地味で渋い1枚。こういうのを推薦するのは難しい。
ディスクユニオンの宣伝文によるとアヴィシャイ・コーエンの『ザ・トランペット・プレイヤー』に匹敵する出来栄えということで、買わずにいられなかった1枚。最初の仕入れ数が少なかったんでしょうね。すぐに”在庫なし”になってしまい、買うまでに2ヶ月ほどかかってしまいました。再入荷していたのでゴールデン・ウィークに上京した際、ディスクユニオンで購入。
そのアルバムは、リンダ・オーの『エントリー』(2008年rec. lindaohmusic)です。メンバーは、リンダ・オー(b)、アンブローズ・アキンムシーレ(tp)、オベッド・カルヴェール(ds)です。珍しいトランペット・トリオ。裏ジャケの写真を見るとオーは東南アジア系の方。ヴェトナム出身?ジャケットのイラストと名前からわかるとおり女性です。
このアルバム、はっきり言ってかなり”地味渋”です。キャッチーなメロディーはなくモノクローム調で素朴。トランペット・ソロはひたすら誠実に地味目のフレージング。リズムは8ビート/変拍子。ベースはメロディーまたはリフを弾いていて4ビート・ランニングはほとんどなし。ドラムもシンバル・レガートはほぼなし。スネアやタムのロール系主体にフィルの連続みたいなドラミング。曲も単にソロを回すようなものではなく、アレンジと渾然一体。極めて現代的だと思います。
こんな具合なので、昔ながらのジャズに親しんだ人にはかなり違和感があるんじゃないかと思います。現代ニューヨークのバップって、こういうものが結構あるのでなかなか良さを説明しにくいんですよね。
オーのベースは女性とは思えないほど強靭。ベースの弦と胴の鳴りを強く意識させるものなので、音響的な快感を伴います。作曲者の表記がないのですが、ラストのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(レッチリ)の《ソウル・トゥ・スクイーズ》以外は多分オーの曲です。地味な曲ばかり(涙)。リフの繰り返しや地味メロディーを弾くベースはロック的?
ベース・リーダーのアルバムということで、アキンムシーレはちょっと控えめに録音されているみたいです。地味なフレージングではありますが、時折登りつめるように吹き切り、内に秘める情熱と熱量はかなりのものです。トランペットの音色は鉛色。高野雲さんのブログ にケニー・ドーハムのトランペットが鉛色と最近書いてありましたが、アキンムシーレもそれに近く、ジャズを強く感じさせてくれます。いいトランペッターです。
ドラムはなかなかの瞬発力。ここぞという時に”バシン”とやりつつ、フレキシブルなドラミングで演奏の基盤をなしています。その上で、中央右寄りにベース、中央左よりにトランペットが陣取り、自由に音楽を形作っていく感じです。《ヌメロ・ウノ》では冒頭トランペットの1人多重録音アンサンブルがあって異色ですね。ラストのレッチリの曲も素朴で地味なのですが、これが心に染みますね。
アヴィシャイ・コーエンの『ザ・トランペット・プレイヤー』にあったような華やぎや従来のジャズとの共通性はこのアルバムにはあまりありません。でも、これがなぜか心に引っ掛かります。噛めば噛むほど味が出るスルメ盤的なものも感じますね。
なかなか良いアルバムだと思いますが、自主制作盤のようなので入手は難しいかもしれません。興味がある方は是非入手してみて下さい。
アルバム名:『ENTRY』
メンバー:
Linda Oh(b)
Ambrose Akinmusire(tp)
Obed Calvaire(ds)
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コメント
う~む、ジャケットからして興味ありです。
鉛色もなところも引っかかりました(笑)。
投稿: 雲 | 2010年6月 1日 (火) 00時59分
雲さん。こんばんは。
なかなかイイ感じで渋くジャズってます。
次回お会いした時にでもお貸ししますよ。
投稿: いっき | 2010年6月 1日 (火) 19時50分
おっしゃる通り、地味ということになるんでしょうが、でも聴かせようと言う力感をかなり感じさせてくれる演奏で、満足感は高かったです。
>スルメ盤的なもの
あるでしょうね(^^)
TBありがとうございます。逆TBさせていただきます。
投稿: oza。 | 2010年6月 2日 (水) 06時55分
oza。さん。こんばんは。
>でも聴かせようと言う力感をかなり感じさせてくれる演奏で、満足感は高かったです。
力感、満足度は高いですよね。
じっくり聴いてほしい1枚です。
トラバありがとうございます。
投稿: いっき | 2010年6月 2日 (水) 19時15分