雲さんゲストの3回目PCMジャズ喫茶(その3)
ちょっと時間が経ってしまいましたが、高野雲さん出演の「PCMジャズ喫茶」のレポートの続きをしたいと思います。今回で最終です。
寺島さんから、いつものように迷ったうえの投げやりでなく、渾身の選曲をするように言われた岩浪さんが出したのはハイ・ファイブ・クインテットの『ファイブ・フォー・ファン』です。これは前回(戸坂純子さんゲスト出演時)、寺島さんがかけたものです。
究極の新世代ハード・バップ集団(オイオイッ!笑)と言うことで、EMIミュージックから国内盤が出るそうです。皆さんご存知のとおり輸入盤市場で人気があるからということです。
これ、前回寺島さんがかけた時、岩浪さんは「これ聴くんなら、元気が良かった頃の(ブルーノート時代、新主流派)フレディ・ハバード聴きますよ。」って言ってたんですよ。それがどうでしょう。気に入ったからかけるって・・・、私ついていけません!
まあ、岩浪さんは雲さんが初めてゲスト出演した時に、ウータン鈴木の曲をかけて「私はこう言う洗練された新主流派のサウンドが好き。」と言っていましたから、わからなくもないんですが。その時は寺島さんは「これはダメ!」と言っていました。私はハイ・ファイブもウータン鈴木も基本的には似たようなコンセプトだと思うのですが・・・。なんだかなあ~。
今度雑誌「男の隠れ家」でジャズ特集(昨年も11月号がジャズ特集)をやるらしく、10人のジャズ評論家に「未来を感じさせる今の名盤」みたいな形で1位、2位を決めさせたらしいです。そこで『ファイブ・フォー・ファン』が1位になったらしいです。アラ、まあ!その理由が寺島さんと岩浪さんが個別のランクで1位にあげ、他の人が誰もあげなかったから1位になったとか。アハハ・・・
寺島さん「他の連中は聴いてない。」、岩浪さん「新しいものをね。」と相槌をうちます。
寺島さんが「岩浪さんも本当は聴かないんだけれど、俺がかけたから聴いたわけで・・・」
岩浪さん「ちょっと内情しゃべるとまずいかな?実はEMIから言われ前々から聴いてブルーノート・クラブに宣伝文を書いたんだ。」なんて言います。「これ聴くんなら、フレディ・・・」はなんだったのだろう?
岩浪さん「素晴しいトランペッターのファブリツィオ・ボッソがいる。」なんて言いながら《ハッピー・ストロール》をかけます。寺島さんと岩浪さんは、若い雲さんがこれを聴いてどう思うのか凄く知りたかったようです。
曲が終わって寺島さんから「今正直言って今の演奏、あるいはこういう音楽が演奏されている現状、それが特に若い世代に売れているという状況を分析してどう思いますか。」
と振られた雲さんは「よくわからないんですけど。普通に気持ちいいジャズなんですけど、それは俺が好きなジャズというカテゴリーで寺島さん岩浪さんが1位にするならわかるんですけど、どこに未来を感じたのかわからない。」と返します。まったくその通りです。
寺島さん「そういう風に言うと思ったんだけど、気持ちいいんですけどって、気持ち良く感じちゃいけないの?」キタキタ噛み付いてきましたよ(笑)。
雲さん「いや、いいんだけども、それは気持ち良いジャズベストワンだったらいいじゃないですか?」そうそう!
寺島さん「気持ちいいジャズなんてカテゴリーあるんですか?」アレレ?ないですけど・・・
雲さん「だって未来を感じさせるジャズのベストワンに入れた理由を知りたいんですよ。」私も知りたい!
寺島さん「ジャズっていう音楽を聴く一番大きな目的であり要因は、気持ちよくなることなんですよ。それは絶対否定できないですよ。」まあそうですけど・・・
雲さん「じゃあそれは、未来のジャスは未来永劫新主流派なんですか?」いいぞ雲さん!
寺島さん「気持ちいいのが未来はないっていうことなんですか?」いや、そういうことじゃなく・・・
雲さん「いや、そういうことじゃなくて、未来を感じさせるジャズの1位になんで新主流派的な・・・」そうそう!
寺島さん「新主流派的、出ましたね。ついにね。僕の誘い水に乗ってね。」噛み付いた!
雲さん「つまり新主流派が未来を感じさせるのかなって疑問が・・・」私も同感。
寺島さん「例えばこのCDが、さっきも言ったように店頭で飛ぶように売れているわけですよ。HMVの売り場へ行ったら入口に20枚くらい貼りだされているんですよ。なぜそんなに輸入販売店がそこで売ろうとしているか?まずそこで働いているバイヤーがいいと思った。20代ですよ。どうして置いているんですか?と言ったら。ピアノ・トリオは50代、60代の人が買うけれど、20代、30代の人はこういうのを買うんですと言いましたよ。つまり、未来のジャスなんです。これが。」なんじゃそりゃ!
雲さん「若い人が買うと未来のジャズってことですか?」でしょう!
寺島さん「そーです。そーです。言えるじゃないですか?凄くわかりやすいじゃないですか?」あ~あ、ついていけません。
雲さん「じゃあー、どっちかというとそれは市場的な発想ですよね。つまり、音そのものに未来を感じるというわけじゃなくて、要するに若い人に売れているイコール、若い人が将来も買うであろうから未来のジャスっていえるような論法で・・・」雲さんお疲れ様です(笑)。
寺島さん「それも一つ言えるんじゃないですかね?それ否定できないですよね。」ハイハイ(笑)。
岩浪さん「それが寺島式表現のひとつ。」アハハッ。
雲さん「ならわかります。ならわかります。」そう言っとくしかないねっ、こりゃっ。
雲さんと長澤さんが「音楽自体にそんなに未来は感じませんよね。」同感です。
寺島さん「じゃあ例えば、この演奏が評判になる。日本盤でも出る。そして、若い人が、新主流派とか知らない人が、ミュージシャンがこういう風に演奏したいって、こういったクインテットがはじけるような、クラスター爆弾が爆発したような。潔いジャスがこれからどんどん出てきたとしたら、それはジャズの未来になるんじゃないですか?」私はハイ・ファイブの皆さんは新主流派を知っていると思いますよ。明らかにそういうサウンドを狙っていると思います。この演奏、はじけてますか?クラスター爆弾が爆発してますか?私はこういうクールなサウンド、スタイルを狙って演奏しているように聴こえます。寺島さんはピアノ・トリオの演奏を聴きすぎて爆発するような演奏の閾値が下がっているのではないかと思います(笑)。
この件についてちょっと補足:この前の回にかけた《インセプション》を聴いたら、寺島さんの言う「はじけてクラスター爆弾が爆発するような」と言うのは私も感じました。11/8(土)
長澤さん「それは今勝手な話ですからね。」たまには良いこと言いますね。
寺島さん「いや過程で言わなきゃ話はできない。」どうぞご勝手に(笑)。
これをどういう人が買うかという話になります。
寺島さんが「若い人はアンテナで買うんですよ。彼らのアンテナは凄いですよ。これがいいという直感は凄いですよ。」なんて言います。
雲さん「未来に「赤」入って、現在を感じさせるでもいいわけですよね。だったらわかります。だったら売れているというのは・・・」そうですね。
寺島さん「現在でも未来でもいいじゃないですか。過去さえ言わなきゃいい。我々は。」やっぱり過去に同じようなのがあったことを知ってるだけにうしろめたいんでしょ?(笑)
岩浪さん「僕なんかは、これからのジャズはこうあってほしいと思ったから、未来を感じさせる今の名盤に選んだんだよ。」岩浪さんの好みを未来にしていいの?ジャス評論って何?
寺島さん「つまり今の演奏っていうのはね、これはね俺達はこれをやりたいんだ、表現したいんだ。この音を聴いてくれみたいなね。そういう勢いとかね。もう自負がね。溢れてますよ。曲がかかっている時に、昔のマンハッタン・ジャス・クインテットに似てるって言いましたよね。あれはやらされているジャズ。これは自分でやろうとしてやったジャズ。その区別がわからないようじゃ。我々何十年やってきたんですか?」自分でやりたいんでしょうけど、やりたい表現が多分にマーケットを意識しているように私は感じます。これってポップス的な発想なのでは。
雲さん「おっしゃりたいことはわかるんですよ。でも、その差がよくわからない。まだ1曲しか聴いていないから。微妙な差が。」差は僅かだと思います。根はポップス志向?
寺島さん「その差がわからないと困るのは、こういうのを買ってく若い人、しかもスイングジャーナルに評がまだ出てないんですよ。輸入盤買う人って、何も情報がないところで、店頭で選んで買うんです。ヘッドホンで聴いて、つまり自分の耳を信じて買うっていう層が出てきているってこと。これはやっぱり。目をつけなきゃダメだ。ましてね、さっきも話したけど、日本のジャス評論家って知らないわけでしょ?まだね。スイングジャーナルに評が出てこんなの出てるってやるわけでしょ?もうそれより以前に火がついてる。どんどん羽がついて売れてくって現象。これどう思います。」その若い人はポップスを買うのと同じ発想で買ってますからね。日本のジャス評論家って若いジャズファン以下ってことですか?あ~あ、いやになる!
岩浪さん「かつてブルーノートでも新主流派なんてついてなくて買ったんですよ。みんなカテゴリなんて関係なしにあの音に飛びついて買ったんですよ。『処女航海』だってそうでしょ。新主流派、あれは僕が後でつけた。」一同爆笑。昔のジャスファンは今の多くの若者のようなポップス志向ではなく、ジャズの捉え方が違っていたのでは?
寺島さん「いいこと言った。当時はそういう情報なしに買った。『処女航海』にしろ、聴きゃいいなあと思いますよ。今これ(ハイ・ファイブ)が、当時のいいなあという状況と同じなんですよ。」状況は同じかもしれないけど、質は異なると感じます。
長澤さん「当時試聴機がなかったからジャズ喫茶で聴いたんですよね。」そのジャス喫茶という場がジャスの捉え方を教えていたのでは?
寺島さん「そうなんですよ。ところがいつの間にか雑誌とか、旧来のジャスファンが聴かないようになっちゃった。しかし我々が心していかないといけないのは、ひとつの枠に嵌ってですね。新主流派だとか、(雲さんに対して)ごめんね。新主流派だとか(川上さとみの)ライナーのバップだとか言ってると、もう時代からどんどん化石化していって、どんどんおいてきぼり食って、いつの間にか象牙の塔に閉じこもっちゃって、ていうことになりかねないですよ。高野さん。」心していかなければならないのは、ジャズの捉え方を知ることでは?それが曖昧のままで、時代に迎合するだけでいいのだろうか?
雲さん「タワーレコードの知り合いに、ジャズフロアーの人にちょっと聞いてみたんですけど、我々が売る努力をしなくてもお客さんが試聴して厳しく選別しますよって、おっしゃってたんで、つまり今の若い人は逆に活字を読んでいないんですよ。逆に新主流派なんて言っている人は珍しいかもしれない。だってスイングジャーナルとか売れてないでしょ。売れ行き多分落ちていると思うんですよね。つまり、活字離れが進んでいる分、みんな現場で検証しているんですよね。特に渋谷のタワーレコードなんかは。ジャズコーナー。」そういう状況だからこそ、ジャズをきちんと捉えてナビゲートする雲さんに、私は期待しています。
寺島さん「そういうことなんですよ。」事態がわかってないようです!
雲さん「現場検証して買っていくと思いますよ。」検証能力を養ってほしいと思う私です。
寺島さん「やっぱりね。岩浪さんもね。中古のレコード屋ばかり行ってるけど、新しいところへ行ってバイヤーとかに聞いたほうがいい。岩浪さんがやらなきゃ他の評論家なんか誰もやっない。みんな机上の空論やっているわけでしょ。現場へ行って今みたいに売り手の意見を聞く。もっと言えばお客さんにインタビューして、何でこれ買うのみたいな、そこまでやってほしいですよね。」マーケティングするのは結構なのですが、マーケティングの対象を見誤るととんでもないことになります(涙)。
この後、寺島さんが、ルーティーン・ジャス・セクステットの新譜から《ギャソリン,マイ・ビラブド》をかけます。クラブ・ジャス系のグループです。発想はハイ・ファイブと同じですからこれ以上は何も言いません。ちなみに《ギャソリン,マイ・ビラブド》はベニー・ベイリーのアルバム『ハウ・ディープ・キャン・ユー・ゴー』に収録されている曲です。『ハウ・ディープ・キャン・ユー・ゴー』は後藤さん著「ジャズ選曲指南」に掲載されています。比較するのも一興です。入手するのは難しいと思いますが。
そうそう寺島レーベルからこの路線で次はクインテットものを出すらしいです。マーケティングの成果を自己のプロデュースに生かそうということですね。きっと売れると思いますよ(笑)。
最後にジャズの捉え方については、最近発売された「ジャズ批評、11月号」の後藤雅洋さん×高野雲さんの対談「現代の日本人ジャス・ピアニストを聴いてみた」の終盤の後藤さんの意見を読むことをオススメします。私はこの点において後藤さんの聴き方に共感します。
後藤さん著『ジャズ・オブ・パラダイス』の「不毛なジャズ論議に毒されるな」の中で後藤さんが、寺島さんに対して「キング・オブ・ポピュラー・ファン」の称号を進呈していますが、今回の議論でもまさにそのとおりだと思いました。ちなみにそれが悪いとは言いません。それもありなのです。私とは考え方が違うだけです。
今日はちょっとヒート・アップしてしまいました(笑)。
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