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「PCMジャズ喫茶」のゲストはプロデューサーの伊藤八十八さん。その1

今回の「PCMジャズ喫茶」のゲストは伊藤八十八(いとう やそはち)さん。
知る人ぞ知る日本のジャズ・プロデューサーの草分けですよね。
スイングジャーナル5月号の寺島さん対談記事も相手は伊藤八十八さん。
最近は番組と対談記事が連動して作られているんですね。

ちょっと気になることが・・・。
スイングジャーナル5月号の山中千尋さんのエッセイに、「PCMジャズ喫茶」での寺島さんへの批判があり、「誰もが簡単に手に入れられない装置でしか聞けない(略して、誰も聞かない)ラジオ番組で・・・」と書いていらっしゃるのですが、どうやって番組を聴いていらっしゃるんでしょうね?まさか私の番組レポートなんかお読みになってはいませんよね?
もしお読みなら責任重大(笑)!

収録日はハンク・ジョーンズの新潟公演の次の日だったそうです。ハンクの日本公演は伊藤さんが連れて回っているんだとか。ハンクは91歳。こけると困るので車椅子で移動しているそうですよ。

伊藤さんは今、エイティーエイツ・レーベルのプロデューサー。エイティーエイツ・レーベルはソニー・ミュージック・グループのヴィレッジミュージックで作ったレーベルだそうです。伊藤さんはここでのプロデュースだけでなく、他のレーベルの請負プロデュース(平賀マリカなど)もしているとか。で、伊藤さんと言えば、日本フォノグラムのイースト・ウィンド・レーベルを立ち上げた方として、ジャズ・ファンからはよく知られた存在です。

伊藤さんは早稲田大学のニューオリンズ・ジャズ・クラブに所属していて、ピアノを弾いていたんだそうです。寺島さんの後輩でもあるわけすね。寺島さんは、以前「ピットイン」で伊藤さんがドン・フリードマンを聴きに来ていて、「フリードマンがまだいけるかチェックしにきた。」というのを聞いてこの人は凄いと思ったそうですが、本人がピアノを弾いていたと知り、今日は納得したみたいです(笑)。

伊藤さんによると、NYから10人のピアニストを招くコンサート「100フィンガーズ」は毎年聴きに行くそうで、そこでは商売上の理由からどの人がいいかチェックするとのこと。フリードマンの場合も「100フィンガーズ」で聴き、もう一度「ピットイン」で聴いて、その後レコーディングの商談をしたんだそうです。「若手は録音しないの?」と寺島さん。「オースティン・ペラルタやトーマス・エンコを録音してますよ。」と伊藤さん。

「今ピアノ・トリオしか売れないけど、なぜピアノ・トリオしか売れないんでしょう?」と寺島さんが質問。伊藤さんは「聴きやすいから。」と回答。寺島さんが「管ものは聴きにくい。」と言うと、「最近はブラスバンドが出てきましたよ。」と返事。すかさず寺島さんが「それはブラス系の人達。我々はディスク系。今のものは売れないが昔のものは聴かれている。」と言うと、伊藤さんは「今の若手のCDもライブも聴かれていない。ネームド・アーティストを買っちゃう。お店でブルーノートやプレスティッジが¥1100や¥1000で安く売っているとそれを買ってしまう。」と返事。寺島さんは「そういうのを聴き終えてひと山越えた時、次に何かを聴かせるように仕掛けないと我々はダメ。」と言い、続けて「ブルーノートが全てとなるのは行方均の功績であり罪悪でもある。」なんて言ってました。寺島さんのそういう気持ちには敬意を表しますが、次に聴かせる寺島チョイスがね~(笑)。

ここから伊藤さんのプロデュース話へ。伊藤さんは「アメリカのプロデューサーと同じことをやってもダメなので、我々がジャズ喫茶でヒストリカルに聴いてきた知識を生かすようにしている。」とのことでした。『ザ・スリー』(ジョー・サンプルのピアノ・トリオ、確かダイレクト・カット盤?)のように、向こう(アメリカ)の人が考えない組み合わせをするとのこと。

話はグレイト・ジャズ・トリオ(以降GJTと略)へ、「GJTは誰が作ったんですか?」と寺島さんが質問。伊藤さんは「誰が作ったかわからない。強いて言えばマックス・ゴードン(ヴィレッジ・ヴァンガードのオーナー)が作った。」と回答。伊藤さんが聞いたトニー・ウイリアムスの話によれば、ライフ・タイムが終わったトニーがロン・カーターとハンク・ジョーンズとやりたいと言ったらしく、ロンは知っていたがハンクは知らなかったので、ハンクに話をつけてくれとゴードンに頼んだのがきっかけとのこと。当時ハンクはホテルのラウンジとかで弾いていたんだとか。50年代後半から60年代、ハンクはCBSのスタッフ・ピアニストをやっていて、その後は第一線から身を引いたような状態だったそうです。

で、そのGJTはあったけれど、アメリカでは誰も目をつけていなかったので、伊藤さんが録音したんだそうです。イースト・ウインドの最初のGJT録音がヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ。寺島さんがその録音のトニーのバスドラが凄かったという話をしたら、伊藤さんが「トニーのバスドラはデフォルメしちゃた。」と発言。ここから話は盛り上がります。当時トニーが24インチのバスドラを使っていて、その音を出そうとデビッド・ベイカーが録音したテープを日本でマスタリングした際に少しブーストしたんだとか。

ここでそれを聴いてみましょうということになったのですが、それは持っていなかったようなので、GJTのスタジオ録音版で《フリーダム・ジャズ・ダンス》をかけました。これはマスタリング時にあまり上げていないそう。これって、前に人妻Aさんがかけてこの演奏を聴いてこの曲が気に入ったということで盛り上がりました。

聴き終わった後に寺島さんが「トゥ・マッチに感じるんですよ。」と言うと、伊藤さんは「トゥ・マッチじゃないんです。さっきデフォルメと言っちゃったけど、ライブで聴いてその音を再現しようとしてやったことなんですよ。」と返します。「テープをいじっちゃいけないと先輩から言われたけれど、向こうの人はいじっている。レコードではカッティング時にレコードになった時の音を想定していじるんです。」と続けます。

寺島さんが「オーディオの原音主義の人はいじるなと言うけれど、伊藤さんにとって原音ってなんですか?」と質問します。伊藤さんは「原音はライブしかない。マイクで録音したら疑似音になってしまう。疑似音をいかに生に近付けるかが大事。最終的にCDもレコードもどういう盤を作るかです。」と回答します。なるほどさすがだと思いました。原音ということに妄信的に拘らず、所詮作ったものでしかないとわかっての大人の判断だと思いました

そんな伊藤さんは録音時に注文も付けるそうで、マイクの位置をご自分で変えちゃたりするそうです。寺島さん(もプロデュースをやってます)はとてもそんなことはとてもできないと言ってました。伊藤さんは録音エンジニアと長い付き合いなのだそうで、それができるんですとも言っていました。

GJTの録音時、オマー・ハキムの”ぼうや”がロック・チューニングのドラム(オマーはマドンナのバンドもやっていたりする)を持ってきて、キック・ドラムにマイクを入れちゃったりしていたので、伊藤さんはそれを外に出したりしたんだとか。オマーも来て見ていて最初は怒ったそうですが、音を聴いたらこれでいいと納得したそうです。「穏やかに主張すれば言葉はネイティブのようにいかないが、気持ちは伝わる。」と伊藤さんは言っていました。伊藤さんはミュージシャンに嫌われたことがないそうです。

話はGJTの『アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』のジャケット(上記の写真参照)へ。内藤忠行さんの写真だそうです。伊藤さんは50,60年代に比べCTIのジャケットが斬新で新鮮に思っていたそうで、このアルバムの時もアメリカの音(特にトニーのドラム)をジャケットにしたいと思い、それは”野球”だろうということになり、内藤さんのポジを何枚も見てこの写真に決めたそうです。ここでジャケット論が少々。ジャケットは10人中10人がいいと言うのはダメで平凡になるそう。6人はイイが4人はダメというのが当たるんだとか。ギリギリ良いが勝るくらいがいいそうです。

ここで寺島さんが「音にも同じようなことが言えませんか?」と言うと、伊藤さんは「音は人それぞれだから難しい。自分で100%と思わないとダメ。」と言っていました。伊藤さんはさっき言ったようにいかに生音に近付けるかが大事とのことで、盤の素材によっても音が変わるので考慮しているそうです。

演奏内容、ジャケット、音の3つが揃わないとダメでという話も出ました。寺島さんはその比率が4:3:3だそうで、伊藤さんはどうかと尋ねたら、答えは何とも言えないとのことでした。伊藤さんはジャケットについてはジャズ喫茶通いである程度知っていたが、音は最初の頃はわからなかったそうで、経験を積んでいくいくうちにわかってきたそうです。

伊藤さんは演奏についてはミュージシャンにあまり言わないそうですが、選曲は全てやるそうです。アルバムには”キー”となる曲があり、それは時代にもよるとのこと。GJTの録音では最近ファンキーな曲を敢えてやってもらうんだとか。ハービー・ハンコックの《カンタループ・アイランド》もリクエストしたそうです。

そこからミュージシャンは意外と曲を知らないという話へ。日本で有名な《クレオパトラズ・ドリーム》や《ユッド・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》は知らないと言ってました。「向こうはブロードウェイ(ミュージカルの曲)がスタンダード。」なんて話もありました。

5万円のクリスタル(ガラス)CDの話へ。伊藤さんはカラヤン/ベルリン・フィルのやつを初めて聴いて良いと思ったとのこと。それは20万円。伊藤さんは出来るだけ安くなるようにとメーカーに言って5万円にしたんだそうです。オーディオの人もこれくらいなら出してくれるだろうということだそうです。既に300枚以上売れているんだとか。もう少し売れれば”トントン”だそうです。いや~っ、4分の1の価格に設定した伊藤さんはエライと思いました。

伊藤さんによるとCDだけれどCDの音ではないとのこと。今回はアナログ録音。アンペックスのテープ#456を日本中からかき集めて、スチューダのテープ・レコダーで録音したんだとか。一関のジャズ喫茶「ベイシー」でのライブ録音です。アナログ・テープで録るとアナログの音がするとのことでした。それからガラスはピット成形が上手くいので、ポリカーボネートのピット端崩れによる乱反射のエラーでスポイルされることがないというようなことも言ってました。この辺は専門的です(笑)。

「音はどういう特徴ですか?」と寺島さん。伊藤さんは「臨場感とディテールが良く出る。」という答えでした。

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《ハブ・ユー・メット・ディス・ジョーンズ》をかけました。確かに柔らかい音でした。私には録音方法の違いが大きいんじゃないかと思われました。いつものことですが、ミュージックバードがいくら高音質でも、ガラスの効果がどれほどあるのかはちょっとわからないです。

曲終了後、「これまでのCDと全然違う音だった。」と寺島さん。「フワッとしていて力強い。ベルベットのようだ。」とも言っていました。岩浪さんは「金持ちのオーディオ、サロンで聴いている気がする。」と言っていました。お2人は「金持ちになった感じ。音がリッチ。」とも言っていましたよ。寺島さんは「フワッとしてて、ベースの音は解像度がある。」と、この音がかなり気に入ったみたいでした。スイングジャーナル読者のみなさんごめんなさい。「次号までお待ちあれ。」のCDとはこのCDですね、多分(笑)。

今このCDが中国で興味を持たれているとのこと。若くて成金が増えていてからだそうですよ。

ここまでは音楽そのものの話ではなく、プロデュースのことやオーディオのことだったので、特にあまりツッコミを入れるところはありませんでした(笑)。でも興味深い話は色々聞くことができました。

長いので続きはまた後日。

本番組レポートは、音楽専門・衛星デジタルラジオミュージックバード
THE JAZZチャンネルで放送している「寺島靖国のPCMジャズ喫茶」
もとにして書いています。
他にも楽しい番組が盛りだくさん。
放送を聴いてみたい方は ミュージックバード からお申し込みできます。

目指せ!”脱”誰も聴かないジャズ番組!(笑)

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コメント

いっきさん、こんばんは。

いや〜。いい話でしたね。
オイラも録音はアナログでテープ録音すべし!だと思いますよ。
レコードのような音にしたいのならですが・・・。
ダイレクトにデジタル録音するから、音がふくよかにならない。
テープで録って、試行錯誤すればいいんですよ。

んで、またまた中国話ですが。
中国のニューリッチは、日本のオーディオマニアの
後を追っかけているみたいですよ。
日本のオーディオマニアのところにも、来日して試聴に来ていると
聞いたことがあります。
んで、同じ機材を買い揃えていくのだそうです。
中国がジャズブームにはならないでしょうが、
高級オーディオブームになる可能性はあると思います。
きっと音源はジャズかクラシック。

投稿: tommy | 2010年4月25日 (日) 02時33分

tommyさん。こんにちは。

>いや〜。いい話でしたね。

そうですよね。

>ダイレクトにデジタル録音するから、音がふくよかにならない。

それは感じます。

>テープで録って、試行錯誤すればいいんですよ。

それもありですね。

>中国のニューリッチは、日本のオーディオマニアの
>後を追っかけているみたいですよ。

そうなんですか。

>日本のオーディオマニアのところにも、来日して試聴に来ていると
>聞いたことがあります。
>んで、同じ機材を買い揃えていくのだそうです。

今はなんでもマネする段階なんでしょうね。
同じ機材買っても同じ音にはならないんですけどね~。
文化的にはまだまだなのでしょう。
今の中国って、日本の高度成長時代に近い感じがします。

>高級オーディオブームになる可能性はあると思います。

一部の成金でしょうけど、人口が多いですからね。
前にゲスト出演したエソテリックの社長さんもアジア市場を注目していました。

投稿: いっき | 2010年4月25日 (日) 12時42分

いっきさん。こんにちは。

>今はなんでもマネする段階なんでしょうね。
>同じ機材買っても同じ音にはならないんですけどね~。

この「真似る」「コピーする」という行為が、意外とあなどれない(笑)。
「オリジナルをやる」よりも、短時間で学ぶことが多いのです。
かっての日本人がそうであったように・・・。

この頃の日本人は、それを忘れていますね。
「真似る」「コピーする」にも、才能が必要だということを・・・。
オイラはヘタなオリジナルよりも、上手いコピーが好き(笑)。

投稿: tommy | 2010年4月25日 (日) 16時52分

tommyさん。

>この「真似る」「コピーする」という行為が、意外とあなどれない(笑)。
>「オリジナルをやる」よりも、短時間で学ぶことが多いのです。
>かっての日本人がそうであったように・・・。

はい、前にもこの手の話題が出ましたよね。
了解しております。

>この頃の日本人は、それを忘れていますね。
>「真似る」「コピーする」にも、才能が必要だということを・・・。

個性を大事にする教育がそうさせちゃったんじゃないですか?
過去の日本を思うと自己嫌悪もあるかも?
いや、コピーから脱却した上から目線か?
それが今の「モノマネ/コピー悪」の風潮?

とは言いつつ、
過去の日本の徹底したコピー&質の向上には恐るべきものがあったと思います。
そこには効率からの要請を上回るオリジナルから学ぶ姿勢があったと思います。
今はゆとり教育のおかげで、学びとる姿勢がかなり危うくなっちゃってます。
今のままで安易なコピーは危険だと思います。
そこには効率しか残らないんじゃないかと。
大学生の”コピペ”レポートが問題になってますよね。

>オイラはヘタなオリジナルよりも、上手いコピーが好き(笑)。

私はオリジネターの方に価値を認めます(笑)。

投稿: いっき | 2010年4月25日 (日) 18時13分

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