今回は大変勉強になりました。
今日の「高野 雲の快楽ジャズ通信」は「トニー・ウィリアムス特集」。
ゲストはジャズドラマーの大坂昌彦さんです。
番組詳細については「快楽ジャズ通信」を参照願います。
プロフィールはディレクター嬢が説明。
今日も軽やかな英語のナレーションが素敵です。
大坂さんは批評文も書くんだそうです。
雲さんによると、分かりやすくて面白いとか。
トニーの凄さは?
ハイハットをコンスタントに踏みません。
コンスタントに踏むことを嫌っています。
そのルーツは同郷ボストンのロイ・ヘインズだそうです。
トニーも元はコンサバティブなアラン・ドーソンに支持していましたが、
ヘインズのドラミングに注目していたそうです。
シンバルレガートが定型でないのもヘインズから盗んだとか。
それらによって生み出される斬新なリズムが凄いのです。
雲さんは、ヘインズはスピード感があるドラマーだと思っていたそうで、
同じくスピード感があるトニーのドラミングの元がヘインズだったことに
納得していました。
ではヘインズはなぜユニークな叩き方になったのか?
ヘインズは貧民街出身で、ドラムの全セットが買えなかったんだとか。
その少ないドラムセットでの叩き方は当時から最先端の形だった。
で、トニーはそれに影響を受けたんだそうです。
今日の1曲目、比較のためにジミー・コブのドラムから。
トニーとコブの違いは?
名ドラマー、フィリー・ジョー・ジョーンズの後任としてマイルス・クインテットに
参加したコブはグルーブ・マシーンなんだそうです。
譜面はあまり読まず、グルーヴに特化。
コブのシンバルの力強さは素晴らしいです。
で、トニーはそれも取り入れたそうです。
新しさにグルーヴの推進力も加えたものがトニーのドラミング。
雲さんは、トニーのドラムは構築力が素晴らしいといいます。
大坂さんによると、組み立てのあるドラムは、主流に対するアンチテーゼ。
トニーは同じリズム(パターン)を刻むことも嫌っていたそうです。
ということで、『ブラックホーク』から《ソー・ホワット》。
途中フェードアウト。
これはもうオーソドックスなドラムです。
私はコブより先にトニーを聴いたので、
コブを最初に聴いた時は、退屈なドラムだと思いました(笑)。
(これ以降の緑字は曲を聴いての私の感想などです。)
続けて『フォア・アンド・モア』から《ソー・ホワット》。
こちらはエキサイティングなトニーのドラムです。
この鋭利な刃物の如きキレ味は最高ですね。
次々と叩き方を変化させて場をリードします。
ロン・カーターのベースは比較的大人しくて変わったことはしませんので、
トニーのドラムが余計目立つんですよね。
さすがはトニー!
雲さんは「3年後の演奏なのに、10、20年ワープした感じに聴こえる。」
と言います。
このドラムを大坂さんは「ビートのキュビスム。」と言います。
トニーはポリリズムを構築するのが得意。
「絵画のキュビスムのように色々なものを組み合わせている。」と大坂さん。
なんと上手い喩えなんでしょう。
”キュビスム”についてはウィキペディアを調べて下さい。
ライドシンバルの音色も特徴。
トニーからライドシンバルが大きくなったそうです。
昔は16インチ、14インチと小さかったんですが、
フィリー・ジョーあたりからライドシンバルは18インチになり、
トニーは22インチなんだとか。
ライドシンバルが大きくなったことで、
ライドシンバルによるリズムの構築が重要になってきます。
その分バスドラが小さいのは?
それまでのバスドラが24インチと大きかったので、
移動時車に乗せるのが大変。
つまりツアー向きでないことから小さくなったそうです。
そのため18インチになりました。
16インチもあるそうですが、小さくて普及しなかったようです。
18インチが現代の主流となりました。
小さくなると音は”ドンドン”から”コンコン”へ。
リズムのリニア化に貢献するそうです。
リニアとはシンバルやスネアやバスドラそれぞれが分離してリズムを作ること。
リニアなドラムの元祖はトニーなんだすです。
トニーがドラム奏法をどんどん進化させたのは?
大坂さんによるとそれは若さ故だとか。
年をとってくると、周りの状況に合わせて思いやりドラミングをしますが、
トニーはそういうことをしないんだそうです。
今聴いた《ソー・ホワット》では、途中叩くのをやめていますが、
これはリズムが聴こえてこないからやめたんであって、
聴こえてきたらまた叩くということをやったんだそうです。
こういうことがまた新たなものを生み出します。
こういう演奏を大坂さんは「ダダ/虚無感.。」と言います。
”ダダイズム”についてはウィキペディアを調べて下さい。
これまた美術用語ですね。
みんながばらばらな演奏をしますが結果的に素晴らしい。
ビ・バップはそれぞれが役目を果たすピラミッドでありチームプレイ。
一方マイルス・クインテットは個々がバラバラなんだけど
繋がりは失われていません。
そういう演奏が出来るところが、黄金のクインテットと言われるゆえん。
真似しようとして形からやっても真似はできません。
次にかける後年のアルバムで、ドラミングが変わったという話。
後年トニーはドラム・セットを大きくするそうです。
大きな会場での演奏が増え、それに対応したんだそうです。
それはトニーにインタビューした時の答えだとか。
トニーは後に「それがどうした。」と続けたようです。
こんなトニーの態度から、プライドが高く芸術家肌というのがわかります。
後年オーケストラ作品もやりますが、
ドラムだけでなく作曲やアレンジなど一体で音楽家だと考えていた
あらわれだそうです。
そういう意味では色々熱心に勉強する勉強家だったようです。
ここでトニーの作る曲についての話へ。
ピアニストではないので、メロディーがあってハーモニーがあります。
そこがハービー・ハンコックのようなピアニストと違うところ。
ハービーの《スピーク・ライク・ア・チャイルド》などは、
メロディーにハーモニーが含まれ、印象派的。
メロディーにハーモニーが見え隠れします
またまた登場美術用語。”印象派”はウィキを見てねっ。
対するトニーの曲はメロディーをハーモニーが支えています。
またトニーは管楽器奏者ではないので、ロングトーンはないそうです。
この話、大坂さんご本人が作曲する際の実体験に基づいているようです。
トータルなコンポーザーとしてのトニーを味わう曲。
雲さんが好きな曲です。
『フォーリン・イントリーグ』から《シスター・シェリル》。
この曲は私も好きです。
かの寺島さんもこの曲が良いと言っていました(笑)。
私、結構雲さんと好きな曲が被っています(笑)。
これは突然若手を入れてオーソドックスにやった最初のやつです。
当時これが出た時はそれなりに反響がありました。
世は新伝承派の時代でした。
メロディーの素晴らしさとアレンジの妙。
先祖返りのドラミングです。
これに関する詳しい話はなし。
収録時間の都合でしょうがないと思います。
次は大坂さんの『オマージュ』から《E.S.P.》。
テナーのワン・ホーン・カルテットでライブ演奏です。
リスペクトしてきた偉大なるジャズの巨人達に捧げた「オマージュ」アルバム。
トークの途中からフェードインしています。
今日はトークが多かったからでしょう。
安ヵ川さんの強靭なベースから入ります。
大坂さんのドラムもアグレッシブですね~。
雲さんのブログに几帳面と書いてありましたが、それは私も感じました。
タイトなドラミングです。
熱気あふれる逞しい演奏です。
やっぱりドラムが一番活躍しています。
ベースソロに入ってしばらくしてフェードアウトでした。
この曲でのトニーに通じるドラムは、トニー特集に合わせての選曲。
<アフターアワーズ編>
大坂さんお薦めアルバム。
ブライアン・ブレイドのマイルス・トリビュート・アルバム。
ブレイドのドラムは音楽的。
上手い下手の路線ならたくさんいるが、
その方向性でないのがブレイドの賢さ。
トニーからの系譜なのか?という雲さんの質問。
ブレイドは24インチのライドシンバルを使っているそうで、
ライドシンバルを大きくするところがトニーに繋がりとの答え。
大きくなることによる効果は、音そのものが大きくなることと、
シンバルの音像の支配度が大きくなること。
スピード感のあるドラムもトニーの影響なのでは?と雲さん。
フュージョン時にテクニカルな進化があり、
そのせいで音の立ち上がりが速くなって、今のドラムに繋がると大坂さん。
90年代以降はヒップホップの影響があるとも言います。
ヒップホップは音に角(エッジ)がある。
黒人系ではデニス・チェンバースからの影響なんかがあるそうです。
デニ・チェンのキレとパワーが両立するドラム。私は大好きです。
今日はかなり高度な話になっていましたよ。
大変勉強になりました。
大坂さんは美術がお好き(笑)?
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コメント
♪
これは、とっても興味あります。
ワタクシのように楽器とかと無縁だと、こういうお話しはわかりやすくて面白いと思います。
最近のドラマーって、多才な人多いですよね。
素人目には、ドラムって、なんか、一番進化してる気がしますです。
投稿: すずっく | 2009年11月11日 (水) 22時41分
すずっくさま。こんばんは。
コメントありがとうございます。
すずっくさまのブログはいつも見させていただいているのですが、なかなかコメントできなくてごめんなさい。
>これは、とっても興味あります。
>ワタクシのように楽器とかと無縁だと、こういうお話しはわかりやすくて面白いと思います。
面白い内容ですよね。
私も楽器はやらないので、この番組を聴いていると、いつも色々教えられます。
こういうことが分かると、聴く楽しみも増えていいと思います。
で、分かりやすさは雲さんのトーク・センスによるところも大なんですよ。
>最近のドラマーって、多才な人多いですよね。
>素人目には、ドラムって、なんか、一番進化してる気がしますです。
現代のジャズはリズムがどんどん複雑化していると思います。
なので、ドラマーが進化しているんだと思います。
そのルーツはトニーであり、お金がなかったために全ドラムセットが買えなかったロイ・ヘインズに行きつくところが面白いですよね。
投稿: いっき | 2009年11月12日 (木) 00時05分