スレッギルのオーガニック・ミュージック!
今年の漢字は「新」に決まったようですが、世の中不景気一色で「新」な感じはあまりないですね~。自民党から民主党へ政権交代したんですけど、政界に「新風」を吹き込むとまではいってないですよね。政治の世界って結局混沌としているように感じます。
まっ、それはさておき、今日紹介するのはヘンリー・スレッギル・ズォイドの『ディス・ブリングズ・アス・トゥVol.1』(2008年rec. PI RECORDINGS)です。なんなんでしょ。この味もそっけもないジャケットは(涙)。メンバーは、ヘンリー・スレッギル(fl,as)、リバティ・エルマン(g)、ホセ・ダヴィラ(tb,tuba)、ツトム・タケイシ(b)、エリオット・フンベルト・カヴィー(ds)です。
この人、昔は”スレッギル”とカタカナ表記していましたが、”スレッジル”と表記する方もいますね。外来語のカタカナ表記は難しいです。8年ぶりの新作らしいです。私にとってのスレッギルは「AIR(エアー)」というサックス・トリオに参加していたということ、私がジャズを聴き始めた年に『シカゴ・ブレイクダウン’82』を出して、当時はスイングジャーナル誌でも結構取り上げていた記憶があります。当然私はまだこの手のジャズを聴くレベルではありませんでした。今聴くとなかなかクリエイティブで面白いサウンドだと思います。
さて、本アルバムの話。一言で言うと一筋縄ではいかないサウンド。「いーぐる」周辺では有名なアルバム『トゥ・マッチ・シュガー・フォー・ア・ダイム』をシンプルにした編成&サウンドです。そのアルバムいついては前に書いていますので、以下を参照願います。
http://ikki-ikki.cocolog-nifty.com/blog/2008/04/post_991b.html
1曲目《ホワイト・ウェンズデー・オフ・ザ・ウォール》は、音の隙間が多めのフリー・インプロビゼーション。音の空間配列や音のニュアンスを意識的に聴かせるような演奏です。スレッギルはフルートを吹いています。
2曲目《トゥ・アンダーテイク・マイ・コーナーズ・オープン》は、ミディアム・バウンスのフレキシブルなファンク・ビートに乗って、ダヴィラのトロンボーンやエルマンのギターがじんわり熱いソロを展開し、最後にスレッギルも雰囲気を維持してソロをとります。この微妙によじれたサウンドが個性的です。
3曲目《チェアマスター》は、ダヴィラのチューバーが低音パルスのベース・ラインで演奏をリードする曲です。ギターとベースは自由に動き回っています。浮遊感を感じるよじれたリズムの上で、アグレッシブなスレッギルのフルートが舞い踊り、エルマンの抽象的なよじれたギター・ソロが続きます。タケイシはアコースティック・ベースを弾いています。私はこの人はエレクトリック・ベースの人だと思っていました。
4曲目《アフター・サム・タイム》では、やっとスレッギルのアルト・サックスが登場。これもよじれサウンドです。リズムとかサウンドは前曲と同じですが、スレッギルがアルトを吹くとアグレッシブさが増してきます。エルマンの現代的で個性的なギター・ソロが続きます。
5曲目《サプ》は、ドラムのソロから入ります。パワーで押すという感じではなく、ニュアンス&広がりを意識したものです。アップテンポのファンク・ビートに変わり、他の楽器が入ってくる瞬間がカッコいいです。この曲もチューバーがベース・ラインを吹きます。チューバー・ベースって、ちょっと緩い感じがして気持ちいいんですよね。で、リズムがとても軽くなります。ここでもスレッギルのエキサイト・アルトとエルマンのよじれギターが炸裂。
6曲目《ミラー・ミラー・ザ・ヴァーブ》は、最初と同じでフリー・インプロビゼーション。スレッギルはアルト。これも空間系の隙間が多い演奏です。1曲目よりこちらのほうが激しい演奏になっています。
ちなみに、全曲をスレッギルが作曲しています。前半3曲がフルートで、後半3曲がアルト・サックスという構成でした。全6曲39分5秒。最近にしては収録時間がかなり短いです。潔さを感じます。収録時間がだらだら長いものよりは好きです。
これらのサウンドをなんと説明したらいいんでしょうか?よじれていますが決して威圧感はなく、ちょっとユーモラスで浮遊感があり、身を任せるとかなり気持ちが良いサウンドです。スレッギルが達したブラック・ミュージックというのは、オーガニック・ミュージックなのではないかと感じました。
自然派の人は一度聴いてみてやって下さい!
アルバム名:『this brings us to vol.1』
メンバー:
Henry Threadgill(fl, as)
Liberty Ellman(g)
Jose Daila(tb, tuba)
Stomu Takeishi(bass-g)
Elliot Humberto Kavee(ds)
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コメント
いっきさん、こんにちは。
オイラも「エアー」知っていま〜す。3色マフラーのようなジャケット『エアー・ソング』レコード買いました。発売時は人気でしたよ。
そうそうシカゴ前衛派ピアノレス・トリオつー宣伝文句でしたね。ロフトジャズのような感じだったと思います。
で、ヘンリー・スレッギルは、チコ・フリーマンとのアルバムもあるので、渋谷系シカゴ派としては再度チェックですね(笑)。
投稿: tommy | 2009年12月13日 (日) 14時40分
tommyさん。こんにちは。
エアーの前身は”リフレクションズ”というグループで、72年にシカゴのブラック・コミュニティーから生まれています。まもなく”エアー”と改名して、75年にはニューヨークに進出して、ロフト・ジャズ・ムーヴメントにのって注目されるようになったそうです。
レコードのライナーノーツによると、ロフトに集まる聴衆の多くはいわゆるインテリ白人が多かったので、シカゴのブラック・ミュージックの流通とは根本的にスタイルを異にしていたとか。
ニューヨークのブラック・ゲットーの住人が好む音楽はロック的要素の多いソウル系の音楽で、抽象的な音楽や、黒人の自我に目覚めた進歩的な音楽はみむきもされなかったので、シカゴのゲットーにおいては正当な流通機能を持つ”エアー”の音楽は、ニューヨークでは単なる観賞音楽としてしか評価されなかったとも書いてあります。
ちなみに、ファースト・アルバム『エアー・ソング』を世に送り出したのは、日本のトリオ・レコード(懐かしい)で、悠雅彦さんがプロデューサーを務める”ホワイ・ノット”レーベルだったそうです。さすがは悠さんです。
当時のトリオは単なるオーディオ・メーカーではなく、レーベルを持ってギル・エバンスのレコードを出したりして、音楽文化活動をしていたんですから凄いですよね。
今じゃあ考えられません。音楽にとっても幸せな時代だったのだと思います(笑)。
投稿: いっき | 2009年12月13日 (日) 17時44分
なるほど〜、ロフト・ジャズよりもシカゴ前衛の方が黒い分けだ!
ワークショップとコミュニティーくらい違いますね(笑)。
これは面白いです。
オイラ、トリオ・レコードのアナログ盤は何枚か持っています。
ロフト・ジャズものかなりありますね。
悠雅彦さんプロデュースのロナルド・スミスのレコード探しているんですよ。
マルカムのお気に入り(笑)。
投稿: tommy | 2009年12月13日 (日) 21時58分
tommyさん。こんばんは。
ロフト・ジャズの温度感や黒さ度がわかる解説ですよね。
マルカムお気に入りのロナルド・スミス。
気になります。
投稿: いっき | 2009年12月14日 (月) 00時14分