に盛り上がり、ギターのエフェクト音で静かに宇宙へと消え去って終焉。このアルバムの中の私的一押しがこの曲。

ビニーの現代モード曲も良いのですが、60年代モード名曲を今時の感覚で演奏するのも良いですね。後者の方が聴き慣れているので、正直に言えばやっぱり聴き所が分かりやすいし、のめりこみやすいのです。

色々考えさせられますが、ビニーのアルトはどの曲でも気持ち良く鳴っていることは間違いないので、聴いてみて下さい。

アルバム名:『Aliso』
メンバー:
DAVID BINNEY(as)
WAYNE KRANTZ(g)
JACOB SACKS(p)
JOHN ESCREET(p:M1,7,9)
EIVIND OPSVIK(b)
DAN WEISS(ds)

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コメント

まわりではウェイン・クランツがCriss Crossのアルバムに参加、ということで、彼が目的で購入する人が多かったですけれども、曲は約半分に参加。彼が参加しているかいないかで曲調も変わるのが珍しかったですが、それでもビニー自身のサックスがなかなか良く、アルバム全体としても良かったです。

確かにCriss Crossはどれも似たり寄ったりというイメージ(実際に聴いてもそうですが)があるので、このアルバムはそういう意味では、目立っていたと思います。

TBさせていただきます。

投稿: 910 | 2010年9月17日 (金) 08時09分

910さん

こんばんは。

>まわりではウェイン・クランツがCriss Crossのアルバムに参加、ということで、彼が目的で購入する人が多かったですけれども

そうなんですか。
私はクランツは追いかけていないので、直球ビニー買いです。

>彼が参加しているかいないかで曲調も変わるのが珍しかったですが

60年代の曲をやるのに、クランツでは座りが悪いんでしょうね。
だからビニーのオリジナルへの参加をメインにしたんだと思います。
クランツはジャズ畑の人ではないですからね。
まっ、逆にそこがクランツの良さなのでしょう。

>それでもビニー自身のサックスがなかなか良く、アルバム全体としても良かったです。

今回ビニーはかなりの快演だと思います。

>確かにCriss Crossはどれも似たり寄ったりというイメージ(実際に聴いてもそうですが)があるので、

そうなんですよ。
別の見方をすれば、レーベル・ポリシーが一貫しているとも言えると思います。
演奏のクオリティーも一定のレベルは確保されていますしね。
ただ私が個人的にこの手の現代バップを何枚も聴く気にならないだけです(笑)。

>このアルバムはそういう意味では、目立っていたと思います。

クランツ参加の現代モード。
ビニー・ワン・ホーン・カルテットの60年代モード。
どちらも良かったです。

TBありがとうございました。

投稿: いっき | 2010年9月17日 (金) 20時48分

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