エソテリックの大間知社長のご意見に頷く。
本日のミュージックバード「PCMジャズ喫茶」のゲストはエソテリックの代表取締役社長の大間知基彰さんでした。ご本人もかなりのオーディオ・マニアだそうです。
大間知さん、スピーカーはホーン一筋で、ゴトーユニットを使っていたそうです。この辺りはアキュフェーズの元社長の故春日二郎さんと同じですよね。その昔、ゴトーユニットは絶大な権威がありました。オーディオ評論家の故高城重躬さんが愛用していたことで有名ですよね。巨大な低音ホーンを天上に付けるのが流行ったりしました(笑)。で、アバンギャルドのスピーカーを輸入しているのはエソテリックです。ホーンスピーカー好きな大間知さんだからみたいです。寺島さんとはこのアバンギャルドのスピーカーを通して知り合いになったとのこと。
大間知さんはクラシックがお好きだそうで、ジャズはあまり聴かないとのことでした。まあ今回はクラシックも良しとすることになったみたいです。
大間知さんは最初オーディオから生のような音を出したいと思って奮闘したとか。生録を自分でやったりしたそうです。生録会に大型のテープデッキを持っていったこともあるそうで、これは tommy さんと同じですね(笑)。先日tommyさんが生録会のことをブログにUPしていましたよね。CDになってからは、CDは生とは別の独自のジャンルという時期があったそうですが、最近はやっぱい生に近い音を目指すようになったそうです。
オーディオ機器の音決めの大事なポイント(着眼点)3つ。
1.各楽器が明確な音色と質感でハーモニーを奏でる。
2.ステージ上の演奏者を実像としてとらえられる。
3.演奏家のパッションをどう感じられるか。
とのことでした。いや~っ、なかなかこれは難しい要求ですよ。さすがは、高級オーディオ、エソテリックの社長さんです。
ジャズのリファレンス音源としても使っているというのが、ヘルゲ・リエン・トリオの『スパイラル・サークル』だそうで、《タイム・ファイブ》をかけました。この録音の良さは空気感がとらえられているところ。楽器のテクスチャーが大切だと言っていました。このCDはクラシック・ファンもよく聴いているらしいです。このCDは確かに良い音だと思います。
ここでアナログ(レコード)の音について興味深い発言がありました。
カートリッジ(針)を通して聴くとある種のハーモニクス成分がのってくるとのことで、これが音楽を美化するのに有効なのだとのことでした。でもこのレコードの音はマスターテープの音とは違うそうで、CDがマスターテープの音に近いんだそうです。CDをナチュラルな方向で良くするのがDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)だとも言っていました。これには私も賛同できます。いや~っ、さすがです。オカルト・オーディオとは一線を画するまともなことを言っていると思いましたよ。
オリジナル盤(レコード)の価値は、マスター・テープが劣化しないうちにレコード化した鮮度感と流通数が少ない希少感だと言っていました。これもごもっとも。マスター・テープさえ良ければ、LPモノ時代の録音は素晴らしいという話も。
ここでまたレコードの音について。
大間知さんは昔NHKへプレーヤーをたくさん納入したことがあるそうです。納入時には色々な試験をしたそうですが、周波数特性を測る時、16KHzなどの高音を録音したテストレコードを何度もかけてテストするんだそうで、10数回もかけると高音信号がどんどんなくなってしまうんだとか。なので、テストレコードを何枚も持っていったそうです。つまり何を意味するかと言えば、レコードに刻まれた高音は10回もかければ溝がつぶれてしまうということのようです。それでも音楽のレコードをかける場合は高音がなくなった感じがしないとのことで、上記のようにカートリッジでトレースするとある種のハーモニクス成分がのって、レコードから無くなった高音を補っているんだろうとのことでした。確かに良い音がすると言われる(特にMCカートリッジ)は高音に共振があったりします。私はこの話を聞いて、なるほどそれは理にかなっているんじゃないかと思いました。
1956年LPモノ時代に録音された『エラ&ルイ』のSACDモノ版は音が良いということで、「スタジオ録音でストレスのない解放感を出すのは難しいのだけれど、この録音は音のストレスがない。スッピンを聴いてみよう。ひっかかりが心にうったえかけるのを喜ぶ人もいるが、そうではないもの。」と言いつつ、《アラバマに星おちて》をかけました。かけた後で大間知さんは「エラとルイのパッションを変にいじっていない。二人の存在感が圧倒的。」と言っていました。確かにそういう音でした。私、この音には正直参りました。
次もテストに使うCDでミシェル・ペトルチアーニ・トリオ(俗に言う赤ペト盤)の《酒とバラの日々》をかけました。大間知さんは「素晴らしい録音と演奏。ストレートな音と響き。音に品位がある。フランス人のエスプリ。」と言っていました。確かにその通りだと思いました。
ここで岩浪さんがNYのヴィレッジ・ヴァンガードでペトルチアーニのライブを見た時の話をしました。抱かれてきて椅子に座ったペトルチアーニは、一旦ピアノに向かうと集中して我を忘れて弾き、感情が伝わってくるという話でした。それを聴いた寺島さんは「ペトルチアーニの奇異な感じがダメ。」と言っていました。高野 雲さんが「PCMジャズ喫茶」にゲスト出演した時にペトルチアーニをかけたら、「神格化されているからダメ。」とか言っていたんですが、根本は「ハンデを克服しての奇跡の演奏。」みたいなのがダメということのようです。結局音楽以外のことで好き/嫌い(笑)。
次はクラシックの話になります。
エソテリック(ティアック)でアバンギャルドのスピーカーを輸入しているというのは前述しましたが、タンノイもティアックで輸入しています。そうか、タンノイもホーン型スピーカーでした。タンノイ愛好者の私としてはここでまた大間知さんに親近感が湧いてしまいました(笑)。
大間知さんはオーディオ評論家の故五味康祐さんのところでタンノイ(オートグラフ)を聴いて感動し、この良さを世間に知らしめたいということで、タンノイを輸入するようになったとのことでした。五味さんからは音楽が大事でそれ(いい演奏)を聴かないとダメだと教えられたそうです。何枚も持っていてもしょうがなく、いい演奏が100枚あれば十分だと言っていたそうです。この話を聴いてちょっと耳が痛い私でした。なにしろ物欲に任せてたくさんCDやレコードを持っていますからね(笑)。
大間知さんは最近ソフト作りに熱心で、過去の遺産を掘り起こして音の良いCDを作っているそうです。マスター・テープが良くて素晴らしい演奏が残っている1960年代の英デッカ(DECCA)の高音質CD化をしているんだとか。で、英デッカのリマスタリングで 『二ーベリングの指輪』 を作ったそうです。CD14枚+DVD1枚。ブックレットを入れて¥58,000。1000部限定販売で1か月で完売。オーディオ店だけに置いて、ソフトの人にもオーディオ店に来てもらうようにしたんだとか。
このCDは音を良くするためにオーソドックスなことをやったそうです。マスター・テープの良いやつを使いたいからと、まずはデッカに要請。JVCのエンジニア根本さんを説得してスタジオにD/Aコンバータ、ルビジウムクロック、エソテリックのケーブルなどを持ち込んで、電源状態の良い日曜日にリマスタリングしたんだとか。寺島さんは「ジャズでもやってみたいのでお願いします。今度出す『ベスト・オブ・ジャズバー』でやりたい。」なんて言っていました(笑)。大間知さんは「考え方が合えば。」というような返事でした。
「CDは素材を良くするのもあるが、(マスタリング時の)伝送系をよくするのもある。」とのことでした。上記のリマスターCDは海外のエンジニアが驚いているんだそうですよ。
現在エソテリックは海外で売れているなんて話も。海外での日本製品の評価はデジタル機器に対して抜群に高いんだとか。
ここでそのCDをかけることに。
ショルティ指揮ウイーン・フィルハーモニー・オーケストラで《第3幕、神々の黄昏、ジークフリートの葬送行進曲》のオケの部分だけ。「エネルギッシュ、パッション、濃密感を聴いてほしい。」とのことでした。聴いた後で寺島さんも「素晴らしいですね。聴きやすい部分もある。」と言っていましたよ。この部分は確かに躍動的で迫力があり楽しく聴けました。
世界には「ワグネリアン」というワーグナーの熱狂的なファンがいて協会もあるんだそうですね。ワーグナーは麻薬的とも言われるんだそうです。岩浪さんからこの話が出ました。さすがは岩浪さんです。
最後はボーカルものオーディオ・チェックCD。シャーリー・ホーンの黒人特有の声の粘りをチェックするとのことでした。ここでいつもの寺島さんの黒人女性ボーカル嫌い話が出てきましたよ(笑)。このCDはハモニカとギターとか色々な楽器が出てくるので、そこもチェック・ポイントだそうです。寺島さんが好きな曲《ビューテイフル・ラブ》(アルバム・タイトルは不明)をかけました。大間知さんによるとストレスを感じないほぐれた音。確かにそういう音でした。
今回は大間知さんのまっとうなオーディオ話に頷きながら番組を聴いていました。
さすがはエソテリックの社長さん。
今68歳なんだそうですが、この方もやっぱり凄くお元気なのでありました。
*
本番組レポートは、音楽専門・衛星デジタルラジオミュージックバードの
THE JAZZチャンネルで放送している「寺島靖国のPCMジャズ喫茶」を
もとにして書いています。
他にも楽しい番組が盛りだくさん。
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コメント
いっきさん、こんばんは。
いや〜、いい話ですね。
"電源状態の良い日曜日にリマスタリング"は、オイラの気持ちにグッ!ときました(笑)。
東京の電圧ツーか、電気の質は最悪ですからね。不純物だらけだよ。
電源状態の良い日曜日にジャズは聴きましょう(笑)。
みんなが寝ている深夜もいいですね。あっ、それオイラです。
オイラ、先週2ウェイから3ウェイに戻しました(笑)。
いや〜、ビル・エバンス・トリオが色艶良し!で鳴っています。
2ウェイだとスコット・ラファロのベースに不満が残る(笑)。
多少楽器の音に詳しくなってくると、アナログ、デジタルかは、どうでもよくなってくるんですよ。
要は音源基準の問題で、「〜そこからどうしてやろうか」が楽しい。
アナログ盤の方が気持ちは近いけど、大半がCDですからね。これは、さっさと気持ちの処理!!をして。
原音再生を目指しているのではなく、オイラ好みの音「肌触りのいい音」が目標(笑)。
「オーディオの音はtommyエフェクトだ!」ツーことです(笑)。まぁ、勘違い大外しはしてはいけませんけど。
前に、いっきさんが「tommyさんのオーディオは部屋に同化している」ツーのが、最近実感なんだよね(笑)。
投稿: tommy | 2010年3月14日 (日) 02時15分
そういえば昔、長岡鉄男さんがオーディオメーカーのトークショーで、
「レコードを聴くというのは、豆腐を釘でひっかいているようなものなんですよ」と言っていてた。
それ以来、レコードを聴く時に豆腐と釘のイメージが頭から離れない。
「豆腐に釘」はオイラには、意味が違います(笑)。
投稿: tommy | 2010年3月14日 (日) 02時50分
tommyさん。こんにちは。
オフィスビルや工場なんかはパソコンなどのデジタル機器の影響で電源は乱れまくっているんでしょうね。
>電源状態の良い日曜日にジャズは聴きましょう(笑)。
それは正解です(笑)。
>みんなが寝ている深夜もいいですね。あっ、それオイラです。
そんなことができるのはtommyさんくらいです(笑)。
羨ましい環境です。
>オイラ、先週2ウェイから3ウェイに戻しました(笑)。
いいですね~。色々試せて。
>要は音源基準の問題で、「〜そこからどうしてやろうか」が楽しい。
>原音再生を目指しているのではなく、オイラ好みの音「肌触りのいい音」が目標(笑)。
オーディオも色々な考え方がありますから、個人の好みで楽しめばいいんではないかと思います。
問題はそれを普遍な概念として押し売りするようなことですよね。
>前に、いっきさんが「tommyさんのオーディオは部屋に同化している」ツーのが、最近実感なんだよね(笑)。
私は3回引っ越ししましたが、オーディオ(スピーカー)がしっくり鳴るようになるまでに1年くらいかかるのを実感しています。そうなるまでは気分的に落ち着かなかったです。
だからtommyさんのようにスピーカーが部屋に馴染んで鳴っていると気持ちがいいんです。スピーカーをコロコロ変えないで鳴らしこんでいる良さもあると思います。
>「レコードを聴くというのは、豆腐を釘でひっかいているようなものなんですよ」と言っていてた。
そんなことを言っていたんですか。
ちょっと極論だとは思いますが、高音に関してはどうやらそういう感じらしいです。
長岡さんは本質をきちんと見ていた方だったと思います。
>「豆腐に釘」はオイラには、意味が違います(笑)。
面白いです。
この話をお聞きしてさらに今回の件が鮮明に頭に刻まれました。
投稿: いっき | 2010年3月14日 (日) 08時23分