ロザリオ・ジュリアーニの新譜&イタリアのジャズ
今日はエイプリルフールなので、かわいい嘘でも書こうかと思ったのですが、
気の効いたかわいい嘘が思い浮かばないのでやめます(笑)。
2月に、ロザリオ・ジュリアーニが参加したフュージョン・サックス・トリオ 『トリオ・オスティコ』 を聴いて、私の中でちょっとしたロザリオ・ジュリアーニ・ブームが来たのですが(笑)。その頃予約しておいた新譜が届きました。
『レニーズ・ペニーズ』(2009年rec. DREIFUS JAZZ)です。メンバーは、ロザリオ・ジュリアーニ(as)、ピエール・ド・ベスマン(p,Rhodes)、ダリル・ホール(b)、ジョー・ラ・バーベラ(ds)です。レニー・トリスターノに挑んだアルバムだとのことでしたが、いざ蓋を開けてみるとトリスターノの曲は冒頭の1曲のみ、全体的な雰囲気はかろうじてトリスターノ?
1曲目はトリスターノの《レニーズ・ペニーズ》。確かにトリスターノのウネウネ・メロディー全開なのですが明るいのです。トリスターノと言えば、研ぎ澄まされた暗さとクールネスが売りだと思うのですが、ジュリアーノが吹くともうこれはイタリアの国民性だと私は思うのですが、ホットで明るくなってしまうのでした(笑)。テーマはベスマンのエレピとのユニゾン。その後はサックス・トリオでのソロ。これが前述のとおり明るい。まあ、これはこれで楽しい(笑)。ラバーベラのブラシの爆ぜ具合が良く、聴きどころになっています。
2曲目はハイマン&ヤングの《ラブ・レターズ》。ちょっと物悲しげなしっとりバラード曲。明るさが災いしてか深みに欠けるきらいがあります。ベスマンのピアノはしっとりいい味を出しているので、全体としてはいい塩梅。3曲目はバーリンの《ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン》。哀愁漂う美メロ曲。ジュリアーノのバックで対位法的クラシカルなメロディーを弾くベスマンがカッコいいです。ミディアム・テンポで快適な演奏。
4曲目はザビヌルの《74・マイルス・アウェイ》。7拍子でダークなメロディー、これは渋い選曲です。ジュリアーニはトリスターノ系ウネウネ・ソロをカッコよく決めます。ベスマンの美メロ・モーダル・ソロはこの人ならでは。私はこういうベスマンが好きです。これは美意識がトリスターノに重なる部分もあるし、どことなくファンキーの匂いが漂うのがいかにもザビヌル。
ここから3曲はジュリアーニのオリジナル曲。レイジーなメロディーのバラードにベスマンのエレピが嵌まり、ジュリアーニの憂い漂うソロが素敵な《ピッチ》。トリスターノばりのウネウネ・メロディーをアップ・テンポで飛ばす《オーバー・ライン》は、いつの間にかテーマからジュリアーニのソロに入り、ベスマンの尖がったエレピ・ソロが続きます。ドラム・ソロやバース交換ではドラムが元気に飛び跳ねます。美メロなワルツ《ディア・ファーザー》は、タイトルどおりの優しい演奏。ベスマンがピアノで水を得た魚の如く、生き生きとクールなハーモニー感覚でソロをとります。
ジミー・ロウルスの《ザ・ピーコック》。私はこのダークで憂いを帯びた曲が好きです。明るいジュリアーニもここでは神妙に迫ります。元が明るいので深刻になり過ぎないところが良くも悪くもこの人。私的にはこのくらいの明度は結構好みです。ベスマンの短いピアノ・ソロは、この曲を香高くします。これがフランス人の気質なんだと私は思います。フランスのエスプリ!
次はベスマンの《UN DES SENS》(何と発音するの?)。モーダルでカッコいい曲をアップ・テンポで飛ばします。これがまたいかにもベスマンらしい現代クールネス。畳み掛けて疾走するベスマンのピアノが最高。ジュリアーニの《ゴールドフィッシュ》は、明るく楽しいラテン・リズムの曲。ベスマンのピアノはここでは楽しく軽やかです。ジュリアーニは高音ハイ・ノートも交えて至って楽しそう。続くベース・ソロも弾みます。ラストはベスマンの《ペイシェンス》。ダークなバラード曲をアルトとエレピでクールに進めます。この3曲の展開はジュリアーニのホットとベスマンのクールの対比がよく分かって面白いです。
このアルバムは、ホットなジュリアーニがやはりトリスターノ的クールに挑んでいると言っていいでしょう。私的には暗くなり過ぎないところが、心地よくもあり物足りないところでもありますが、かなり気に入りました。さすが、ベスマンはイイ仕事をしてます。ベースとドラムはホット/クールの微妙なバランスをこなせる手堅い人選だと思いました。
アルバム名:『Lennie's Pennies』
メンバー:
Rosario Giuliani(as)
Pierre De Bethmann(p, Fender Rhodes)
Darryll Hall(b)
Joe La Barbera(ds)
*
ここでいきなりですが、イタリアのジャズについて。
私が色々聴いた感じでは、イタリアのジャズは明るくてメロディアス。そして、明るさがともすると何も考えていないようで軽薄にも感じられてしまいます。これは私が抱くイタリア人のステレオ・タイプなんです(笑)。もちろん例外もあります。傾向としてです。そして”メロディアスで明るく軽め”これが今の日本に受けているんだと私は思います。
私はヘソ曲がりなので、今日この頃はそんなイタリア・ジャズよりも”内省的で神経質な傾向のNYダウンタウンのジャズや黒くて熱いシカゴのジャズ”の方に迫って来るものを感じて好んでいます(笑)。
で、モーダルなハードバップ演奏をイタリア(日本でも同じ)と60年代で比較した場合、今の人達がいくら熱くやってもどこか軽く感じてしまうのは、やはり”表面的な熱さ”だからだと思います。だってそうでしょ。60年代は時代の空気が切羽詰まっていたので、熱くやればその内面から”芯の熱さ”が自然と出てしまうわけです。これは比較してもしょうがないことですよ。昔のようにやりたくても今を生きる人達にはできないんだと思います。
60年代のジャズをたくさん聴いてしまったジャズ・マニアにとって、同じフォーマットでやられている(イタリアにはその傾向が強いと思います)のを聴くと、今のジャズはやっぱり緩いというのが正直な気持ちだと思います。だから私はそれはそれで良しとしつつ、今の時代なりにもっと迫って来るものをとなった時に、私的にはNYダウンタウンやシカゴなんだろうと思っています。
あははっ、久しぶりに戯言をカマしてしまいました(笑)。
エイプリルフールだからかも?
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コメント
いっきさん、こんばんは。
>それは比較してもしょうがないこと
>昔のようにやりたくても今を生きる人にはできない
それはオイラも感じますね。
「時代が違うよ」と云うのは簡単ですが、物事の感じ方が大きく
変わってしまったので、同じ表現にはならないのでしょう。
また、イタリアジャズには、ソウルやブルースの要素が
希薄に感じられます。その代わり気品や優雅さが加わっているとは
思いますが、これはマーケット=国民性の違いが大きいと思います。
イタリア人は、マジなソウルやブルースを避ける傾向にあるのでは?
どんな時でも、陽気に振る舞うのを美徳としているのでしょう。
昔からイタリア映画が好きなオイラは、イタリアジャズにも
そんな感じを受けます。ホントは、もっとディープかも?
音楽としてアメリカ人のようなジャズは出来ると思うのですが、
それをやってもイタリアでは、ウケないんだと思いますよ。
日本人は、国民性として両方を持ち合わせているだけですよ(笑)。
食料品と一緒だと思いますよ。世界の料理を食べ尽くす日本人(笑)。
日本人の味覚は世界対応ですから・・・。
投稿: tommy | 2010年4月 2日 (金) 01時09分
イタリアのジャズというか、、
イタリアンハードバップが日本でちょう人気なので、そんな感じがしますが、やはりどの国でも国民性ってでると思います。
国単位で、、ひとくくりにできないのはよくわかってるんですが、なんとなく、、ありますです。
風土つうのか、、生まれて育ってくる間に生活の中で流れてる音楽ってのがポイントなんじゃない?
小さな声で。。
日本のロッカーと名のる人達は決してロックではないじゃん。。どう聞いても、サウンド的には演歌だよねぇ。。
はぁとは、ロックでも。。
みたいに、あこがれと別な部分でその人を形成したものがどうしてもでちゃうでしょう。。。
って、なんつうか。。。
違うモンは違うんだから、いいんじゃないかと。
問題は、その音楽の売り方で、、
たぶん、同じブログをみてたんだと思うんですが、、(笑)
キャッチ一つで、随分、、違うのでしょう。。
本当は売る人が一番わかってるんだと思うんですよ。。。
投稿: すずっく | 2010年4月 2日 (金) 17時10分
tommyさん。こんばんは。
>「時代が違うよ」と云うのは簡単ですが、物事の感じ方が大きく
>変わってしまったので、同じ表現にはならないのでしょう。
「時代が違う」というのは、「感じ方が違う」ということもある程度含んでいるんじゃないかとも思います。
>また、イタリアジャズには、ソウルやブルースの要素が
>希薄に感じられます。その代わり気品や優雅さが加わっている
これについてはヨーロッパ全般に言えるんじゃないかと思います。
クラシックの伝統とソウル/ブルースは相性がよくないんだと思いますよ。
>音楽としてアメリカ人のようなジャズは出来ると思うのですが、
>それをやってもイタリアでは、ウケないんだと思いますよ。
それはあるでしょうね。
>食料品と一緒だと思いますよ。世界の料理を食べ尽くす日本人(笑)。
>日本人の味覚は世界対応ですから・・・。
確かにそうだと思います。
特に私は雑食指向が強いです。
なんでも好き嫌いなく食べちゃいます(笑)。
投稿: いっき | 2010年4月 2日 (金) 20時16分
すずっくさま。こんばんは。
>イタリアンハードバップが日本でちょう人気なので、そんな感じがしますが、やはりどの国でも国民性ってでると思います。
>風土つうのか、、生まれて育ってくる間に生活の中で流れてる音楽ってのがポイントなんじゃない?
おっしゃるとおりだと思います。
風土の違いが音楽に与える影響は感じますよね。
一例ですが、日本って湿度が高いので音楽がウェッティーです(笑)。
イギリスのどんより天候(話に聞くところによれば)は、音楽の「くすんだ独特の陰影感、湿った哀感」(「ヨーロッパの・ジャズ黄金」より)につながるんだと思います。
>日本のロッカーと名のる人達は決してロックではないじゃん。。どう聞いても、サウンド的には演歌だよねぇ。。
>はぁとは、ロックでも。。
それ、ありますよね(笑)。
>みたいに、あこがれと別な部分でその人を形成したものがどうしてもでちゃうでしょう。。。
滲み出ますよね。
>違うモンは違うんだから、いいんじゃないかと。
全くそのとおりだと思います。それはそれでよしです。
>問題は、その音楽の売り方で、、
>たぶん、同じブログをみてたんだと思うんですが、、(笑)
ハイッ、そうです(笑)。
>キャッチ一つで、随分、、違うのでしょう。。
そうですよね。
キャッチを読んで期待して買っちゃって、いざ裏切られると恨み節が出る気持ちも分かります(笑)。
>本当は売る人が一番わかってるんだと思うんですよ。。。
それがひっかかるところなんですよ。私的には!
本当に分かっていて、確信犯的にやっているのか?
実は分かっていなくて、本気でそうしているのか?
アルボーレ・ジャズさんに聞いてみたいです(笑)。
*
ゲゲゲッ、今ミュージックバードの「ジャズ・イン・ザ・ワールド」で、問題のアルバムから《Litha》がかかりました(笑)。
スタン・ゲッツの『スイート・レイン』と比較しちゃうと・・・ね~。
投稿: いっき | 2010年4月 2日 (金) 20時59分