「ジャズ解体新書」から17年!
ジャズ喫茶「いーぐる」のマスター後藤雅洋さん著「ジャズ喫茶リアルヒストリー」に
登場していた「ジャズ解体新書」を、雲さんからお借りして読んでみました。
なるほどなるほど。
後藤雅洋さんが7人の方を相手に当時のジャズを斬った対談集です。帯には過激な言葉が並んでいますが、今となってはそれほど刺激があるわけではありません。最近の私にはジャズを巡る表や裏の情報が色々入ってきている状況なので、刺激が足りないのかもしれませんが・・・?
最初はジャズ喫茶「メグ」の初代レコード係だった村上寛さんとの対談。
ジャズ喫茶に集うジャズ・マニアの会話です。「これいいよね。あれいいよね。」な会話&現状に対するグチです(笑)。最初は軽くジャブの打ち合い。
次はジャズ評論家の故油井正一さん。戦前戦後の日本のジャズ事情がよくわかります。さすがは油井さん!
そしてマイルス論が面白い。ドイツのジャズ評論家ヨアヒム・ベーレントに『ビッチェズ・ブリュー』の凄さを解説したなんて凄すぎます。当時この問題作をちゃんと理解していた油井さん、恐るべし。
あと、油井さんは『オン・ザ・コーナー』辺りからマイルスは麻薬をまた始めちゃったんじゃないかと言っています。死因も麻薬だろうと。中山康樹さんも1973年あたりから1975年の『アガルタ』『パンゲア』に向かって病的なものが増していくと言っていると思いますが、あれって麻薬なんでしょうね、きっと。じゃなきゃあんな音楽できませんよ。
そしてここでのマイルス論は後藤さんのマイルスがジャズを延命したという話につながっていくのだと思います。
最後に、ジャズの未来について油井さんが予言めいたことを言っています。
「俺と一緒に死んじゃうんじゃないか(笑)。もうジャズとは言えない音楽に変わっていくような気がしますね。僕は。それはそれでいいんじゃないかと思います。もうジャズという名でやることは残っていないんじゃないか、だからウィントン出てきたわけでしょうし。」
意味深です。皆さんどう思いますか?
私は油井さんとともにジャズ批評も死んでしまたのではないかと思う今日この頃です(笑)。
次は音楽評論家細川周平さん。細川さん著「レコードの美学」から、ジャズとポピュラーについて語っていますが、あまり印象が残りません。なぜか?細川さんと後藤さんの間に勃発した「コルトレーン好き嫌い論争」が内容の半分くらいを占めていて、その印象が強烈すぎるからです(笑)。私はどっちもどっちだと思いました(笑)。
次はピーター・バラカンさん。ジャズのブラックネスについてのお2人の意見が非常に近いことがよくわかります。そしてお2人はジャズの「黒さ」が好きなのです。
当時の新人ジャズマンの「黒さ」不足の問題が出てくるのですが、その後、この傾向は更に助長されるわけで、今のジョシュア・レッドマン『コンパス』へとつながってくるわけです。あと、バラカンさんのコマーシャルなもの拒否&倫理観を持て発言は意外でした。
次は渋谷のレコード店「discland JARO」の店主柴崎研二さん。レコードを漁りにくるお客さんの習性が語られていて面白いです。
LPからCDになって、音に対峠しなくなりBGM的になるという話があります。それは例えば『サキソフォン・コロッサス』という名盤のジャケットや曲順などを含めたイメージからの乖離を起こし、結果「名盤」という概念がなくなると言っています。これって携帯音楽プレーヤーの登場で更に助長されて今に至っていますよね。
これに対する提案の1つが雲さんの「ジャズは紙に書け!」ですよね。他に誰もこういう大事なことを言わないんだから、そりゃジャズも廃れますよ。
レコード会社に対する厳しいご意見もあります。ブルーノートの販売権利がキングから東芝EMIに移った時、1500番台を順番に出したんですが、柴崎さんはそれに1枚噛んでいたらしいです。私がジャズを聴き始めてしばらくしてのことなので、当時の業界に与えたインパクトをよく憶えています。
次はジャズ・ピアニストの佐藤允彦さん。後藤さんがミュージシャンの心理に迫っています。佐藤さんが言う「第3の眼」のコントロールの話は凄く面白かったです。インプロビゼーションとは何か?色々な方に是非読んでほしいです。
最後は脳科学者の加藤総夫さん。ここに後藤さんが言いたかったことが一番入っている気がします。だからこそ最後にもってきたんじゃないでしょうか?
一番言いたいことを簡単に言うと、なぜジャズが面白いのか?どういう姿勢で聴取すればその面白さがわかるのか?ということです。ここでの話は「いーぐる」ホームページの「Think」、ウェブ・マガジンcom-postでの「往復書簡」につながります。
既にここには、
「人間は身体のゲシュタルトによる対象の認知作用(身分け)、言葉による文節作用(言分け)の両方によって、世界の”意味”を把握しているわけです。」
という話が出てきます。
これって、つい最近もcom-postで議論していませんでしたっけ?
加藤さんと後藤さんは17年前にこの辺のことについて、既にかなり突っ込んだ議論をしていますよ。今また同じことが議論されているようですが、この対談は一度読んでおいたほうが良いのではないでしょうか?う~ん、この本絶版でした。
加藤さんは、後藤さんの主張が若い人にはなかなか分かり難いんではないかというようなことも言っています。これって今はもっと難しい状況になっていると思うんですよね~。
この「ジャズ解体新書」が出てから既に17年経っています。
結局ここで議論されていたことはどれほど身を結んだのかな~。
読んでいて複雑な心境になりました。
とは言いつつも、あれから17年、未だに同じようなことを言っているんだから、
意外と放っておけば良いのかもしれません(笑)。
と言うのは、ジャズ批評界では今も同じような議論がいくつかあるけれど、
結局は議論に反してそれなりのところに落着くんじゃないかと言う事です。
あんまり悲観的に議論する必要はないんじゃないかと・・・。
ケ・セラ・セラ、成るように成るってことで(笑)。
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コメント
いっきさん、こんばんは。
「ジャズ解体新書」の書評(?)、面白く読ませて頂きました。いや〜辛口ですねぇ・・・人の事はいえないけど(笑)。
そうなんですよね。17年前から時間が止まっている?いやいや、20年以上ジャズの時間は止まっているのでしょう。
オイラ、脳科学者の加藤総夫さんの考察は「時代を読んでいた」と思います。今はジャズを聴く動機が足りない時代なんですよね。あまりにも彼の言っている事は的を得ていると思ったので、1993年に刊行された著書「ジャズ・ストレート・アヘッド」を手に入れました。
対談のバックグランドに何があったのかを探りたいと思ったからです。
「ジャズ最後の日」→「ジャズ解体新書」→「ジャズ・ストレート・アヘッド」と読んで行くと面白いかもしれません。
ただ、脳科学で分析できるほど人間もジャズも単純ではないのですがね(笑)。感動のメカニズムを知るのは、参考になると思います。
投稿: tommy | 2009年7月 8日 (水) 04時20分
●いっきさん
>あれから17年、未だに同じようなことを言っているんだから、意外と放っておけば良いのかもしれません(笑)。
き、きびしぃ~!(笑)
●tommyさん
加藤さんの本は『脳天気』と、『ジャズ最後の日』もお勧めです。
お貸ししたいのですが、今手元にありません。
結婚して実家を出るときに、自宅にあった本を1000冊以上、吉祥寺の某書店の店員さん(今では店長やっておられます)に着払いで送りつけたのですが(笑)、たぶん、そのときの10数箱のダンボールの中に入れてしまっているんですね、加藤さんの本は全部。不覚!
不覚といえば、今では結構な値がついているラズウェルさんのマンガの初版もダンボール行きだった(涙)。
今考えると、とっておけばよかったな~という本がいっぱいです。
ま、仕方ないか。
加藤さんの本は、実際、面白いですよ。
とくにジャズをスルーすることで、他の音楽を受容する脳のシステムが変わる、というようなことをたびたび主張されていますが、たしかにジャズに慣れ親しみ、思い出したように過去に親しんでいたメタルやパンクを聴くと、聞こえ方がまったく変わっているんですよね。
いまだに椎名林檎、椎名林檎とうるさい私ですが(笑)、デビュー直後に彼女の音楽を聴いて、直感的に「この子の音楽性はそうとう広く深いはずだ。今はロック寄りの音楽やっているけど、将来はもっと広がりのある表現をする可能性がある!」と感じたのも、ジャズをスルーしているからだと思います。
たぶん、ジャズを聴いていなかったら、林檎ちゃんに出会っても、可愛い子がカッコいい音楽やってるな~、ぐらいにしか思わなかったかもしれません。
そういう意味では、ジャズを聴くって行為を通して、脳を鍛える、……いや、鍛えるっていう言い方は体育会系的で好きくないんだけど、脳の中にある音の受容回路を再構築しているのかもしれません。
た・だ・し、
必ずしも、それが「良いこと」だという即断は避けたいんですが(笑)。
もしかしたら、「ジャズ耳」は育っても、性格悪くなってるかもしれないですからね(笑)。
投稿: 雲 | 2009年7月 8日 (水) 11時49分
こんばんは。
tommyさん。
ジャズ界にもバブル後の「失われた10年」があると思います。そこから何か動き出したかというと、う~ん、歩が遅すぎると思います。世間のスピードについていってない気がします。
加藤さんの論は面白いですよね。私も今名前があがっている本が読みたくなりました。ちょっと古いですが、過去を知ることは意味があると思います。
雲さん。
最後に「毒」を吐いてしまいました(笑)。
加藤さんの主張にますます興味が湧いてきました。
投稿: いっき | 2009年7月 8日 (水) 20時57分