エンリコ・ピエラヌンツィと西山瞳
さて、昨日のネタ続きで、まず最初はエンリコ・ピエラヌンツィ。
私がピエラヌンツィを知ったのは、寺島靖国さん著「JAZZはこの1曲から聴け!」にこの人のアルバムが掲載されていたからです。見出しが「白いスイングもTPOで出番がある」。アルバムは『シーワード』。「快楽ジャズ通信」でもかけましたね。
面白いので本からいくつか引用してみましょう。
冒頭。
「ヨーロッパ人のジャズに違和感をおぼえていた。一口でいうと汗が感じられない。ジャズは汗の音楽だから、燕尾服を着たようなヨーロッパ・ジャズをずっと聴かずにいた。」
で、常套句。
「エンリコ・ピエラヌンツィ。ビル・エバンスに影響を受けたとかで、まあ有名なピアニストである。私も名前は知っていた。しかしみなさん、この名前でジャズを聴く気になりますか。これはジャズをやる人の名前ではない。ヨーロッパのジャズにはそこのところにも抵抗があったんですね。」
いつものようにスタンダードからききはじめます。
「おや、これは、ドスン、バシンとドラマーが大あばれじゃないか。ピアノも大はしゃぎ。ベースもあっちへ飛び、こっちへ飛び。これが《バッド・ノット・フォー・ミー》の前奏曲《ディス・イズ・フォー・ユー》。」
「もっともこのスイング、本場アメリカとは違う。白いスイングだ。スイングの底に芯がない。」
「でも、軽い気持ちで聴く時はいい。エンリコ、午後の珈琲のBGMにぴったり。要はジャズ聴きもTPOだ。どっぷりジャズにつかりたい時は、黒いアメリカのジャズを聴けばいい。」
〆です。
「近頃ようやくヨーロッパのCDにすっと手が出るようになった。一つ人生の得をした。めでたし、である。」
これは10年ほど前の話。ここから始まり先日の「PCMジャズ喫茶」で瀬川さんが指摘したカーメン・キャバレロなヨーロッパのピアノ・トリオをご自分のコンピレーション・アルバムに入れるまでになったのです(笑)。
これを読んだ私もピエラヌンツィが聴きたくなって、当時よく行っていた秋葉原の石丸電気ソフト店で買ったのがこれ。 『プレイズ・ザ・ミュージック・オブ・ウェイン・ショーター、インファント・アイズ』(2000年rec. Challenge RECORDS)です。メンバーは、エンリコ・ピエラヌンツィ(p)、ハイン・ヴァン・デ・ゲイン(b)、ハンス・ヴァン・オースタウト(ds)です。
確か『シーワード』が売っていなかったので、私の好きなショーターの曲をやったこのアルバムを選びました。内容的にはほぼ寺島さんが書いている通りだと思いました。まあ、BGMとしてしまうのはちょっと惜しいですが。当時は私もユーロ・ジャズに慣れていなかったので、凄く新鮮に響きました。ショーターの曲がいいですしね。
私の好きなミステリアスで美しい曲《ワイルドフラワー》から始まっているのがいいです。この曲、3分36秒~39秒が針飛びのように繰り返されるのですが、これは演奏がそうなっているのでしょうか?それとも私の買ったCD固有の問題?この件について誰かご存じでしたら是非コメント下さい。
《E.S.P.》《ネフェルティティ》《ピノキオ》《インファント・アイズ》とか渋いです。ショーターの曲とピエラヌンツィ独特の陰影感がなかなかのマッチングだと思います。
*
変わりまして西山瞳さんのアルバム。
私が持っているのはこれのみ。『ヒトミ・ニシヤマ・イン・ストックホルム、ライブ・アット・グレン・ミラー・カフェ』(2008年、Spice of Life)です。メンバーは、西山瞳(p)、ハンス・バッケンロス(b)、ポール・スヴァンベリー(ds)、カール・マーティン・アンクヴィスト(ts)、アンダーシュ・シェルベリ(ds)です。テナーを加えたカルテット、ピアノ・トリオ、ベースとのデュオなど、フォーマットを変えての演奏が入っています。ライナー・ノーツがMOONKSの大河内さんで、レーベルがスパイス・オブ・ライフなので、内容はだいたい想像がつくと思います。
アニメ「天空の城ラピュタ」のエンディング・テーマ《君をのせて》以外は西山さんのオリジナル曲。なかなか良い曲揃いです。この《君をのせて》が違和感なくまるで西山さんのオリジナル曲のように溶け込んでいますね。ヨーロッパ系現代ピアノ・トリオ好きの方には安心しておすすめできる内容だと思います。
1曲目《イン・ザ・ナイト・ウォッチ》。この曲のピアノ・ソロが低音をさまようフレーズで始まり、なんで今時の日本人女性ピアニストはこういうのを冒頭に持ってきたがるのかと、私は思ってしまいます(笑)。まあ、西山さんの場合は途中から得意の美メロ・フレーズに以降してだんだんエキサイティングになる展開。途中には右手左手のユニゾンフレーズや《朝日のようにさわやかに》のさりげない引用もあり、なかなかダイナミックに決めています。アンクヴィストのテナーもクールに入りだんだん熱くなる展開がカッコいいですよ。この曲は8ビートなのが私的には好印象。
2曲目《バイ・フォー・ナウ》は一転してバラード演奏。アンクヴィストのサブ・トーン入り漢の”すすり泣き”奏法もこの手のファンにはうけるんでしょうね。哀愁漂う抒情的な美メロがイイ感じです。続く《さきら》の冒頭、お客さんのざわめきが多めに入っているのはエバンスの『ワルツ・フォー・デビー』を意識しての演出でしょうか(笑)?ソロで格調高く入って、途中からベースがからんでのデュオ演奏になります。エバンスに通じる堂々の美メロ・ワルツを展開。これなんか寺島さん好みの曲だと思います(笑)。
で、4曲目が先ほどあげた《君をのせて》で、これはピアノ・トリオです。続く《ジラフス・ダンス》は意外とアーシーで重厚なピアノ。テナーもかなり熱いソロを展開して盛り上がります。ラストの《ユー・アー・ノット・アロン》はちょっと日本歌謡なメロディーのバラード(笑)で、これもワルツ。ピアノ・トリオ・ファンはこういうの好きですよね、きっと(笑)。
このアルバムは海外のライブなので力が入っていたんでしょうか?
結構ガッツリとピアノを弾いています。
実はこれを最初聴いた時、西山さんはてっきりスウェーデンにお住まいなのかと思ってしまいました(笑)。それくらいメンバーや現地のカフェに溶け込んでいるように聴こえたんです。実は関西に住んでいるんですよね~。
tommyさんから情報をいただきました。
西山さんは現在東京在住だそうです。
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コメント
いっきさん。
いえいえ、西山瞳さんは現在、東京在住で〜す(笑)。
いっきさんも守備範囲広いねぇ〜。マイッタ!!
オイラもヨーロッパ・ジャズには偏見があるけど、そうは云っても知らず知らずに買っていたりするんだよなぁ〜(笑)。
マーク・ジョンソンを再発見したのだから、ありがたい!!
投稿: tommy | 2010年3月 3日 (水) 01時59分
tommyさん。こんばんは。
>いえいえ、西山瞳さんは現在、東京在住で〜す(笑)。
あらまっ、そうなんですか。本文を修正します。
>いっきさんも守備範囲広いねぇ〜。マイッタ!!
節操なくなんでも聴くのが私の取り柄です(笑)。
>マーク・ジョンソンを再発見したのだから、ありがたい!!
マーク・ジョンソンのベースはいいですよね。
ジョーイ・バロンとのコンビもいいですが、私はピーター・アースキンと組んだ時の”ロースロイス”リズムが最高だと思います。
投稿: いっき | 2010年3月 3日 (水) 19時16分