CDのアートワーク、WINTER&WINTER
さて昨日の続き行ってみましょうか。CDのアート・ワークです。
ドラマーのジム・ブラックは今ニューヨークのジャスにおける最注目ドラマーの一人です。とは言っても日本じゃあなかなか知られていません。ジャズ誌にも紹介されていませんからね。そのジム・ブラックのグループ:alasnoaxisの『スプレイ』(2001年rec. WINTER&WINTER)のアートワーク。
このWINTER&WINTERというレーベルはドイツのレーベルで、前身はM-Base派やティム・バーンなどの新世代をバック・アップしたJMTレーベルです。ジャズだけでなくクラシックや現代音楽の作品もリリースしています。JMTからの流れで新しいジャズをサポートするレーベルだといえます。ポール・モチアンのエレクトリック・ビバップ・バンドなどの旧譜も再発しています。
このレーベルのパッケージはとても凝っていて、厚紙によるジャケットでプラスチックは使っていません。CDのホルダー部分もご覧のとおり厚紙を重ねたものです。右側にあるのがイラストの小冊子です。こんな凝ったジャケットにもかかわらず値段は日本盤よりむしろ安いのですから驚きです。
このイラストの作者は奈良美智です。tommyさんのコメントによると「米国、ヨーロッパでも人気のポップアート・現代美術の作家」とのことです。私はこの手のことに疎いもんで・・・。tommyさん、教えていただきありがとうございます。そのtommyさんはアニメっぽい絵がダメだそうです(笑)。
ちなみに他のCDにも全て小冊子が付いていて、イラストあり写真ありタイポグラフありといろいろなアート作品が見られるのがイイんですよ。このレーベル、最近私が注目する人達の作品があるので、私の中では要注目レーベルとなっています。
それでは演奏内容について紹介しましょう。メンバーは、ジム・ブラック(ds他)、ヒルマー・イェンソン(el-g他)、クリス・スピード(ts他)、スクリ・スヴェリソン(el-b他)です。各人色々な楽器やエフェクターを使っていますので、詳細は裏ジャケットの記載を参照して下さい。
ジム・ブラックを知るきっかけは、ジャズ喫茶「いーぐる」の連続講演:益子博之さんの「21世紀ジャズへのいくつかの補助線」です。この講演の内容については、カテゴリーの「いーぐる」連続講演をクリックして見て下さい。
このアルバムは、益子さんが21世紀型のジャズの特徴とする「即興性の後退」「触覚的なサウンド・テクスチャー」「リズムの複雑化」といった要素を持ったアルバムです。従来ジャズの形式と言われる4ビートやコード・モードに基づく即興などからは離れたところにあるので、前述の3要素を音としてある程度わからないと面白さが見えてこないと思います。
いきなり8ビートのロック・インスト調の曲で始まります。ギターのサウンドがバックを埋め、クリス・スピードのクラリネットがアドリブをするわけでもなく淡々とメロディーを吹いていき、ジム・ブラックがドタバシャ・ドラムを叩く曲です。こういうサウンド構成がそもそも珍しい。ジャズじゃないと言われればそうかもしれないです。
次も8ビートで今度はスローな曲です。クリス・スピードはテナー・サックスを吹きますが、ここでもアドリブはほとんどやっていないと思います。テナーのサウンドの微妙な色合いを聴くべきでしょう。ギターは空間系でノイズ系です。ベースはファンク・ベースでゴリゴリ。曲の途中でリズムのテンポを凄く遅くしたりするのが独特のアクセントを生み出します。それにしてもジム・ブラックは柔軟で繊細なリズムを刻みますね。パッと聴いた限りでは荒々しいんですよ。でもよく聴いて下さい。
3曲目も荒々しいリズムから始まってノイズ・ギターが暴れたあと、いっきに静かになりアコースティック・ギターがのどかに奏でられます。だんだん盛り上がってきたら、フュージョン調になりシンセがフレーズを奏でていきます。ここでのジム・ブラックのリズムは爽快なキレがあります。
とまあ基本は8ビートの曲が続きますが、なかにはフリーなアプローチの曲もあります。このアルバムで聴くべきは、サウンド・テクスチャーに込められた音の感触、ジム・ブラックが叩き出す柔軟で繊細で複雑なリズムのテクスチャー、それぞれの曲で全員が作り出すある感覚的な曲のイメージ、ということになるでしょうか。コード進行に基づくアドリブ回しとかを期待してもそんなものはありません。
言葉で書くのは簡単なんですが、これを音として楽しめるかどうかは、慣れが必要だと思います。それでも、何のガイドもないところから聴き始めるよりは、言葉による説明があったほうがずっと早く楽しめるようになるのではないかと思っています。こんなのジャズじゃないとか言わないで、好奇心がある人は是非聴いてやってほしいと思う私です。
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