「PCMジャズ喫茶」のゲストは川島重行プロデューサー(その2)
昨日の続きです。
ここでブラインド・フォールド・テスト。
曲名を当てるとかではなく、聴いた後に川島さんの感想を聞きたいとのこと。
かけた曲はオーネット・コールマンの《ロンリー・ウーマン》。
川島さんは「まず、スタジオでこういう演奏やったらすぐボツでしょう。ど頭から音が揺れてたんで、あの段階で(録音を)止めてますよね。でも、後半凄く良くなっている。だから全部終わったらもう一回と言えば、もっと良いテイクができた。」と言います。なるほど、これはもうプロデューサー耳ですね(笑)。リスナー耳ではありません。「ドラムとベースが全然調和がない。」と続けます。「音楽、学理的、音的にどうか?とみているんですね。」と、寺島さんが言います。
寺島さんは、ジャズの中のジャンルとしての音楽性、ハード・バップに飽きてフリー・ジャズになったというようなことについて意見がほしかたみたいです。「こういうジャズはダメで、M.J.Q.のようなハード・バップが良い。」という答えを期待していたみたいです(笑)。寺島さんの思惑は見事にハズレ!
ここからはギル・エバンス・オーケストラの話。スイート・ベイジルでジャズ・メッセンジャーズの録音(『ライブ・アット・スイート・ベイジル』:私金メッキCDを持っています)をした頃、川島さんはギルがあまり好きではなかったそうですが、スイート・ベイジルでギルのライブを見て気に入り、その場でブッキング・マネージャーにレコーディングの交渉をしたとか。ギルは1日待ってくれとの返事だったとかで、その間にギルが川島さんのことを調べて、翌日にギルからO.K.が出たそうです。
で、ティアックの16chのテープ・レコーダーを持ち込んで、2日間全く同じ曲を演奏してもらって録音したんだとか。2日というのは、ライブだと何があるかわからないので、良い方をとることにしたんだそうです。で、現地でミックスダウンをしたら、トランペットのレベルが低くてどうにもバランスがとれない。ギルはトランペット命なんだそうで、「トランペット。トランペット。」と言うが、出せども出せども出ない。終いには他のレベルを下げてバランスをとったら、今度はオーケストラの迫力がなくなったとか。
キングに持ち帰ってから、それが不満で再度ミックスダウンをやり直したんだそうです。実はトランペットのゲインをちょっと上げたら出てきたそうで、現地のエンジニアはそれに気がつかなかったようです。レベルではなくゲインを上げるところがミソ。その再ミックスダウンをギルに送ったら、「凄いミックスダウンをしてくれた。」と、とても喜んで、あとは曲順から全て任せてくれたんだそうです。面白い話ですね~。私はこの2枚組CDも持っています。当時話題のやつだったんですよ。
ここからはいつもの寺島論。ギル・エバンスの音楽性が良くないという話が続きましたが割愛。さて、次の録音ということになるのですが、ギルはいつも同じ曲ばかりやるので、川島さんがギルに新曲をやってくれと言ったら、新曲を5曲用意してくれたそうです。これをライブ録音したのが、グラミー賞を受賞したアルバム『バド&バード』です!
ここで選曲の話。これまた寺島さんがいつも言うことで、全てミュージシャンに任せると大変だという話です。ここでまた面白い話がありました。テイクの話です。ミュージシャンは皆さん人の音は聴かず自分の音しか聴いていないそうで、自分がミスすればダメですし人がミスしても自分が良ければ「なんだ。」ということになるんだそうです。デイヴ・ウェックルやスティーブ・ガッドもそうなんだとか。
ミシェル・カミロ『ホワイ・ノット』を録った時、ウェックルのドラムは完ぺきだったけれど、カミロが少しもたついたりして録り直しを要求したら、ウェックルは「俺は完ぺきに叩いたんだ。後は皆オーバーダブしたらいいじゃないか。」とガタガタ言ったそうです。オーバーダブだと雰囲気が出ないからと、川島さんは「あとワン・セッション分払うからやれ。」と言ったそうです。で素晴らしいテイクが出来て、そのプレイバックをウェックルに聴かせたら、ウェックルが「お前の言うことはよくわかった。お金はいらない。」と言ったそうです(笑)。ガッドも似たようなことがあったそうですよ。わがままな人達ですね~(笑)。
ここで「選曲によって売上が変わりますか?」と、またいつもの寺島論。「スタンダードを入れれば売れるというのはどうですか?」と川島さんへ質問。川島さんは「そういう考えは毛頭ないんです。スタンダードも解釈は人それぞれで味があるんですよ。ただ有名なスタンダードばかりでアルバムを作るのは嫌いなんで、必ずオリジナルを1、2曲入れます。」と答えます。で、同じ世代のミュージシャンのオリジナルをCDで積極的に聴いて勉強するというのもやっているそうです。
プロデューサーは気を使って大変だという話もあります。ミュージシャンに「こう演奏してほしい。」というのがあるんだけれど、口ではなかなか伝えにくいと言って、2人で盛り上がっていました(笑)。で、「アーティストの実力も見極めなければいけない。100%以上は出ないけれど、どれだけ100%へ近づけるかが肝心。」と川島さんは言っています。
寺島さんから「良いソロとは?」の質問。川島さんは「プロデューサー・チェアに座っていて体が動いてくる。欠点が見当たらない。で、起承転結がはっきりしている。それはもう迷わずO.K.を出します。」と答えます。さて、2人のフロントがいる場合はどうなるかというと、2人とも調子が良いことは稀なので、調子が良い方を先にソロをさせて、後の人に発奮させるという技もあるそうです。プロデューサーはなかなか大変な仕事だと思いました。
ここでやっとギル・エバンス・オーケストラのグラミー賞アルバム『バド&バード』からタイトル曲がかかります。曲後、岩浪さんから面白い話があります。当時のオーケストラに参加していた大野俊三さんから聞いた話だそうです。ギルは「譜面があるけどこんなものは気にするな。お前が吹きたいと思ったらどこから飛び出してやってもいいから。」と言っていたそうです。川島さんによると早い者勝ちなんだとか。
ここで寺島さんが「見て楽しいバンドだと思うんですけど、さてじゃあディスクになって自宅でこれを聴いた時に、それほどの感興が起こるかどうかは別問題。で、一体どのくらい売れたんですか?」と言います。7,000枚売れたそうです。寺島さんはギルが嫌いだから、グラミー賞をとってもそれくらいしか売れないと言いたかったんでしょうね(笑)。
次はまた寺島さんからブラインド・フォールド・テスト。
チャールズ・トリバー・ビッグ・バンドの『ラウンド・ミッドナイト』です。
これ、寺島さんがいつもけなしているやつです(笑)。
川島さんはこれを聴いた後で開口一番「疲れますよ~。」。アレンジに無理があると感じたようです。オーバー・アレンジじゃないかということでした。そして、日本のビッグ・バンドみたいだと思ったそうです。その理由は前半のサックス・ソロのノリ、アルトとテナーのバランス感が悪く、スイング感が向こう(アメリカ)のノリじゃないと感じたそうです。最初に吹いたトランペットは、岩浪さんも含めてハラハラ聴いていたそうです。で、そのノリが日本人ぽかったとも言っています。オープンが良くないミュートにすべきとも言ってました。
ここで寺島さんが種明かし。スイングジャーナル誌で最高5点をとったチャールズ・トリバーのビッグ・バンドだと言います。寺島さんが「激賞ですよ。激賞ですよ。」と2度繰り返し、川島さんと岩浪さんは口を揃えて「信じられない!」と(笑)。寺島さんは、「トリバーはストラタイースト・レーベルの頃から上手いトランペッターとは言えなかったけれど、今歳をとって完ぺきに(それが)出ていました。」と言ってました(笑)。川島さんも「メロディーがふらついてましたよね~。」と。まっ、3人これはダメだということで、寺島さんは自分の主張が認められてご満悦でした(笑)。
次は岩浪さんの選曲。川島さんのライバル木全信さんの新作です。
前に木全さんが「PCMジャズ喫茶」にゲスト出演した時、「今度ファブリツィオ・ボッソでフレディ・ハバードのトリビュート作を作るから、それが出来たら聴いてよ。」と言っていたものを、岩浪さんのところに持ってきたんだとか。
『ブラック・スピリッツ』から《ナットビル》をかけて、川島さんの感想を聞こうというわけです。ちなみに木全さんは川島さんの大先輩。悪口は言えないといいつつ。
これねー。私にはハイ・ファイブと同じように聴こえました。メンバーも3人は一緒ですからね。コンセプトもほとんど同じだと思うんですよ。
寺島さんは「これを木全信さんが作ったんですか?」と言います。岩浪さんは「CDのどこにも木全さんとは書いてないけど、M&I経由ポニー・キャニオンだから木全さんだろう。」と返します。寺島さんは「木全さんが作るにしちゃー、何とも珍しい。今風のね。岩浪さん曰く、草食系。脂ぎっていない。内容はなくて表面だけみたいな。」なんて、大胆発言。
川島さんは「皆さんテクニックは素晴らしい。ボッソは飛ぶ鳥を落とす勢いですからね。リズムのノリもいいですし。」と言います。「ちょっとひっかかるものがない。”グッ”とくるものがない。ありません。」と3人が言います。川島さんは「今の若いミュージシャンってのは。こう言っちゃなんですけど、テクニックをおもてにして8分音符を”パラパラ、パラパラ、パラパラ、パラパラ”と表現する人が多いじゃないですか?これをもう少し8分音符を捨てて、ソウルっぽい4分音符でソロをやってくれればうれしいんですけど。」とも言います。
寺島さんは更に「技術が細かくなって、一音一音に魂がこもらない。演奏は今みたいな演奏ですよね。」と念押し。川島さんは「ただ、テクニックがないとできないですよね。」と。岩浪さんは「今音大出が多いから、そういう技術はしっかりしているよね。」と言います。寺島さんが「今の演奏っていうのは、おしなべてこの空間では不評でしたけれど、そうするとプロデュースをした木全さんにも、いちゃもんをつけたくなってくるという一幕ですけれど。」とまとめます(笑)。川島さん「今度は私の作品を木全さんに聴かせるんですか?」と笑います。
あーっ。ハイ・ファイブとどこが違うんでしょう?
寺島さんも岩浪さんも激賞していましたよね。ハイ・ファイブ!
似たようなものを木全さんが作ると軽くて”グッ”とこないものになってしまうの?
技術で元気よく演奏するのはダメなんですか?
これだから、私はこの先生方にはついていけません(笑)。
まっ、どうでもいいかっ!
本番組レポートは、音楽専門・衛星デジタルラジオミュージックバードの
THE JAZZチャンネルで放送している「寺島靖国のPCMジャズ喫茶」を
もとにして書いています。
他にも楽しい番組が盛りだくさん。
放送を聴いてみたい方は ミュージックバード からお申し込みできます。
続きはまた明日!
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コメント
いっきさん
お疲れさまです。
面白い、面白い。うわー、早く続きを読みたい!
明日といわず、今日書いてください(笑)。
というのは冗談で、3連休の3夜連続プロジェクトには最適な題材なんじゃないかと思います。
ご無理をなされずに、続きを首をながーくして待ってます
投稿: 雲 | 2009年11月22日 (日) 20時41分
雲さん。こんばんは。
今回は久々に面白い放送でした。
ジャズ業界の裏側もかなり見えてきました。
続きにもまた裏話が出てきて、驚かされてしまいます。
この番組、業界裏話暴露大会の様相を呈していました。
明日、続きをUPします。
申し訳ありません。
「快楽ジャズ通信」のレポートはその後ということでお願いします。
投稿: いっき | 2009年11月22日 (日) 21時39分
いっきさん、こんばんは。
いや〜オモシロイ!!
この面々、罪の意識がゼンゼンないですよね(笑)。
無邪気な茶飲み話なんでしょうが、問題暴露多過ぎです。
ミュージシャンに対する信頼や敬愛が一切感じられません(笑)。
「自分たちがジャズだ!」と言っているように思うのは、
オイラだけですかね?
いっきさん、もっと多めにツッコミを入れてください(笑)。
投稿: tommy | 2009年11月23日 (月) 01時06分
tommyさん。こんにちは。
>この面々、罪の意識がゼンゼンないですよね(笑)。
>ミュージシャンに対する信頼や敬愛が一切感じられません(笑)。
確かにそうですよね。
ただ、”罪”と言っていいかどうか?
3氏なりに考えてやられているわけです。
>いっきさん、もっと多めにツッコミを入れてください(笑)。
私としてはツッコミを入れられるところには入れたつもりです。
満足しています(笑)。
投稿: いっき | 2009年11月23日 (月) 11時58分